私は、2012年4月~2013年2月まで、国際協力機構(JICA)の派遣専門家として、カメルーンで中小企業振興政策を支援するアドバイザー業務に従事しています。最後のレポートとなる今回は、本支援によって起こりつつある変化や今後の課題に触れたいと思います。
カメルーンと言えば、2002年日韓共催ワールドカップでナショナルチームが、キャンプ地の大分県中津江村(現・大分県日田市中津江村)に遅れて到着した騒動を思い出す方が多いのではないでしょうか。
実は、「現地でミーティングを行う際、20~30分遅れは日常茶飯事」という状況には悩まされました。しかし、「ここで自分が爆発しては、中津江村の村長さんの努力が水の泡になる」と思いながら、いまも我慢し続けています。
開発途上国の支援をされている方々はおそらく、大なり小なり、似たような経験をされているのではないでしょうか。私も最初は、「これは単に、文化の違いと割り切ってしまってよいものか」と悩みました。そして、国際的な競争力を身につけたいのであれば、まずは時間や約束を守ることから始めるべきだと思い、第1次派遣期間の報告書に改善すべき点として指摘しました。その後、開催時刻前に会議室に現れる人も出てきたので、若干の改善(?)は見られているのだと思います。
ところで文化の違いと言えば、この国の人たちはこちらが笑いかけると、心からの笑顔を返してくれます。通訳のノアさんいわく、「カメルーン国民にはホスピタリティがある」そうで、笑顔に出会う頻度や質については、日本はちょっと負けているかもしれません。
平成24年7月には、MINPMEESAへ第1次派遣期間の活動結果報告会を行いました。約束や時間を守ることの指摘(苦言)も含め、ほとんど直球勝負で報告をしたところ、MINPMEESAのNo.2ポジションにあるSecretary-Generalから、「JICA専門家の言うことは、すべて真実だ。私たちはカメルーンの中小企業振興分野において、アントレプレナーである! 変わらなければならない」とのコメントがありました。私が投げた直球を真芯でとらえてくれたことに、感謝の気持ちを抱きました。
MINPMEESAは、首都ヤウンデのほか、カメルーンの最大都市ドゥアラと地方都市バフサム、バメンダ、ガロアに中小企業振興支援のパイロット拠点を設置することを検討しています。私たちは、将来このパイロット拠点ができた場合にどのような振興支援を望むかを、関連機関や中小企業経営者に直接ヒアリングするため、ドゥアラ、バフサム、バメンダのラウンドトリップ(6泊7日)を計画し、実行しました。
関連機関へのヒアリングでは、いままでの活動の不具合を指摘する意見もありましたが、中小企業振興支援の役割をMINPMEESAと共有したいという積極的な姿勢を示す機関が多く、心強く感じました。
また、MINPMEESAの支所の会議室に集まった起業家や経営者からの要望は、単に装置購入の資金支援を望む声等もありましたが、競合力を高めるための技術力強化支援やビジネスプラン作成の経営力強化支援を望む声等、積極的な意見もたくさん聴かれました。
私は、せっかく集まってくださった起業家や中小企業の皆さんに「何かお土産を」と思い、5SやKAIZEN等、日本の改善活動や経営診断等の中小企業支援活動について、説明をさせていただきました。5Sの説明では、乱雑に置かれた5つの箱の中から黄色いアメを探す時間が、整理・整頓で短縮できることを、簡単な実験で体感してもらいました。深くうなずいてくださる方が多く、こうした手法や考え方を受け入れてもらえる手応えがありました。
吉村 守(よしむら まもる)
1980年京都大学工学部卒業。大手メーカーで複写機用現像剤の開発・生産技術・製造・工場立上げ等、ものづくりを実践し、技術開発部門で戦略策定、予算管理、組織向上活動の企画等を経験する一方、在職中の1994年に診断士資格を取得。その後、プラスチック部品製造会社の製造部長、建設機械部品製造会社の営業部長等を経て、2009年に中小企業診断士として独立。国内中小企業の事業再生、新製品開発、経営革新等の各種支援・診断実績を持つ。アジア・東欧・南米・アフリカ等、開発途上国の中小企業振興支援活動に従事。著書に『ものづくり式経営革新の手法―企業が元気になるヒントを再点検』(労働調査会)。一般社団法人群馬県中小企業診断士協会、(株)ワールド・ビジネス・アソシエイツ所属。趣味は、NHKのど自慢の予選挑戦。