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活躍中の独立診断士へインタビュー

最前線の診断士

被災事業者の復旧・復興支援に貢献する「岩手県中小企業診断士協会」

取材・文:松林 栄一(中小企業診断士)

【第2回】「岩手県産業復興相談センター」でも、地元診断士が活躍

取材日:2012年4月6日

このシリーズでは、岩手県の中小企業診断士が、東日本大震災で被災した事業者の復旧・復興に取り組む姿をお伝えしています。
 第2回は、「岩手県産業復興相談センター」(以下、「相談センター」)の業務について、岩手県協会の山火弘敬副会長(相談センター副統括責任者)と、猿川裕巳理事(相談センター統括責任者補佐)にお話を伺います。

「岩手県産業復興相談センター」の成り立ちと参加するまで

― まず、相談センターができた経緯について教えてください。

山火弘敬・岩手県協会副会長
山火弘敬・岩手県協会副会長

山火:平成23年8月、岩手県と経済産業省の間で、二重債務問題などの相談をワンストップで受け付け、東日本大震災の被害を受けた事業者の再生を支援するために、中小企業再生支援協議会の体制を大幅に拡充することが合意されました。これに基づいて、相談センターが設置され、同年10月7日に相談業務を開始しました。相談センターの本部は、中小企業再生支援協議会と同じく盛岡商工会議所にあり、他に12の被災市町村の商工会・商工会議所にセンターの事務所があります。

― 相談センターはどのような方々で構成されているのですか?

山火:メガバンク3行から各4名、地元金融機関の現役及びOB、政府系金融機関から派遣された方、盛岡商工会議所の職員、中小企業診断士・税理士・公認会計士です。全部で43名ほどのチームです。

― 相談センターに中小企業診断士として参加なさったのは、どのような経緯からですか?

相談センター開所式
相談センター開所式
(北神圭朗・経済産業大臣政務官ご挨拶)

山火:平成23年7月の時点で、中小企業庁の丸山進経営支援課長が岩手県を訪れ、いまお話しした方針について宮会長が説明を受けました。その後、8月に東北経済産業局への陳情を経て、9月に盛岡商工会議所から正式に岩手県協会に対して、3人の中小企業診断士を派遣するように要請がありました。これを受けて、協会所属の中小企業診断士に募集をかけ、計6名が採用されました。

― 相談センターのお仕事は常勤とお聞きしましたが、週何日勤務なさるのですか?

山火:相談センターの中小企業診断士には、勤務日が週2日から週5日の者までいます。私の場合、宮会長と話して「岩手県のために私自身も何かしなければ」という思いから、当初は週2~3日勤務で申し込みました。岩手県内にはプロコンが少ないことから、結局は週5日になりました。以前は岩手県庁で産業振興担当を務めていましたので、県内の企業のためにという使命感があり、まさに老骨に鞭打って(笑)、週5日の仕事に向かっています。

猿川:私の場合、契約は週3日ですが、債権買取の交渉が大詰めに入った時など、かなり仕事が立て込むことがあり、週5日相談センターに顔を出すことも結構あります。自分のクライアント企業に対する仕事は夜か土日にやっているので、最近ほとんど休めなくなっています(笑)。

相談センターの役割、仕事の大変さとは?

― 相談センターの組織と仕事の流れを教えてください。

相談センターの活用イメージ
相談センターの活用イメージ

山火:大きく「窓口相談グループ」と「債権買取支援グループ」の2つに分かれています。「窓口相談グループ」は、地銀OBと中小企業診断士が中心となっており、企業の相談を受けて被災状況や経営上の課題を把握したうえで、支援施策の紹介など各種のサポートを行います。その中で債権買取の可能性のある案件は、「債権買取支援グループ」が引き継ぎ、買取に向けて必要となる金融機関との調整や本格的な事業計画の作成をサポートしていきます。

― では、「岩手産業復興機構」とはどういう機関で、相談センターとの関係はどうなっているのでしょうか?

山火:「岩手産業復興機構」は、平成23年11月に岩手県・中小企業基盤整備機構・地域金融機関の共同出資により設立された債権買取のための機関で、組織形態は投資事業有限責任組合です。岩手産業復興機構は、債権を買い取り、一定期間弁済を凍結した後、業況を確認し、一部債権を放棄のうえで残債を金融機関に売却することになります。相談センターから、債権買取の可能性のある案件について、岩手産業復興機構に債権買取の要請を行います(図参照)。

― 相談センターのお仕事では、どんなご苦労がありますか?

山火:津波で被災した沿岸部の多くは、盛岡市から100キロ強あり、移動には片道2時間以上かかります。被災事業者に「盛岡まで来てください」とはとても言えないので、各市町村に赴いて何度も説明会や相談会を行ってきました。相談後も、担当者は現場との往復が多くなります。広い岩手県ならではの大変さかもしれません。また、先ほども話に出ましたが(第1回参照)、状況を把握するのに必要な資料の多くが流出してしまい、過去の数字を揃えるだけでも一苦労で、すぐに綺麗に片付くような仕事は全くない状況です。

相談センターのこれまでの実績と、支援活動での気付き

― 相談センターのこれまでの実績を数字で見ると、どのようになっていますか?

相談センター開所式
相談センター外観

山火:平成24年3月末時点で、相談件数が述べ260件、現在進行中が160件、債権買取が6件、リスケジュールが5件、というのが主なところです。

― 一部で「債権買取の件数が少なすぎるのでは?」という質問が出たと伺いました。現場で支援する担当者として、いかがですか?

山火:債権買取だけが目玉のように報道され、誤解を受けている部分もあるのではないでしょうか。債権買取の成立には、金融機関が納得するだけの経済合理性が求められます。過去のキャッシュ・フロー実績をもとに、今後5年間のキャッシュ・フローを求め、それをDCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法で現在価値に割り引きますが、その結果が金融機関の納得する基準に達する案件は限られるのです。

猿川:相談センターでは、買取になる可能性が少しでもあれば、事業計画の策定支援までやりますが、結果的に買取に至らず、リスケジュールやDES(債務の株式化)・DDS(資本的劣後ローンへの転換)になっても、最後まで支援します。債権買取の実績は6件ですが、事業計画の策定支援がリスケジュールやニューマネーの融資に結びついたという数を含めると、相当な数になります。さらには、先ほどご説明した「中小企業等グループ補助金」(第1回参照)の活用や、それでも1/4が残る自己負担分を「高度化事業」での資金調達でカバーするなど、施策の活用を含めて総合的にアドバイスしています。

― 相談センターを通して被災企業を支援する中で、感じたことを教えてください。

相談センター外観
相談センター外観

猿川:あらためてわかったのは、金融機関の見方・考え方を把握していないとダメだということです。どの債務者区分になった時に、金融機関はどういう対応をせざるを得ないのか、というのが現実としてあります。それを抜きにして「お金を貸して」という提案をする中小企業診断士は、金融機関に「この人、わかってないな」と思われて、終わりなんですよね。

― なるほど、金融機関の立場をわかったうえで交渉するということですね?

猿川:そうです。そのあたりを知って支援しないと、結果的に中小企業者に対する支援になりません。金融機関として貸せないのが明らかなのに、貸してくれといってもしょうがない。「向こう側の事情」もわかったうえで、事業者の立場に立てるコンサルタントにならなければならない。それが、今回相談センターに入ってみて、よくわかりました。

(つづく)

【参考URL】

山火 弘敬(やまび ひろたか)
高崎経済大学卒業後、岩手県庁に勤務し、中小企業課長、経営金融課長等を歴任。昭和53年診断士登録。制度融資にかかる診断を実施。平成15年岩手県中小企業再生支援協議会勤務、平成17年「山火中小企業診断士事務所」を開設。岩手県協会副会長のほか、岩手県工業技術センター監事(非常勤)、日本経営診断学会理事等を務める。