経営コンサルタントの国家資格”中小企業診断士”の情報が満載です。 中小企業診断士の広場

中小企業診断士の広場

活躍中の独立診断士へインタビュー

最前線の診断士

事業再生の現場から

文:鍜治田 良(中小企業診断士)

【第2回】見えてきた再生の可能性

私は中小企業診断士資格を取得後、日本生産性本部へ転職し、企業の収益性向上のお手伝いをしてきました。連載第2回となる今回は、事業デューデリジェンス(DD)完了までをレポートします。

"リトマス紙"の正体

コア人材は見つからず、現場のノリも悪く、調査を進めても明るい材料が見つからない中、私は事業再生の"リトマス紙"を置いてきました。具体的には、改善の宿題を出すことで、初めの宿題は刃具の管理でした。A社では、金属を加工するために刃具を使っています。工場見学をした際に刃具のごみ箱をのぞくと、まだ使えるものもたくさん廃棄されていました。そこで、次のような宿題を出したのでした。

  • 刃具の管理を集中管理にすること

自分の手元や機械の近くに置いていた予備の刃具を、工場事務所での一括管理にする。

  • 刃具の使用状況の見える化を行うこと

予備の刃具を入れたレターケースの上に、個人別に刃具を捨てる入れ物を用意する。そして、予備の刃具を取りにきた際には、必ず自分の廃棄容器に入れるというルールを設定し、周知する。

  • 管理職は個人の廃棄容器の中身を確認すること

管理職は、定期的に個人の廃棄容器を点検し、ムダな使い方をしていないかをチェックし、ムダな使い方をしている場合は、再教育を実施する。

  • 成果を見える化すること

刃具の使用量、金額など、成果を予備刃具置き場に掲示し、見える化する。やればできることを実感させる。

以上の宿題を1ヵ月でどこまでできるかを見て、事業再生の可能性を探ることにしたのです。

驚きの効果

宿題は、2つのポイントでチェックしようと考えていました。1つ目は、期日までに実行できるかどうかで、2つ目は実行した場合の効果です。すると、A社は4つの宿題をしっかりこなし、驚きの効果まで残していました。

社長は、経営計画で月の刃具費を90万円以内に抑えようとしていましたが、なかなか90万円を切ることができず、100~120万円で推移していました。しかし、4つの宿題をしっかりと実践した結果、60万円台まで減少。この結果に皆が驚き、A社は再生の感触を得たのです。これらの施策によって、刃具の使用の激しい仕事が増えたいまでも、刃具費が100万を超えることはまれになりました。

業績推移からの仮説

個人別の使用状況の見える化
個人別の使用状況の見える化

A社の10年間の業績推移を見ると、売上が倍だった時期でも営業赤字で、赤字体質は変わっていませんでした。普通に考えると、1回あたりの生産量が増えれば生産性は高まり、黒字でも良いところ、赤字。これは、長期間にわたる生産性の低さが赤字を引き起こしているものと考えました。

そこで、生産性が低かった原因をさらに分析し、付加価値額の問題、1人あたりの仕事量の問題に分けて調査することにしました。

メーター類のない飛行機

まずは、付加価値額の問題について調査を進めましたが、いきなり大きな壁が立ちはだかりました。稼働率、不良率など生産管理のデータがなく、その原因をデータで検証できない状態だったのです。また生産計画もなく、どの機械に仕事が詰まっているのかも見えない状況でした。いわば、メーターのない飛行機を操縦しているような工場運営だったのです。

これは、経営も同じです。部品ごとの加工時間の実績が把握できておらず、どの部品が黒字で、どの部品が赤字なのかがわからない状態でした。

また、どの顧客が儲かっているのかもわからない状態だったため、何をすれば赤字から脱却できるかの判断材料がないまま経営が続けられていました。

製造辞退

A社には採算に関するデータがなかったため、粗々、顧客別の採算を出すことにしました。幸いにも、A社には情報システムのプロフェショナルがいたため、会社にあるデータをつなぎ合わせて、商品別の限界利益率を算出。さらに取引先別に集計し、限界利益率を算出しました。

その結果、B社のメイン商品ではそこそこの限界利益率を稼ぎ出していたものの、すべての商品を合わせると大幅に限界利益率が減少することがわかります。これらが判明したタイミングで、B社の購買部と掛け合い、価格交渉を申し込むことを決めました。その結果、製造辞退と言うことになり、不採算の部品が戻されていきました。私は、値上げで落ち着くと踏んでいたため、意外な結果でした。

再度、生産現場へ

生産管理に関するデータがなく、客観的な裏づけはとれない状態でしたが、生産現場にどのような問題点があるかを探すことにしました。すると、生産現場は相変わらずモノであふれ、従業員の歩行が目立っていました。

仕掛品の入っているプラボックスをのぞくと、すでに納期切れのものや指定数量よりも多いものが見られ、工場裏の倉庫には錆びた材料も数多く見られました。受注生産なのに、必要以上に材料を買い過ぎている状況だったのです。

歩行の理由も突っ込んで調査しましたが、最初に工場に入ったときに聞いたとおりで、納期遅れのための対応でした。納期遅れは常態化しており、B社への納期遅れが発生し、ライン遅延の損害金を支払っていることも判明。A社の生産現場の大きな問題は、生産計画と納期管理の仕組みが整っていなかったことと、材料の買いすぎにあると考えました。

ホールディングスカンパニー

残業時間の推移
残業時間の推移

次に、A社の間接部門の業務プロセスを分析していくと、会社ごとに担当者が決められていました。メインのB社の担当、2番目に売上の大きいC社の担当、その他の会社の担当に分かれており、それぞれに材料発注者、出荷担当者が存在していました。たとえば、材料発注者は3名、出荷担当者も3名といった具合です。材料を置く場所や出荷場所も3ヵ所に分かれており、横の情報交換や連携はありません。そのため、同じような材料を二重で在庫したり、担当者それぞれが梱包したりと、非効率な仕事のやり方をしていました。

製造部門においても、マシニング、旋盤、溶接工程と各工程の部門の壁は厚く、部門間の応援体制ができていません。そのため、余裕のある工程は在庫を作りすぎ、忙しい工程は長時間にわたる残業という状況で、まるで別会社のようでした。そこで私は、「社長はAホールディングスカンパニーの社長ですね」と言い、改善の余地は大きいことを伝えました。

窮境原因

調査を進めながら、A社の社歴、業績推移、業務プロセス、問題点などの点を線につなげ、ストーリーとして考えていきました。そして、窮境原因を次のように結論づけました。

「A社は、企業実態・業績を把握するための経営管理、生産管理の仕組みが構築されていなかった。経営陣には、企業実態・業績を正確に把握し、業績改善のための適切な施策を立案・実行することが求められたが、それができていなかった。成り行きの経営になっていたことが窮境原因である」(実際には詳細に記述)

そして、窮境原因の除去の可能性については、次のように言及しました。

「経営管理、生産管理など内部管理の仕組みを構築し、経営のPDCAサイクルを回すことで、成り行きの経営から脱却できる」

こう結論づけて事業DDを完了し、次のステップへ進むかどうかの結論を待つことになりました。

(つづく)

【こちらもオススメ!】

※マーケティング会社を経営する中小企業診断士の活動を紹介しています。

※J-Net21のスタッフが全国の中小企業支援機関のWEBサイトを巡回し、補助金のお知らせやイベントのご案内など、新鮮な支援情報を紹介しています。

松原 和枝(まつばら かずえ)
合資会社インスティル代表。中小企業診断士。日本女子大学文学部国文学科卒業後、PR会社、英国留学を経て、三菱商事(株)、(株)ジェリココンサルティングに勤務。平成12(2000)年に合資会社インスティルを設立。一貫して流通業のマーケティングデータ分析業務に携わり、かかわった流通業のデータ分析は150社以上。平成18(2006)年よりマーケティング・コンサルティング事業を開始。平成21(2009)年4月中小企業診断士登録。

会社名 合資会社インスティル
所在地 東京都中央区銀座6丁目6-1 銀座風月堂ビル5F
ホームページ http://www.go-instill.com/
TEL 03-5537-7563
FAX 03-5537-5281