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【第5回】経営法務

取材日:2013年10月7日

今回は、試験2日目の最初の科目である「経営法務」について、コンサルティングの現場でどのように活用されているのかをお伺いしました。

コンサルティングにおける法務の必要性

司会:この科目は、「試験設置の目的」(注:本文最後に掲載)に、「有資格者に橋渡しするための最低限の実務知識を有していることが求められる」と記載されています。法律はすべての企業活動にかかわるため、知っておくべきとは思いますが、コンサルティングの現場ではどのような使い方をされているのでしょうか。

林 真木子さんと早坂 裕史さん
林 真木子さん(中)と早坂 裕史さん(右)

早坂:組織再編に絡む助言をすることは結構あります。会社同士の関係をどのように組み立てるか、ですね。たとえば、新会社を作ってご子息を代表者にする際、資本関係を考え、事業の将来像に沿って再編方法を提案したことがありました。事業譲渡や合併、株式移転などの方法がありますが、クライアントの戦略や経営資源に照らし合わせて、最適な手法を提言します。もちろん、契約書作成などは弁護士に依頼しますが、経営戦略に沿って組織をデザインするのは中小企業診断士の仕事ですので、組織再編の知識は必要です。それから、実務では商標も非常に重要で、商号やブランドを商標登録せずにいると、他社に後から登録され、社名からホームページまですべて変えざるを得ない事態につながってしまいます。ですから、クライアントには商標の重要性を説明して、登録を勧めるようにしています。弁護士や弁理士で、個別のクライアントの経営戦略まで考慮してアドバイスをしている人は多くありませんので、中小企業診断士としては、商標の詳細まで知っておかないと適切な助言はできないと考えています。この組織再編と商標が、実務に直結していますね。

司会:コンサルティングにあたって、組織にせよ商標にせよ、中小企業診断士は戦略的な位置づけを明確にして、助言しないといけないわけですね。民法はいかがでしょうか。

林:私は、前職では信託法や不動産関連の法律に関連する業務を行っていました。現在、それらの法律知識が直接役立つことはほとんどありませんが、なぜその法律が作られたのか、何のためにこの条文があるのかといった、立法趣旨や条文の意図を把握することが身についているおかげで、物事を体系的に理解する・全体として捉える思考方法ができるようになりました。また、お客様に法律や条文を説明する際は、その条文が言いたいことを自分の言葉に直して、わかりやすく表現するように心がけていました。中小企業診断士になってからも、補助金の申請や執筆、調査など、内容はもちろん、形式面でもルールに沿って、かつわかりやすい文章を書く必要がある場面がとても多いため、そのことがとても役立っています。

弁護士や弁理士も中小企業診断士の世界へ

司会:他士業の方が診断士資格を取得するケースも増えているようですね。

早坂:そうですね。最近は弁護士が、中小企業を幅広く支援するために診断士資格を取るケースが増えています。私は行政書士の資格も持っていますが、法律を武器にしたコンサルティングをやっていこうとは思っていません。

矢田:弁理士が診断士資格を取ることも多いですね。

早坂:弁理士は商標の業務をメインにしている人が多いので、企業の経営戦略やマーケティングを理解する必要性を感じているのではないでしょうか。

司会:弁理士と中小企業診断士の交流会でワークショップをやった際、中小企業へのビジネス拡大策を考える中で、3C分析やファイブ・フォースの切り口で説明すると、弁理士には新鮮に映ったようです。

創業支援にも必要

早坂:中小企業診断士は、会社の機関設計を理解しておかないと、創業支援などはできません。会社設立と経営のもっとも基本的な部分です。最初は自己資金も従業員も少ないため、譲渡制限会社で一人取締役にしておいたほうが、経営もシンプルで良いにもかかわらず、取締役会や監査役を設置しようという人もいる。公開会社を検討する人もいますが、そうなると費用はかかるし、経営が大変なことになってしまうため、すべてを説明して納得してもらう必要が出てきます。クライアントのために、会社の身の丈に合った機関設計を提案しないといけませんね。

林:創業支援セミナーをやらせていただいたことがありますが、個人事業の開始、法人の事業開始、届出・手続などについては詳しく説明しました。

新木:たしかに、創業支援に機関設計の知識は必要です。あまり意識していませんでしたが、そういった助言も大事ですね。

早坂:会社設立には司法書士がもっともかかわりますが、基本的には登記だけで、機関設計のアドバイスまでは扱っていないケースが多いようです。

司会:会社設立に関する業務全般は、どの士業が専門なのでしょうか。

早坂:登記は司法書士、労務関連は社会保険労務士、許認可業務は行政書士といったように、それぞれの業務管轄で縦割りです。ですから、中小企業診断士が窓口になれば、社長が複数の専門家とやりとりをせずに済みます。私たちが社長と一対一で話をして、おおよその方向性を決め、あとの業務はそれぞれの士業に渡せば、社長の負担を軽減できます。

法務は起業支援のベース

早坂:中小企業は、コスト面で大手の法律事務所にはなかなか相談しづらいですから、やはり中小企業診断士が最初の相談先ですね。

司会:中小企業診断士の営業的な側面から考えても、法律を知っておくべきということですね。

早坂:法律を前面には出しませんが、創業支援などでベースの知識として使う、ということです。

新木:やはり中小企業診断士にも、法律は外せないものだと思います。浅くとも全般的に学ぶことで、法律的な側面でもアンテナを立てておくことができます。まさに「科目設置の目的」にあるように、自身は専門ではない分野でも、専門家へ橋渡しができるようにならないといけませんね。法律は1つのミスが大きな問題につながりかねないことを考えると、中小企業診断士もきちんと把握しておくべきだと思います。ただ試験内容は、中小企業診断士が実際の現場でかかわっていることよりも難しいかな、と思いますが(笑)。

攻めだけでなく、守りも固める

早坂:身近なところでは、ネット通販業などを支援する際は、消費者契約法などを知らないといけません。誤認表示などは大きな痛手になりますので、ホームページをきちんとチェックして、問題になりそうな点を指摘することも重要です。販売という攻めの支援も重要ですが、守りの部分でもしっかり助言するのが、中小企業診断士の役割だと思います。

林:現場では、フランチャイズ契約やライセンス契約なども知っておいたほうが良いと思うことがあります。

早坂:不勉強な人よりも、法律をしっかり勉強している人のほうが有利なのは言うまでもありません。自分1人ですべてを対応する必要はないにしても、ひと通り「このような法律がある」と知っておくことは、大切だと思います。

矢田:企業経営理論で学習する範囲ですが、最終的には弁護士や社会保険労務士に渡すにしても、労働トラブルの現場で最初に対応するのは、中小企業診断士だったりしますね。

立法の趣旨から理解を深める

司会:中小企業診断士と法律があまり結びつかず、受験勉強のときはあまり興味を持てなかったのですが、良い勉強法があれば教えてください。

矢田:丸暗記のイメージがあるため、受験生で苦手としている人は多いですね。私も受験生時代は、理論ではないため、なぜそのように決まっているのか、意味がよくわかりませんでした。

早坂:たとえば、現在は合併の効力発生日を日曜日にすることも可能です。これはなぜかというと、以前は4月1日が日曜日の場合、会社合併登記は翌日にしなければいけませんでした。これは、登記所が日曜日は休みだからです。その場合、3月決算ならわずか1日のために、両社が決算をしないといけませんでした。一方で、登記所が開いている金曜日の3月30日に登記をすると、合併後の新会社で、3月31日の1日分だけ決算することになってしまいます。どちらも非常に煩雑な作業となります。そのため、実務上の要請で、合併の効力発生日は「契約で定めた日」となっていて、両社が合意すれば、日曜日でも合併の効力が発生するわけです。決められた背景には必ず何らかの理由があり、それを知っていると面白い。法律は必ず目的や理由があって作られているので、その目的から理解するようにすると、知識が身につきやすいと思います。立法の趣旨が大事、ということです。

司会:そのように目的や趣旨を知れば、理解が深まって知識も定着しやすいですね。

(つづく)

【参考】

「試験科目設置の目的と内容」(「平成25年度第1次試験案内」より)

5.経営法務
(科目設置の目的)
創業者、中小企業経営者に助言を行う際に、企業経営に関係する法律、諸制度、手続等に関する実務的な知識を身につける必要がある。また、さらに専門的な内容に関しては、経営支援において必要に応じて弁護士等の有資格者を活用することが想定されることから、有資格者に橋渡しするための最低限の実務知識を有していることが求められる。