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40年間の企業経営と、還暦を過ぎてからの診断士受験―北原慎一郎さん

取材・文:秋田 舞美(中小企業診断士)

【第2回】豊富な社会人経験、そして経営者だったからできること

取材日:2015年4月30日

北原慎一郎さんにお話を伺う2回目。今回は、社会人としての豊富な経験や、長年の経営者としての経験が活きる場面について伺いたいと思います。

―養成課程を通じて、実感されたことはありますか。

1次試験を中心に理論を体系的に学んできましたが、やはり理論だけでは相手を説得できないということですね。何が社長の心を動かすのか。非の打ちどころのない理論を出してもそれだけではダメなのですよね。“事実出し”が必要なのです。

―どんなに素晴らしい提案をしても、実行するかどうかを決めるのは経営者です。実行がなければ、提案の良否にかかわらず結果は出ません。戦略を立てる能力とモチベーターとしての能力は、コンサルタントとしての才能の両輪だと思うのですが…。

モチベーターとしての能力ももちろんですが、明確な事実出し、数字での説得力はやはり必要だと思います。たとえば、実習で行った案件なのですが、比較的高い年齢層に好まれている食品がありました。この食品は、年齢階層ごとの消費量に大きな差があって、若い人はあまり食べていません。

そこで、国が出している市町村の人口予測と家計調査による年代ごとの当該食品の消費量を使いました。食品の消費量が年代依存(いまは30代で食べない人も50代になれば食べる。消費は年齢の差異)なのか、世代依存(いま30代の人は50代になっても食べない。消費は世代・成長時文化による差異)なのかを検証したのです。

年代依存と世代依存を検証するには、家計調査のいまと5年前、10年前を比べると想像がつきます。そしてこの場合、消費量は年代に依存しない可能性が高かった。つまり世代依存と想像されるのです。30代の人は50代になってもそのままで、その食品を消費するようにはならない。

そこで、高い精度で出されている各市町村別の人口予測をもとに、売上予測を計算したのです。もちろん世代依存での数字を、です。一般論ではなく、実際に販売している地元市町村での具体的な数字ですから、インパクトはあったようです。

―そのほかに具体的な数字で経営者を納得させられた事例はありますか。

これも実習なのですが、下請企業(2次下請)に対し、元請企業(メーカーからすると1次下請)の状況を説明したこともありました。
実はこのデータは、国立国会図書館で見つけたのです。その結果、元請企業の業界シェアが低下していることがわかった。元請からの発注額だけではそのことに気づけなかったのですね。その分、他の元請(1次下請)企業のシェアが上がっていたため、販売戦略の見直しを余儀なくされたこともありました。

―社会人としての豊富な経験や長年の経営者としての経験を備えたうえで中小企業診断士となることのメリットについて、どのようにお考えですか。

簡単な言葉で言うと「勘」でしょうか。経営なり実務なりの経験があれば、経営者として必要なことがわかります。これはもう勘としか言いようがなくて、根っこの部分にある長年の頑張りが必要な情報を知らせてくれるのです。

営業には営業のノウハウや専門分野があるから、経験を積んでいると有利だとよく言われますが、その直接的なメリットに加え、「ここがにおうぞ!」という勘どころがわかることで、自分の専門分野以外でも知識の展開を図っていくことができるのです。そこに中小企業診断士としての理屈がついてくれば、事実をより体系的に戦略に結びつけていくことができるかと思います。

―現在、北原先生のご専門は事業承継ですが、承継についてもこのような事実提示でうまくいった事例はありますか。

インフラ整備の企業で、息子さんへの事業承継を見据えて10年、20年単位での業界状況に関するご相談がありました。これも"方程式"はありませんので勘が勝負でしたが、このケースでは国土交通省にある当該インフラの経過年数と評価データを検証しました。

実はインフラに対しては、維持補修を必要とするランク付けが公表されているのです。現在の経過年数とランクの分布表から10年後、20年後の経過年数とランクの予想値を出し、維持補修を要するインフラ設備の比率を計算しました。

まだまだ将来予測ができていない業界ですので、予想値で出すことで事業承継に対する覚悟や考え方も変わっていったようです。

経営者が知りたいところのデータをどのように引っ張ってくるか。データから売上に直結する数値をどのように導き出すか。これが勘どころですよね。

―さまざまな方との交わりがある養成課程ではどのような刺激を受けられましたか。

6カ月の養成課程は非常によかったですね。30代の友人もたくさんできましたが、どうすれば30歳以上の年齢を超えて友情が芽生えるか、どのような距離感でどのように付き合えばいいのかと考えました。

私の代の生徒はほとんどが金融機関系の方で、コンサルタントとしての独立希望者は100人のうちわずか8人でした。「ともに戦い抜いた戦友」という思いもありますが、私にとっての彼らは事業承継の受け手と同年代ですので、どのような発想を持ち、どのように考えるかを間近で体感できたのはいまの事業承継のコンサルにも生きています。
事業承継では多くの場合、受け渡す側が私と同じくらいの年齢で、継ぐ側が30~40代ですので。

ベテランならではの「勘」という理論化の難しい分野と、中小企業診断士の知識という体系立った理論の相乗効果が成果に結びつくのではないかというお話でした。
次回は現実的なデメリットについてもお聞きしつつ、年齢を重ねてからの資格取得の可能性について伺いたいと思います。

(つづく)

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プロフィール

北原慎一郎(きたはらしんいちろう)

22歳で北原電牧(株)代表取締役に就任。平成23年、子どもへの承継を断念し、M&Aで株式譲渡をして代表取締役を退任。平成26年日本経営診断学会診断事例優秀賞受賞、平成27年度中小企業診断士理論政策更新研修テキスト(親族外事業承継の支援)執筆など多方面で活躍中。M&Aシニアエキスパート。