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目指せ! 中小企業診断士

6度の受験を通して得たもの―三上康一さんに聞く

取材・文:田中 聡子(中小企業診断士)

【第2回】合格~現在まで

取材日:2010年4月9日

転職を目指し、中小企業診断士の資格を取得された三上さんでしたが、受験生時代に体感したコーチングの素晴らしさが、仕事にも影響を与えます。「仕事は順調。でも、自分のしたいことは本当にこれなのか...」―そんな心の動きを伺いました。

元店長を変えた言葉

― 三上さんに「客観視」することの大切さを教えてくれたコーチング。ご自身だけでなく、当時の職場のモチベーション向上にも役立ったのですよね。

私の職場には、会社が問題視している社員が異動してくることが多かったんです。ベテランで言うことを聞かない年配の方とか、実績を上げられなかった元店長とか...。「姥捨て山」と陰口を叩く人もいました。初めは、「イヤだなぁ...」と思っていたんですが、相手の気持ちを受け入れられるようになると、人って変わりますよね。

ガソリンスタンドは、ガソリンばかり売っているわけではありません。ガソリン自体は薄利ですから、「油外(ゆがい)商品」と呼ばれる油以外の商品の売上高を増やすことが、収益性向上には重要なんです。当時の私の職場では、タイヤ販売に注力していました。そして、業績がようやく向上し始めた頃に、1人の社員が異動してきたんです。

彼は、店長から降格された方で、年齢は私より5歳上でした。入社したての頃の私を知っている元店長が、3段階降格されて平社員になり、私の部下となったのです。異動初日、「よろしくお願いします」と挨拶をした私に、彼はこう言いました。「三上さん、私はタイヤ販売が嫌いなんです」と。

彼の今までの働き方は、聞いていました。それを思い出すと、タイヤ販売が本当に嫌いなわけではなく、気持ちをぶつける先がなくて言っているだけだ、というのが伝わってきました。このとき、「この店の方針は、タイヤを重点的に販売することです。ここに来たのだから、タイヤを販売してください」と、店長の権限で方針を徹底することも可能でした。でも、それでは彼の感情の行き場がありません。「私が彼だったら、どうしてほしいのだろう」と考えました。そして、「私のコーチだったら、きっとこう言うだろう」と頭に浮かんだ言葉を伝えたんです。「わかりました。タイヤを売るのは嫌いなのですね。では、タイヤは売らないでくださいね」

彼は驚いていました。こんな会話を覚えています。彼の名前を、仮にAさんとします。

A:「三上さん、何言ってるんですか? ここはタイヤがメインのお店でしょ。アルバイトならまだしも、社員の自分が売らないわけにはいかないでしょう」

三上:「そうは言っても、私は自分の嫌いなものを無理してまで売ってほしくはないんですよ。目一杯、Aさんの実力を発揮してほしいんです。当てつけでも何でもなく、心からそう思って言っています。自分の得意なもので、勝負してくださいよ」

A:「...わかりました」

その場は一応、「わかりました」となりました。その後、「どうなるかな。何に力を入れて売ってくれるのだろう」と思っていたら、ちゃんとタイヤを売ってくれたんです。しかも、すごい勢いで。あれは、嬉しかったですね。

― 感動して、鳥肌が立ってしまいました。辛くて八つ当たりしようと思ったのに、言葉でギュッと抱きしめられた気がした、ということなのでしょうね。

受け入れるって、こういうことなんだな、と思いました。さらに嬉しいことに、彼は今、店長として頑張っています。通常、3段階降格って、「辞めろ」という会社のメッセージなんですよ。でも彼は、辞めたくなくて辞令を受け入れ、私の所に異動してきた。そして成果を出して、店長に復活してくれたんです。店長になったのは、私の退職後だったんですが、彼はわざわざ、「おかげ様で店長になりました。ありがとうございます!」って電話をくれました。私も、「こちらこそ、ありがとうございます。あの経験は、セミナーでも話をさせていただいていますから、私からもお礼を言わせてください」って言いましたけど...(笑)。

独立のきっかけ

― このように職場を改善されてきた三上さんですが、合格後は新しい道を目指すことになりますよね。独立までには、どのような心境の変化があったのでしょうか。

三上康一さん

もともとは、転職したいと思って中小企業診断士の学習を始めたんです。でも、受験し続けているうちに、中小企業診断士の仕事そのものに興味が出てきて...。合格後も、受験校の先生に独立について尋ねたりしていましたね。

一方で会社は、ありがたいことですが、辞めてほしくなかったようです。中小企業診断士の学習で学んだことを職場で活かし、実績が上がっていったわけですから。合格年には、引き留め工作のようなものもありました。ふだん会わない役員クラスの方が来店して、「三上君の将来には期待しているよ」みたいな発言もあったりしましたね(苦笑)。

その後、ガソリンスタンド業界を大きく動かすことが起こりました。1ヵ月間の暫定税率廃止です。中小企業診断士登録をした年のことでした。連日、お客さんが殺到し、息つく間もない忙しさでしたが、税金が復活した日からは、パッタリとお客さんが来なくなり、本当に振り回されました。

でも、そのときの経営陣の対応が、どうしても根性論の域を出なかったんです。私と考え方の合わない部分が、縮められなかった。それでも、店長業務のかたわら、啓発活動として、社内セミナーを開催したりしながら働いていました。

そうこうしているうちに、今度はサブプライムローン問題が発生しました。景気対応緊急保証の五号認定を手伝ってほしい、と知り合いの中小企業診断士から依頼がありました。幸い、ガソリンスタンドは平日も休めたため、引き受けることができたんですが、そこで本当に困窮している中小企業の経営者の方にたくさんお会いしました。その中で、「自分は誰の力になりたいんだろう」と、自問自答するようになってきたんですね。ガソリンスタンドも景気が悪くて大変ですが、いざとなれば親会社がついています。一方、相談に来ている方には、何の後ろ盾もない。そう考えたとき、「社長さんたちの力になりたい」と思ったんです。会社の中で転職を考え、方向性もわからず、助けてほしくてもがいていた昔の自分と、社長さんたちの姿が重なったのかもしれません。結局、独立後も含め、4ヵ月間で500社の中小企業と面談をさせていただきました。

会社へ辞意を伝えた際、もっと驚かれるかと思いましたが、上層部の腹は決まっていたようです。「三上が辞表を出したら、誰も止められない」と考えていたのでしょう(笑)。五号認定の仕事がありましたから、辞めると決めたらできるだけ早く退社したかったのですが、会社は協力してくれました。引き継ぎやさまざまなこともある中、平成21年1月に辞意を伝えて、月末には辞めることができました。このことは、会社にとても感謝しています。

一方、五号認定の仕事は、3ヵ月ほどでなくなりました。一時の混乱が収まり、近場の中小企業診断士だけで仕事が回るようになったからです。正直青くなりましたが、一方で、「これでようやく、自分の足で社会に立ったんだ」と感じている自分もいました。

(つづく)

プロフィール・会社概要

三上 康一(みかみ こういち)
1965年青森県青森市生まれ。ガソリンスタンド運営会社に通算20年勤務し、退職後、2009年に三上中小企業診断士事務所を開業。高齢者・フリーターの雇用を主としたコンサルティングのほか、各種セミナー講師、受験生に対するコーチング・指導を中心に活躍中。『受験生最後の日 3つのドキュメント』(共著・同友館)等、著書3冊。

会社名 三上中小企業診断士事務所
代表 三上 康一
所在地 埼玉県川越市小仙波町2-44-11-205
TEL/FAX: 049-226-1867
E-mail: bbb3850@ybb.ne.jp
ブログ: 熱血感動型が【ナイスな】中小企業診断士になるまで。