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40年間の企業経営と、還暦を過ぎてからの診断士受験―北原慎一郎さん

取材・文:秋田 舞美(中小企業診断士)

【第3回】資格取得にかける覚悟と可能性

取材日:2015年4月30日

北原慎一郎さんにお話を伺う3回目。最終回となる今回は、年齢を重ねてからの資格取得の可能性について、そのメリット・デメリットを含めてお話しいただきました。

―年齢を重ねてからの資格取得で大変だったことやデメリットはありますか。

まずは、受験勉強ですね(笑)。何と言っても、還暦を過ぎてから知識を詰め込むわけですから、覚えられない。1日の勉強時間は平均13時間近かったのではないでしょうか。

どうしても覚えなければならないエッセンスをA4用紙に大きく書き出して部屋に貼り、毎日それを読み上げてから勉強を始めていました。けれど用紙はどんどん増えていきます。結局、毎朝5時に起きて1時間は読み上げに使っていました。

しかも無謀なことに、合格した年は4月から北海道大学公共政策大学院にも入学していまして。4-7月は、大学院の授業と中小企業診断士の受験勉強との並行作業でしたから、我ながらよく耐えたと思います。それまでの貯金が効いていた部分もありましたね。

―経営の経験が活きた科目や得意・不得意科目はありましたか。

決算書をずっと見てきましたので、会計はできるだろうと油断していたのです。ただ、BSとPLになってからはわかるのですが、体系立った簿記の知識が薄いため、仕分けがわからない。森は見られるけど、木は見られないのですね。

逆にITは、出身学部が工学部電気工学科でしたので点数を稼げました。確か1年目で通ったと思います。ただし、後で気づいたのですが科目合格は結構曲者ですよね(笑)。得点源になる科目を翌年から外して勝負するわけですから。

―弁護士さんなら法務、税理士さんなら財務と、全体の得点を上げるために免除科目をあえて受ける方も多いといいますね。受験勉強はどのような体制で行いましたか。

受験校に通学したかったのですが、札幌ではビデオ視聴しかなく、在宅でのビデオ視聴とテキストを組み合わせて勉強をしていました。ビデオは、1回目は通しで見られるのでよいのですが、復習や再復習の際に同じだけの時間を取られるのは効率的ではありませんので、2回目からはテキストを中心に使用していました。

―受験勉強以外で大変だったことはありますか。

診断士資格取得に限りませんが、年齢による体の硬直に比例して精神的な硬直を感じる場面もありました。わかりやすい例で言うと、まだ自分が経営者として業務を行っていた際に部下の話を聞けなくなっている。話に辛抱ができなくなるのです。

若い頃は社員が報告に来れば最後まで聞いていられました。実際、最初の数分を聞けば結論はわかっているのです。けれどその社員がどのような思いで話しているかが問題で、本人が話し切るまで聞かないと納得感が生まれません。ホウレンソウ(報告・連絡・相談)は機械連絡ではなく、コミュニケーションですからね。それなのに「聞く」という行為を我慢できなくなっている自分を感じていました。

ただでさえ精神が硬直した状態でいちから物事を始めていくのはエネルギーのいることでした。この年齢で中小企業診断士を目指されるのであれば、高い地位にいらした方も少なくないでしょう。それが企業や役職という看板がなくなったら、途端に拠り所がなくなるのです。

いちから関係を作っていくのは意義のあることで、試されていることでもありますが、自身を客観視しながら人との関係を作っていくのは、硬直した精神が慣れるまでは大変な作業だと思います。

―プライベートへの影響はありましたか。

前述したとおり養成課程入学直前にがんの摘出手術をしました。私はスケジュールの心配をしていた程度だったのですが、妻にとっては結婚以来初めて夫が半年不在にすることになったうえ、がんの発見、入院準備、手術、退院、そして入寮の準備ですからね。怒涛の時間を過ごしている間はまだよかったのですが、すべてが過ぎれば寝室に自分1人で悪いことしか考えられませんよね。

さらに私の資格取得は、若い人とは違って仕事やお金のために絶対にやらなければならないことではない。妻は繊細なタイプでしたので、どうしても無理ならやめて帰るしかないかと思ったときもありました。

ただ、そうすると1次試験の苦労を知っている妻が自分を責めてしまうことも想像できました。だから無事に成就して帰らざるを得ません(笑)。「君の協力のおかげで、大変だったけれど僕は資格を取れた。頑張ってくれたね」と。

そこで取ったのが人生で初めての行為でした。朝8時と夜7時、1回20分ずつ自宅に電話を入れたのです。それまでは電話は用事を伝えるツールだと思っていましたので、電話で雑談ができることを初めて知った(笑)。恋人同士だった頃にも私たちにはなかった文化でしたね。

―養成課程によって思わぬ副産物がありましたね(笑)。資格を取得後、北原さんが多方面でご活躍される様子を拝見しています。

中小企業診断士の理論政策更新研修のテキストで、事業承継の項目を執筆させていただくことができました。また、旧知のお付き合いや大学校での仲間を通じて講演依頼もいただけています。鳥取、富山、秋田、宮城など地元の北海道以外からもお声をかけていただいています。

そのほかにもお付き合いのあった中小企業基盤整備機構では、窓口相談と継続専門家派遣を担当させていただいています。さらに事業承継については経験者、研究者、支援者と3つの立場から物事を見つめていたいと思いまして、「事業承継による経営革新の可能性促進要因」という論文も発表し、日本経営診断学会で診断事例優秀賞をいただくこともできました。

-事業承継について、「経験者、研究者、支援者の側面から」というお言葉がありましたが、経営全般についても経営者としての「経験者」かつ「支援者」としてのアドバイスは、企業にとってこれ以上ない貴重なものですよね。今回はインタビューにお付き合いいただき、ありがとうございました。

取材を終えて

(1)受験勉強、(2)ご家族との関係、(3)健康面やライフプラン、(4)精神的な硬直化(初心者として看板を創り上げることの難しさ)、(5)若い仲間とのコミュニケーションなど、さまざまな課題を提起いただいた今回のインタビュー。同時に、経験を積んだ方にしかできないメリットも語っていただきました。
勘どころを押さえた提案と中小企業診断士の体系的知識の融合。これは経験豊富な方にこそ実現が可能なものです。ライフプランにはさまざまなご事情もあるかと思いますが、診断士受験という選択も一案として考えてみてはいかがでしょうか。

(おわり)

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プロフィール

北原慎一郎(きたはらしんいちろう)

22歳で北原電牧(株)代表取締役に就任。平成23年、子どもへの承継を断念し、M&Aで株式譲渡をして代表取締役を退任。平成26年日本経営診断学会診断事例優秀賞受賞、平成27年度中小企業診断士理論政策更新研修テキスト(親族外事業承継の支援)執筆など多方面で活躍中。M&Aシニアエキスパート。