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診断士試験に必要な「矛盾を溶け合わせるバランス感覚」 書籍『受験生最後の日』×月刊『企業診断』連載「伝説の合格者たち」コラボレーション座談会

司会・文:堀切 研一(中小企業診断士)

【第2回】右脳と左脳を融和させる [1]

参加者:井上 龍司/小久保 和人/但田 真紀/渡辺 まどか(発言順)
司会・文:堀切 研一(中小企業診断士)

取材日:2010年8月8日

第一線で活躍されている中小企業診断士の皆さんが、受験の経験談や実務を織り交ぜて語る座談会は、時間を追うごとに白熱してきました。前回に引き続き、聞かれたこと「だけ」に答えるべき、という考え方について皆さんのご意見を伺いました。

捨てる勇気を持つ

司会:聞かれたことだけに答えるというのは、2次試験にも実務にも共通するという点で、コミュニケーションの本質なのかもしれませんね。小久保さんは、このことについて何か感じられたことはありますか。

小久保:私も渡辺さんの意見と近いですね。2次試験での一番のポイントは、文字数制限だと思います。聞かれたこと以外の余計なことを書くと、本当に必要なことが十分に書けなくなってしまいます。私は、仕事では思いついたことを全部言いたくなるタイプなので、それを払拭するのに時間がかかりました。

司会:それを払拭したときに、2次試験の模試の点数が上がるなどといった相関はありましたか。

小久保和人さん
小久保 和人 さん

小久保:そうですね。試験中の心構えが変わると思います。

司会:余計なことを言うのを止めようと、心構えをしておかないと、無意識で出てしまうものでしょうか。

小久保:自分の興味の有無を基準に話してしまうので、どうしても出てしまいます。何を基準に話すのか、自分でコントロールできるようにする必要がありますね。私のように、自分の興味がある方向へ話を持っていく人は、気をつけたほうがいいかもしれません。

井上:中小企業診断士になっても、言いたいことだけ話す人もいますよ。私はT3(Think!Think!Think!)という研究会を主宰しているのですが、プレゼンを1人5分と設定しても、ほぼ全員が時間をオーバーします。5分しかないのに、前振りで3分使ってしまう人もいます。

司会:前の人が失敗するのを、みていてもですか。

井上:はい。同じように失敗することも多いですね。リハーサルをやっていないことも原因の1つですが、先ほどお話があったように、話したいことを全部入れようとするのが本質的な原因だと思います。情報量が多いこと=いいことだと思われているのかもしれません。

司会:そもそも、評価の基準が違うんですね。

井上:報告書も、分厚いほどいいというわけではないですよね。むしろ、少ないページや少ない時間で本質を突くほうが優秀だと思います。そして、それを目指すと、捨てる勇気が必要となってきます。

司会:捨てる勇気...。

井上:はい。思い切って捨ててみると、簡潔に伝わるものです。

司会:それは2次試験だけでなく、プレゼンや報告書、ふだんの会話など、何にでも言えることなんでしょうか。

井上:そうですね。だから、聞かれたことだけに答えるというのは、とても大切です。捨てる勇気は、そのためのキーワードですね。

司会:それがないと、2次試験への対応は難しいですか。

井上:そうなると思います。ある講師の方から、「文字数は出題者のメッセージ」と教えていただき、目からウロコでしたが、その文字数にした意図があるはずです。だから、あまりに詰め込まなければならない場合は、出題者の意図から外れている可能性がありますね。

司会:なるほど。但田さんも、それについて感じられていることはありますか。

但田:2次試験は、素直に答えたほうがいいな、と思っています。大きくみせようとか、自分の考えはすごいとかいうのをみせる試験ではない、ということです。

受験生時代、『ふぞろいな合格答案』(同友館)などをみて、合格者の6割が書いていることを書けばいいんだな、と感じました。合格者の答案はすべて同じではありませんが、どうやら妥当なことを書いておけば点数が取れそうだ、と思ったんですね。ということは、合格者が900人ほどいるとすると、そのうちの600人が考えていそうなことを想像して書けば、素直で妥当な解答になるのかな、と。600人が書かないだろうことを想像してしまうと、かなりとがった解答で、外してしまう可能性が高い。とっぴな問題は、何とか解答をひねくり出そうとしてしまうので、気をつけたほうがいいと思います。

司会:2次試験では、そういう対応の仕方があるんですね。ふだん、経営支援をしている実務の現場では、どうでしょう。

但田:私が支援しているお客様は、小規模企業が多いので、当たり前のことを当たり前にやっていただくようにお話しすることが多いですね。とっぴな内容を伝えることは、ほとんどありません。

司会:具体的には、どのようなアドバイスをされているんですか。

但田:たとえば、素晴らしい技術を持っているので、お店のPOPでもそれを伝えましょう、といった感じです。おそらく、中小企業診断士なら誰もが、販売促進に問題がある、と言うケースでしょうね。

実務補習を受けたとき、「あるべき論」的な問題点抽出や改善策の方向出しにおいては、診断士試験に受かってきた人たちの考えは、ほとんど一致していました。違いが出てくるのはその先で、改善策をどのように具体的に落としていくかという点で、各自の個性が出てくるようです。

司会:ということは、但田さんのお客様先にほかの誰が行っても、同じような診断をすることが、中小企業診断士全体にとっていいことなのでしょうか。

但田:いいかどうかはわかりませんが、診断士試験を通して、そういうスキルは上がるものだと思います。経営体制が不十分な中小企業に行けば、皆、同じように問題点をみつけられると思うんです。でも実は、そのお客様にわかってもらうことや、一歩踏み出してもらうことのほうが大事で、そこで個性を発揮すればよいと考えています。

井上:問題点の発見までは、教科書どおりにみつかったりするものです。それよりも、どう動機づけするかのほうが、私も大切だと思いますね。

司会:どのように動機づけするかという点で、個々の力量が試されるわけですね。

井上:そこは、人によってかなりやり方が違うと思います。

小久保:相手によって、伝え方も違ってきますからね。

但田:ここに女性が2人いますが、渡辺さんは女王的なビジュアルの一方、私はのんびりした雰囲気で滑舌も悪いです。その印象から、発言する内容についても、伝わり方や効果が違ってきます。そういう意味でも、それぞれ違う個性の発揮の仕方があるのではないでしょうか。

司会:なるほど。少し戻って恐縮ですが、2次試験では、人と同じ答えを書くほうがいいんですよね。そこまでしか求められていないようにも感じますが、その先の個性を発揮する部分は、試験では不要なんでしょうか。

井上:動機づけをする技術や考え方は、診断士試験では問われていませんね。そこは、大きな問題があると思います。

司会:なぜ、動機づけなどについては問われないんでしょうか。

井上:筆記試験では、問うことができないんでしょうね。

但田:採点のしようもないと思います。

司会:でも、実務の現場では必要なんですよね。資格を取得しても、すぐに実務ができる要件を満たしているわけではなく、まだまだ足りないスキルがあることを認識しておかなければならないということでしょうか。

井上:一度は、壁にあたったほうがいいんじゃないでしょうか。そこで悩んだ経験は、必ず成長をもたらします。私も通った道です。

司会:井上さんは、中小企業診断士になる前からコンサルタントをされていますが、中小企業診断士に合格しても足りないスキルがあるという考えは、前提として持っておいたほうがよいと思われますか。

井上:そうですね。だから私は、「診断士試験には50科目ある」と思っているんです。

但田:名言が出ましたね(笑)。

渡辺:50科目をそれぞれ、挙げてもらってもいいですか(笑)。

小久保:どうして100科目じゃなくて、中途半端な50科目なんですか(笑)。

司会:すごい突っ込まれようですね(笑)。

井上:まあまあ、1つのたとえですから...(笑)。試験に合格したときには、そのうちの10科目ほどしか終わっていない感覚です。合格しても、まだまだ身につけるべきことはたくさんあるんです。

司会:試験の話に戻りますが、2次試験でほかにつかんでおいたほうがいいこととして、どのようなことがありますか。

但田:たとえば、中小企業は資本力が弱いという前提とか、経営革新などの新たな取組みをしてほしいとか、国が中小企業を定義したり求めたりしている基礎水脈のようなものは、答えの方向性としてつかんでおく必要があると思います。

司会:基礎水脈とは、どういう意味ですか。

但田:ごめんなさい。勝手に言葉をつくってしまいました。「中小企業とは、かくあるべき」といったようなことですね。試験には、そうした基礎水脈の考えが反映されていると思うので、そこを押さえておく必要はあるかな、と。

堀切研一さん
堀切 研一 さん

司会:「中小企業とは、かくあるべき」と定義されるならば、「中小企業診断士とは、かくあるべき」とも定義されてしかるべきですよね。このことと、井上さんの「中小企業診断士の資格を守る」というお話には、関連がありそうですね。井上さんが気をつけられている、資格を守る行動には、どのようなものがありますか。

井上:既存の中小企業診断士のやり方を守りつつ、新しいやり方も開拓していきたいと思っています。実際にできているわけではありませんが、そうありたいな、と。

司会:既存のやり方とは、どのようなものでしょう。

井上:よく聞く話としては、ベテラン診断士の方に弟子入りし、そこから仕事を紹介されて、「のれん分け」していくイメージでしょうか。でも、中小企業診断士の数が増えてくると、それだけではパイが足りなくなってきます。新しいやり方を開拓していかなければ、いつまでも「足の裏の米粒」と言われる状態が続いてしまうと思います。

司会:新しいやり方を開拓しようと思ったのには、何かきっかけがあったのですか。

井上:1つは、資格の知名度が低いことですね。受験を考えたことがあるという人にはよく会いますが、テレビなどのメディアに中小企業診断士が出てくるレベルまでには、認知が広がっていませんよね。合コンで中小企業診断士と名乗っても、「そんな資格、知らない」とつれなく言われてしまいますし...。

小久保:今日、一番力のこもった発言でしたね(笑)。

但田:今日、初めて本当の思いを語られましたね(笑)。

司会:皆さん、ここぞとばかりに突っ込んできますね(笑)。井上さんが合コンで悲しい思いをされるほどの知名度の低さですが、やはり低いままではダメですか。

渡辺:井上さんにとっては、死活問題ですからね(笑)。

司会:資格を守るとか言いつつ、実は資格にぶら下がっているじゃないですか(笑)。

井上:やはり、さまざまなところで知名度を高めなければなりませんね(笑)。

残念な話ですが、中小企業に行っても、「中小企業診断士って何?」と言われてしまったり、ありがたみを感じていただけなかったりすることもあると思います。ひどいときには、「勉強しかしていないんだろう?」と逆に偏見を持たれるなど、負の側面すらあるわけです。やはり、資格のブランド化を図っていきたいですよね。「中小企業診断士がきてくれたから、安心だ」と思われるまで、資格の価値を高めていきたいです。

司会:中小企業の方にこう言われるのがゴールだという、理想の姿はありますか。

渡辺:私が一番嬉しかったのは、「中小企業診断士は、中小企業にとっての救世主ですよね」と言われたことです。このときは、泣きそうになりましたね。

司会:それは嬉しいですね。どういった支援をされていたのですか。

渡辺:あるIT企業の資金繰りの支援をしていました。

司会:なぜ、救世主だと思っていただけたのでしょう。

渡辺:お金を引っ張ってきたからでしょうか。

司会:今日のキーワードは、合コンとお金ですか(笑)。

渡辺:でも、中小企業にとって、資金繰りは死活問題ですからね。経営資源として不足しているので、そこは支援できたほうがいいと思いますよ。できる、できないではなくて、やろうとする姿勢が求められていると思います。そのために私たちは、中小企業施策などを勉強してきたわけですから。

司会:そのことを、受験生時代に考えたことはありますか。

渡辺:そうですね。受験生時代の実体験として、会社の資金が不足してきて、私自身もリストラを経験しました。会社が大きな事業を譲渡した当時、私はネイルサロン部門のマネージャーを外れていたんです。経験したことのない部門にねじ込んでもらっていたので、仕方なかったんですけどね。でも、私はそれでもよかったんですが、いままで活躍してきた他部門の社員たちも、どんどん退社していきました。そういうのを目の当たりにすると、資金の問題は重要だと感じます。

井上:そういった原体験のある人は、診断士試験でも強いですよね。中小企業に関連して悔しい経験をしている方には、モチベーションの高い方が多いと思います。

司会:井上さんの原体験は、受験と結びついていますか。

井上:私の場合も、実家が中小企業を経営していることが大きいですね。子どもに心配をかけないようにしてきたのでしょうが、いま思うと、大変だったんだろうな、と。それも含めて、親がやってきた中小企業とはどういうものかを知りたかったので、中小企業診断士になりたい、と強く思っていましたね。

司会:原体験は、大きな動機づけになるんですね。小久保さんは、いかがでしょう。

小久保:両親は勤め人ですが、祖父が中小企業を経営していたので、その大変さは肌で感じるものがありましたね。受験生ではなくても、この人は事業に興味がありそうだと思って話を聞いてみると、実家が事業をやられている方が多いように思います。

司会:原体験があると、それがみえない力となり、試験でも後押ししてくれるわけですね。では、そうしたものがない方は、どうしたらいいのでしょう。代替する体験や擬似的な体験をして、自らを動機づけすることは可能でしょうか。

井上:そういう方にも、2種類あると思います。本当に原体験がない方と、あるのにみえていない方です。自己分析をして深く考えたら、原体験に突き当たる方もいるのではないでしょうか。

司会:なるほど。では、皆さんが受験生を支援していて、原体験がなくても動機づけされている方に共通する特徴は、何かありますか。

渡辺:合格後のイメージを持てていると、強いと思います。「合格したら、自分はこれをやるんだ」と口に出している方も、特に女性の受講生には多いですね。すごい熱意だな、と感心します。たとえば、「まちづくり支援がやりたいんです」といった、具体的な夢を持たれているんですね。

小久保:具体的にイメージされているのは、女性のほうが多いのですか。

渡辺:そうですね。女性のほうが、言い切る方は多いですね。細かいことをいろいろと考えるよりも、まずはやりたいことを見据えて行動に移す、という感じでしょうか。

司会:「できなかったらどうしよう」といった、リスクを考えたりはしないんですか。

渡辺:わりと、気持ちが先にいっている方が多いと思います。

司会:商店街などのまちづくりの現場に行ったりすると、擬似体験ができますし、イメージしていくことで補完できるものなんですかね。

渡辺:人との出会いによって、思いがふくらむことはあると思います。誰かの影響を受けて動機づけされることは、多いのではないでしょうか。

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