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診断士試験に必要な「矛盾を溶け合わせるバランス感覚」 書籍『受験生最後の日』×月刊『企業診断』連載「伝説の合格者たち」コラボレーション座談会

司会・文:堀切 研一(中小企業診断士)

【第1回】本質をわかりやすく伝える大切さ [2]

参加者:井上 龍司/小久保 和人/但田 真紀/渡辺 まどか(発言順)
司会・文:堀切 研一(中小企業診断士)

取材日:2010年8月8日

聞かれたこと「だけ」に答える

司会:渡辺さんにお聞きします。診断士試験について、受験機関で教えているときと、個別に教えているときで、前提条件の違いや教え方の違いはありますか。

渡辺:そうですね。前提が違うと、やり方も異なってきます。対象者の数の違いは、大きいのではないでしょうか。たとえば、1対1の個別指導のときは相手をじっくりみられるので、受け手に負荷をかけてもいいと思います。一方で、受験校のように多数を相手にするときは、受け手に負荷をかけないように、わかりやすく伝えることがより重要になってきますよね。

司会:対象者の数によって、使い分けが必要なんですね。小久保さんはわかりやすく伝えるのが「快感」だということでしたが、具体的には、どういう場面でそう思われましたか。

小久保:勤めている会社がITメーカーなので、技術者中心の打ち合わせが多くあります。そうすると、わかりやすく伝えることが皆、あまりうまくないんですね。技術者と打ち合わせをして、「うんうん」とうなずいていても、本当にわかっているかを白板などに書いて確認すると、実は皆、違うことを考えていた、なんていうことも多いんです。

司会:会議の進行方法などは、共有化されていないんですか。

小久保:あまり教えられずに自己流でやってきていることも多いので、各自がそれぞれのやり方でやっている感じですね。そういうとき、うまく技術者同士の言葉を翻訳してコーディネートできると、快感だったりするんです。

司会:教えられていないからできないということは、「わかりやすく伝える」のは、教えられればできるスキルだと。

小久保:そうですね。でも現状では、皆がうなずいていても、お互い違うことを考えていることにさえ、気づかない場合も多くあります。

井上:習慣の違いもあるかもしれませんね。同じ大学を出て、同じような成績で考え方も近かった人たちが、違う会社や違う部署に行って何年か経つと、物の見方や捉え方、コミュニケーションスキルが異なってくるというのは、よくある話です。会社や部署の文化、準拠集団、上司のあり方などに影響されてくるんですよね。

司会:なるほど。そんな習慣の違いがある中で、小久保さんがコーディネートに魅力を感じたことと、中小企業診断士を目指したことには関連があるのでしょうか。

小久保和人さん
小久保 和人 さん

小久保:以前、会社で、非接触ICカードリーダーライタの開発をしていました。無線やデジタル制御、筐体設計など、さまざまな専門家に集まってもらってプロジェクトを組み、私が企画担当としてリーダーをやらせていただきました。その際、専門家同士が直接話をすると、お互いの専門外のことがわからなくて、話が進まなかったんですが、私が間に入ってまとめると、何となく話が通じて、プロジェクトが進むようになったんですね。それまでは、技術のスペシャリストであることに憧れがあったんですが、自分がコーディネーターとして動いて、具体的に物が開発されてくると、そちらに魅力を感じるようになってきました。それから、ビジネス全体を見渡し、わかりやすく伝えてコーディネートしていく能力を伸ばしたいと思い、中小企業診断士の勉強を始めたんです。

司会:中小企業診断士の勉強をすると、伝える力やコーディネート能力が磨かれるのでしょうか。

小久保:試験勉強では、カウンセリングやコーチングを実践でやるわけではありませんが、知識としては深まりますよね。いままで思っていたことが、「理屈で言うと、こうなる」と、裏づけを持って発言できるようになりました。

司会:そうなんですね。逆に、伝える力やコーディネート能力を実務で高めると、中小企業診断士の答練における点数のアップなど、試験でのアウトプットも高まるのでしょうか。

小久保:2次試験では、出題者や採点者と直接話すわけではありませんが、与件や設問から出題者の意図を汲み取ったり、解答を通じて採点者に伝えたりするわけですから、関連性はあると思います。

井上:2次試験で話題に上がる複数解釈や行き違いなどは、職場でもよく起こることです。「聞かれたことにちゃんと答える」のは、仕事にも2次試験にも共通して必要なことですね。答練だけでなく、「聞かれたことに素直に答える」ことは、会社やふだんの生活でもやったほうが、力がつくと思います。

司会:座って勉強するときだけでなく、ふだんから学習はできるんですね。

井上:ふだんからできることは、いくつもあると思います。たとえば、上司への報告内容を端的にまとめたり、留守番電話を30秒間で吹き込んだりするのも、要約力を鍛える練習になります。そういうことで、勉強時間を捻出したり、コンサルタントとしての力をつけていったりできると思います。

司会:なるほど。「わかりやすく伝える」ためにふだんからできることは、ほかにもありますか。

井上:文書化することで、全般的に力がつきますね。議事録は、会議に参加しなかった人でもわかるよう、長くなりすぎないように書くなど、書く力が鍛えられます。コンサルタントはよく、それをやりますね。あとは、メールの件名のつけ方です。メールを開かなくても、件名をみただけで内容がわかるように書くことも、いい訓練になります。

小久保:たしかに、メールの件名には、センスが求められますよね。

井上:そうですね。たとえば、「次回の会議について」という件名だと、開封しないとわかりませんが、「次回の会議は○月○日○○会議室にて行います」と書けば、だいたい内容がわかります。

司会:件名から、重要度もわかりますか。

井上:重要度もわかりますし、開く前に心の準備もできますね。1日に何十通もメールを受け取る人にとっては、その違いは大きいと思います。

司会:但田さんは、わかりやすく伝えるための練習で、ふだんからやられていることはありますか。

但田:私の場合は、経営の知識が少ない方や、あまり経営を意識していない方にお話をすることも多いので、いかに相手の腹に落ちるたとえ話を使って言い換えができるかを、かなり意識しています。

司会:具体的には、どのようなたとえ話でしょう。

但田真紀さん
但田 真紀 さん

但田:計画を立て、記録を取って数字でみていくことを、難しそうだとおっしゃる方に、「マラソン選手が練習するとき、タイムを計らずに走ったらどうなりますか」と質問して考えてもらったところ、数字の必要性を納得していただけたようでした。タイムを計るから、いまの状態がわかり、目標も明確になるのであって、それは経営でも同じことですよね。自分の体験に落ちてくるようなたとえ話で話すことが、大切です。だから、「この人のための比喩は何だろう」と考えるようにしていますね。

司会:ということは、その前に相手をよく知ることが前提になりますね。

但田:そうですね。「こういうネタだったら、食いついてくれるかな」というものを探すためにも、できるだけ相手の話を聞くようにしています。

司会:相手に合わせて腹に落ちる話をすることを、診断士試験にたとえると、どうなるでしょうか。

但田:私は、試験勉強で学んだことが腹に落ちるよう、行動して理解していました。試験勉強を「意地でも楽しむ」ことを大切にしていたんですね。苦手科目なんてないはずだ、と信じていた。実際にはあるかもしれませんが、その科目の楽しさがわかれば成績も伸びると信じていたので、意地でも楽しくなる方法をみつけたいし、そのためには腹に落ちることが大切だと思い、実行していました。

司会:具体的な方法をぜひ、教えてください。

但田:たとえば、ECRS※の場合は、それだけ学んでもピンとこないので、夜、お風呂に入る工程にたとえました。

まず、「コンタクトレンズはどこで外したらいいのだろう」と考えたとします。以前は、お風呂から上がり、化粧品をつけた後にコンタクトを外していたので、コンタクトを外す前に、手を洗う作業が発生していました。でも、お風呂から上がってすぐにコンタクトを外せば、手を洗う作業を減らせます。順番を入れ替えることで、作業を改善できるわけです。

※ECRS 改善の4原則。生産管理において、排除(Eliminate)、統合(Combine)、順序の変更(Rearrange)、単純化(Simplify)等により、作業の改善を行う際に利用される。

井上:なるほど。わかりやすいですね。

但田:受験生のときにやっていた仕事で、ダイレクトメールをひたすら詰める単純作業があったんですが、ロットにしてみたり、1個流しを試してみたりすることで、作業の改善を図っていました。どこに封筒を置くか、どのくらいずつ作業を分けるかなどいろいろ試すうちに、運営管理の勉強が楽しくなってくるんですね。私自身、まったくビジネスの知識がなかったので、身近なことに置き換えることで理解しようと、工夫していたんだと思います。

司会:まずは、自分で実践する習慣をつけられているということですね。

但田:そうですね。だからこそ、お客様に対しても、「こういうたとえ話をすれば、聞いてもらえるかもしれない」という視点を意識するのかもしれません。

司会:受験生時代、実践を通して勉強したことで、成績の向上につながりましたか。

但田:成績はすごく上がりましたね。中小企業診断士の勉強を始めたときは、受験校でも一番できない受講生だったと思っているんですが、たとえば、最初はまったく理解できなかった経済学も、最後には800人ほどが受ける答錬で上位15位前後までになることができました。

司会:それはすごいですね。受験生にもおすすめしたい方法ですか。

但田:勉強方法には相性もあると思うので、合うと思われた方はやってみるといいかもしれません。この方法のメリットは、本質を理解できるので、応用が利くようになることです。試験本番では、ほとんどみたことのない問題も解けていたので、時間はかかりますが、効果は高いと思います。

司会:2次試験は得体の知れないものですが、そうした勉強方法を積み重ねていくことで戦えるのではないか、という感触はありましたか。

但田:1次試験のときから、考えることを重視してきたので、やってきたことがそのまま2次試験にもつながっていきましたね。

司会:1次試験の勉強を実生活で応用することで、2次試験対策にもつながるのですね。渡辺さんは、わかりやすく伝えるために、生活の中で実践されていることはありますか。

渡辺:受験生のときも、いまも気をつけているのが、聞かれたこと「だけ」に答えることです。

司会:「だけ」ですか。何かスパイスを加えたりしないのでしょうか。

渡辺:スパイスを加えようと思うと、前置きが長くなりすぎたり、何が言いたかったのかがわからなくなったりしますよね。それを2次試験でやろうとすると、危ない。

司会:2次試験では、スパイスを加えて解答してはいけないのですか。

渡辺:ダメですね。自分の思い込みが入ってしまい、本質を忘れてしまいがちになります。あくまで、出題者が聞きたいことだけに答えることが大切です。

司会:でも、事例企業の売上がさらに高まったり、経営が改善したりするのであれば、スパイスを加えて解答したほうがいいのではないですか。

渡辺:それだと、×ではないですが、○でもないですね。

司会:さらに改善するのに、なぜ○ではないのでしょうか。むしろ、◎なのでは...。

渡辺:2次試験は、用意されている答えに近いものを書かなければならないわけですよね。そうでなければ、試験として成り立たなくなると思います。基準がないと、何を書いてもよくなってしまう。「絶対に自分が書いた答えのほうがいい」と皆が言い出すと、採点しようがなくなってしまいます。実際、聞かれたことだけに答えている人が、受かっていると思います。

司会:では、診断士試験と中小企業診断士の実務の相関が高いという前提で考えると、ふだんの実務でも、聞かれたことだけに答えることが大切なのでしょうか。

渡辺:そう思います。特に経営者の方と話していて思うのが、短い言葉で伝えたほうが理解してもらいやすいということ。1つの文が長いと、消化するのも大変ですよね。だから私は、できるだけ短い言葉で会話を交わすようにしています。

司会:実務でも同じなんですね。

渡辺:まずは聞かれたことだけに答えて、その後、状況に応じて説明を加えたり、具体例を挙げたりしていけばいいのではないでしょうか。

(つづく)

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