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【第1回】経済学・経済政策

取材日:2013年10月7日

今回は、「実務に生きる1次試験知識」と題し、1次試験の学習内容がコンサルティングの実際の場面でどのように活かされているか、全7科目について実務経験豊かな中小企業診断士の方々にうかがいました。第1回目は、「経済学・経済政策」です。

司会:診断士登録要件としては、2次試験合格もしくは養成課程を修了するにしても、1次試験合格が必要で、これら7科目は中小企業診断士の基礎知識体系に位置づけられていると思います。そこで本日は、プロコンサルタントとして活躍中の皆さんが、実務の現場において1次試験での学びをどのように使っているのか、科目ごとにお話しいただき、学習の意義や楽しさをお伝えしたいと考えています。まずは、自己紹介からお願いします。

座談会風景_全体

矢田:矢田木綿子です。2008年診断士登録で、現在はコンサルティングと企業研修の会社に勤務し、系列の診断士受験校で講師もしています。会社自体が診断士業務を行っているため、コンサルティング業務や講師業務が本業です。診断士受験用参考書の執筆や大学での講義も行っています。

新木:新木啓弘です。2007年登録です。情報関連企業に勤務していましたが、5年前に独立しました。私の強みはやはり情報分野ですが、企業の経営資源のうち、「ヒト」という部分は代替ができず、その会社を特徴づける重要な要素と感じて、最近はヒトと情報の両面でコンサルティングをすることが増えています。また、2次試験合格後に行われる実務補習の指導員もしています。

早坂:早坂裕史です。2010年登録です。もともと独立して人事関係のコンサルタントをしており、現在はマーケティング支援や補助金申請支援を中心に活動しています。診断士受験校の講師でもあります。法律が好きということもあって、行政書士資格も保有していますが、今後はそちらの仕事も広げていきたいと考えているところです。

林:林真木子です。登録は2012年で、同年に独立しました。現在は、主に2つのコンサルティンググループのメンバーとして活動しており、埼玉県の女性起業支援施設でのアドバイザー業務などを行っています。また、キャリア・カウンセラーとして、就職相談や転職相談を受ける仕事もしています。以前は金融機関で不動産関連の仕事をしていました。実務修習を受けていないため、登録はしていませんが、不動産鑑定士試験にも合格しています。

経済学は本質を捉える重要な軸足

司会:それではまず、試験最初の科目である「経済学・経済政策」についておうかがいします。この科目を学習したことによって、コンサル実務での効果はありますか。実務から一番遠いようにも感じますが、なぜ試験科目に入っているとお考えですか。

矢田:私も受験生の頃は、「なぜ経済学を勉強しないといけないんだろう」と思っていましたが、結果として非常に役立っています。クライアント企業の市場や競合環境を考える際、企業経営理論で学ぶ理論はもちろん使いますが、大きな視点では経済学の考え方がベースにあると思います。たとえば、クライアントが寡占市場の企業だったとします。経済学では、寡占市場の需要曲線が屈折していることで、販売価格をむやみに上げることが非常にリスクを持っていることを学習します。これは、クライアントを知るうえで重要な考え方を学んでいると言えるでしょう。ほかにも、需要の価格弾力性という考え方は自然に思えますが、経済学を学んだからこそ理屈として理解できるのではないでしょうか。事象の本質を捉える際に前提となる考え方、という感じがします。私は受験校で経済学を担当していますが、この科目は現実とつなぎ合わせてしまう方ほど、嫌いになる傾向があるようです。まずは現実を離れてゲーム感覚で把握し、その後で現実と照らし合わせてみると理解が早いかもしれません。

司会:経済学では単純モデルを使うため、現実とは違うと思いがちですが、そのような一面的な考え方が実は役立つということでしょうか。

矢田:経済学は"箱庭の学問"と言われていて、縦軸と横軸しかないとか、X財とY財しかないといった状況を作って考えるため、現実とは矛盾が出ます。ただ、たとえば「経済財政白書」を読むと、起きている事象を経済学の枠組みにあてはめて、統計を作っていることがわかります。何か軸がないと、分析しづらいですね。コンサルなどで人に説明する際は、まず大きなフレームワークにあてはめて説明し、そこから詳細に入るほうが理解していただきやすいので、経済学で学んだ内容を使っています。

コンサルティングに役立てる

早坂 裕史さん
早坂 裕史さん

早坂:私もすごく役に立っていますね。日本は内需が落ち込み、人口も減ってきています。これから企業は、ますます海外需要を取り込んでいかざるを得ません。いま支援している中小企業も海外進出を進めていますので、為替のことも知っていないと、海外関連の支援はやりにくい。実は、経済学を試験科目としている資格試験は少なくて、企業支援の立場で経済学の基礎を学ぶのは、中小企業診断士しかいないんです。経済学の勉強はやっておくべきですね。

新木:経済は単純な曲線で表せるものではないとは思いますが、振り返ってみると、消費者行動や企業行動といった部分は、コンサルの考え方のベースになっていると思います。直接的に引用することはほとんどありませんが、考え方としてはよく使っています。特に統計などの指標を読む力は、外部環境を分析する際に必要です。経済学の基本を身につけることで、指標を読む際に気づきが増えました。

因果関係で理解する

早坂:経済学は因果関係が重要な学問ですので、自然とロジカルな考え方を養うことにもつながります。論理的思考を問われる2次試験にも役立ちますし、実は「中小企業白書」も因果関係で理解できます。ある年のある業種の数値に特徴があったとすると、背景に何があったのかを考えることで、理解が深まります。単純に「金融政策をこうすると、GDPがこう動く」というように、原因と結果だけを丸暗記すると、この科目は役に立ちません。金融政策によって何が起きてGDPが変動するといったように、因果関係を意識しながら勉強するといいですね。

林 真木子さん
林 真木子さん

林:私も役に立っていると思います。この勉強をしなかったら、社会全体を俯瞰する機会がなかったと考えています。目の前のタスクをやるというだけでなく、自分で経営する、ビジネスを行うというときは、どこかで物事を引いて見る力がないと厳しいですね。ビジネスの基礎であり、教養となるのが、経済の学問ではないでしょうか。企業経営理論も幅広いですが、そこで学ぶフレームワークはすぐに使えるものです。一方、経済学はもっと深いところで効いていると思います。

経済学は思考のベース

司会:お話をうかがっていると、経済学で学んだ知識や理論が直接結びつくということではなくて、そこで学ぶ思考の方法、概念のようなものがベースとなって役立っているということですね。

矢田:どの科目にも共通しますが、1次試験はあくまでも基礎ですので、実務で使うときはもっとレベルアップさせて、さまざまな知識を有機的にひもづけした状態にしないといけないと思います。コンサル実務でクライアントと話す際、1次試験知識を即座に引き出して応用するのは結構難しい作業ですが、コンサル先で、先輩診断士が知識を組み合わせたオリジナルのフレームワークをパッと出すのを見ると、「なるほど、こういうふうに使うのか」とびっくりすることがあります。経済学の知識は、クライアントのことを必死に考え、もやもやしているときに、打開するきっかけになる気がします。感覚だけで何となく知っているのと、知識があってグラフが頭に浮かぶのとでは、大きな違いがあるということですね。

林:たしかに、クライアントに何か対応した際、後になって「経済学で言えば、こういう話だったのか」と気づくことがあります。

新木:現場で考えているときに、グラフを思い出したりもしますね。経済学を勉強した影響だと思います。「縦と横の軸をどう組み合わせようか」と考えながら描いた絵が、意思決定につながるようなものになっているように感じます。

新木 啓弘さんと矢田 木綿子さん
新木 啓弘さんと矢田 木綿子さん

矢田:経済学を勉強すると、グラフを書くことにためらいがなくなりますね。とりあえず何でも、タテヨコで書いてみようという気になります(笑)。

早坂:7科目中、唯一、過去から未来にかけて基本的なルールが変わらないのが経済学です。他の科目は法律をはじめ、学ぶ内容や傾向が変わります。そういう意味では、試験としてはお得な科目ではないかと(笑)。そう思って頑張ってほしいですね。

矢田:今年度の試験は特に難しかったので、苦手に思っている人もいるようですが、深く学んでいくと面白い科目ですので、ぜひ頑張ってほしいです。

(つづく)

【参考】

「試験科目設置の目的と内容」(「平成25年度第1次試験案内」より)

1.経済学・経済政策
(科目設置の目的)
企業経営において、基本的なマクロ経済指標の動きを理解し、為替相場、国際収支、雇用・物価動向等を的確に把握することは、経営上の意思決定を行う際の基本である。また、経営戦略やマーケティング活動の成果を高め、他方で積極的な財務戦略を展開していくためには、ミクロ経済学の知識を身につけることも必要である。