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被災事業者の復旧・復興支援に貢献する「岩手県中小企業診断士協会」

取材・文:松林 栄一(中小企業診断士)

【第3回】被災地のこれからと診断士の役割

取材日:2012年4月6日

このシリーズでは、岩手県の中小企業診断士が、東日本大震災で被災した事業者の復旧・復興に取り組む姿をお伝えしています。
 最終回は、岩手県の復旧・復興の課題と中小企業診断士の関わり方、さらには若手診断士やこれから中小企業診断士を目指す方へのメッセージについて、岩手県協会の宮健会長と猿川裕巳理事にお話を伺います。

被災地の現状とこれから

― 震災発生から1年強が経ちました。発生直後から今まで、現地の状況はどのように変わってきましたか?

猿川裕巳・岩手県協会理事
猿川裕巳・岩手県協会理事

猿川:当初、被災地に近く津波の直接被害はなかった遠野市などは、大船渡・釜石・陸前高田の各市に1時間ほどで行けるため、自衛隊や警察関係の方が多数泊まったことなどにより、宿泊施設やスーパーの売上が大幅に伸びました。その後は復興工事の建設需要が多くなりましたが、人件費や材料費の高騰が、復興の足かせになっています。「中小企業等グループ補助金」(第1回参照)の申請が認められて補助金の内示額が出たが、実際に着工しようと再度見積をとったら計画の1.5倍になっていて、新たに資金がないとできないという企業も出ています。

― 業種別に見た場合、今後についてどのように見ておられますか?

猿川:今までは水産加工関連、特に大船渡方面からの相談が多かったのですが、それらは相談申込み段階ではほぼ一巡したと思います。一方、商店のほうは、まだ被災地の土地利用計画が決まったばかりで、店を建てられず、復興のしようがない状態です。特に、陸前高田市・山田町・大槌町は壊滅的被害を受け、そもそもの店舗を建てる場所が決まらないので、センターに相談に行きようもありません。今後、街づくりの方向性が見えてくれば、商業・サービス業の相談案件が増えてくると思います。

― さっきお話に出た建設関係や、「東北の産品を買おう」「東北に行こう」など多額の広告費をかけて行われるキャンペーンが終わり、いわゆる「復興バブル」が去った後の状況が心配です。

猿川:ええ、かなり厳しい状況が岩手県には来ると思っています。そもそも被災前から、県北・沿岸地域の景況は、全国平均はもちろん、岩手県の平均と比べても悪かったのです。もともと経済的に弱い地域に震災があり、マーケットとしての沿岸地域人口も明らかに減少していますから、単純に補助金や債権買取のスキームを利用して元の姿に戻しても、先行きは厳しいでしょう。

成長への課題と中小企業診断士の関わり方

― 被災地の企業が震災前よりさらに元気になるための課題は、どの辺にあるでしょうか?

猿川:1つめは、当然ですが「付加価値」だと思います。県沿岸地域には、独自の付加価値を提供して高収益を上げている企業は、「かもめの玉子」で有名なさいとう製菓など、数えるほどしかありません。そのことは以前からの課題でした。もっと付加価値を高めた商品を製造し、売っていくスキームを考えなければなりません。

― 2つめの課題は?

猿川:流通業の本部や消費地の企業と連携する取り組みを、今回の震災を機会にやっていかなければなりません。岩手県は、魚介類や牛肉など、全国的に見ても素晴らしい食材を持っています。何十年も前から、販路が課題だ、流通が課題だと言われてきましたが、そこに本腰を入れて取り組むよい機会だと思います。

― これから、中小企業診断士はそれらの課題解決にどのように関与していくべきでしょうか?

宮健・岩手県協会会長
宮健・岩手県協会会長

宮:過去の赤字会社で被災した企業を前にして言うのは酷ですが、この機会に被災企業に対してではなく、企業経営者全員に対して、「企業はこうあるべきだ」というアナウンスをし、企業が儲かる仕組みづくりを支援するのが、中小企業診断士の役割だと思うんです。いつどんなことがあるかわからないから、常日ごろの経営で、儲かる仕組み作りを目標に掲げた企業努力をしていかないと、いざという時に資金を調達することもできません。その意味で、われわれ中小企業診断士の使命はとても大きいと受け止めています。

― 先ほども金融機関の話が出ましたが、資金調達のためのポイントをあらためて整理させてください。

宮:1つめは、過去の実績。これからどうなるのかを判断するうえで、過去にこの会社の経営はどうだったのかということが、最初に問われます。

2つめは、経営者の経営姿勢、経営理念。頑張ってこういう会社にしたいという理念をもって経営にあたっているかどうかです。

3番目が経営計画。経営計画は、結局は数字の話になりますが、その信憑性をどこに求めるかとなると、過去の実績と経営者の経営姿勢になるわけです。

キーワードは「数字」・「現場」・「連携」

― 最後に、若手診断士やこれから中小企業診断士を目指す方に、メッセージをお願いします。

阿部魚店にて
阿部魚店にて

猿川:1つめは、先ほども言いましたが(第2回参照)、「数字」に強くなること。財務的な知識、キャッシュ・フロー等に関して、銀行の融資担当者と同等レベルの知識は持つべきです。「中小企業診断士は財務に始まり財務に終わる」というのは、その通りだと思います。

2つめは、「現場」をいかに重ねるか。企業が生き残ってこられた理由、「強み」がしっかりと分析できれば、将来残る方法もわかります。現場では、その分析が非常に重要です。企業として捨てる部門・これから伸ばしていく部門の、棲み分け・判断のアドバイスができるようにならないといけません。

3つめは、「連携」です。現場を重ねていけば、連携したほうがよい部分が浮かび上がってくるし、企業間の橋渡しもできるようになります。その橋渡しをする際に、「相手の企業ははたして大丈夫なのか?」という部分があると思います。それを、1つめで言った数字に詳しいコンサルでないと、「大丈夫だ」と言い切れない。「相手企業の決算書などを拝見しましたが、大丈夫だと思います」と言えば、乗り気になってくれます。数字に強く、企業の良さが分析できて、連携してさらによくなる、というのができればよいと思います。

おわりに

阿部魚店にて
阿部魚店にて

盛岡商工会議所でのインタビューを終え、宮会長に市内の鮮魚卸売・小売業「有限会社阿部魚店」(阿部栄一社長)へご案内いただきました。震災時に在庫としてあった米や商品、貯水槽の水を使って弁当の炊き出しを行ったこと、震災の影響による業務筋の需要減少を何とか乗り越えたことなど、生々しいお話を伺いました。

「生鮮コンビニ」に脱皮を図ること、小売での小分けニーズに対応しつつ、残った半身を併設の居酒屋でうまく使うことなど、宮会長の実践的なアドバイスの数々が実践されており、社長が宮会長を信頼している空気がひしひしと伝わりました。

今回は、震災固有のお話から入りつつも、最後は中小企業診断士の役割や求められる能力について、普遍的な気付きをいただくことができ、貴重なインタビューとなりました。関係者の皆様に心より感謝申し上げます。どうもありがとうございました。

(おわり)

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宮 健(みや けん)
早稲田大学商学部卒業後、岩手銀行入行。昭和40年診断士登録。金融支援を中心に、経営計画書作成支援等を行う。講演活動、新聞のコラム執筆、岩手ケーブルテレビジョンへの出演等に加え、『二足のわらじ~元銀行員の逆説的人生論~』(文芸社)、『新・ズバリ寸評~東日本大震災編~』(日刊岩手建設工業新聞社)など11冊の著書がある。平成13年から診断協会岩手県支部長、現在岩手県協会の会長及び日本経営診断学会理事・東北部会長を務める。
・宮経営コンサルタント事務所 http://www.ictnet.ne.jp/~miyamiya/

山火 弘敬(やまび ひろたか)
高崎経済大学卒業後、岩手県庁に勤務し、中小企業課長、経営金融課長等を歴任。昭和53年診断士登録。制度融資にかかる診断を実施。平成15年岩手県中小企業再生支援協議会勤務、平成17年「山火中小企業診断士事務所」を開設。岩手県協会副会長のほか、岩手県工業技術センター監事(非常勤)、日本経営診断学会理事等を務める。