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目指せ! 中小企業診断士

診断してみました!・シリーズ1:【診断テーマ】「先生」から「経営者」へ ―経験ゼロからの学習塾経営を支援

文:山田 かすみ(中小企業診断士)松井 淳(中小企業診断士)遠近 浩二(中小企業診断士)原崎 崇(中小企業診断士)守井 浩一(中小企業診断士)

【第2回】追加情報の取得

さて、K塾オーナーのヒアリングを終えた私たちは、意見交換を行いました。

まず、塾ビジネスの成功の鍵は、一般的には生徒の合格実績や有名講師の存在、充実した教材や試験であろうと考えられます。しかし、オーナーの個別指導へのこだわりや、メンバーの身近にいる受験生の体験談なども織り交ぜて議論していくうちに、学校や進学塾の補習をする場が欲しいというニーズも結構あり、そこでは、個々の生徒の理解度に合わせた個別指導や、家から近くて時間の融通がきいて塾と部活が両立できること――なども重要なポイントになってきそうだという意見が出てきました。

そこで、大手進学塾とは異なる「補習塾」という位置づけならば、K塾が強みを活かすことができるのでは? という仮説のもと、オーナーのヒアリングから得た情報の裏を取り、不足情報を補うための調査を分担して行うことにしました。

学習塾は、生徒の通学圏内を対象とする比較的ローカル色の強いビジネスである一方で、人口動態、国の施策、学校の状況などのマクロ環境に大きな影響を受ける面も持っています。

そこで、マクロ的な経営環境の変化として塾業界全体の動向を調べるとともに、ミクロ面では、K塾固有のビジネス環境を具体的に捉えるよう、3C分析のフレームワークを用いて情報収集することにしました。すなわち、内部環境である自社と、外部環境である顧客(市場)と競合についての情報収集をすることで、K塾を取り巻く経営環境をあぶりだそうというものです。

1.塾市場の動向(マクロ面の外部環境変化)

塾ビジネスはその時々の教育・学校の動向やあり方を抜きにしては語れません。特に、学校数・生徒数の増減、教育制度の変更、教育支出の動向などはポイントになりそうだと判断しました。また、それらから推測される影響の裏づけを取るため、情報の得やすい大手の個別指導塾の業績と経営戦略を調べました。

塾業界の動向
→業種別審査事典や一般の調査会社の業界レポートを図書館やWEBで入手し、市場規模や業界動向を読み取る。上場企業である大手個別指導塾の2社は、企業のホームページなどから営業効率(生徒一人当たり売上高など)の概算を得ることができた。これらをK塾とのベンチマークに利用したところ、K塾は大手より営業効率が圧倒的に悪いことが判明。
学習塾費の額
→全国レベルではあるが、文部科学省が学校種別(小・中・高)の学習塾費の推移についての統計を取っており、これをWEBから入手し利用。

2.K塾固有のビジネス環境について(ミクロ面の環境)

(1)内部環境(自社について):K塾の経営資源を整理し、損益分岐点分析と主要な経営資源である講師と教室について稼働率分析を行います。これらを行うことで、「ありたい姿」から「必要な売上」が逆算でき、さらにそれの実現可能性(経営資源による制約条件)も割り出すことができます。また、既存の生徒も重要な経営資源です。これについては、実態把握のためのアンケート調査を行います。

・損益分岐点分析と稼働率分析(講師、教室)
→稼働率には相当の余裕があり、講師のシフトや教室の活用方法を工夫することで収益をかなり増やせる可能性があることを確認。
・既存顧客(生徒と保護者)の意見・満足度
→アンケートにより直接収集することにするが、特に小中学生が解答しやすいよう設問を平易で少なくする点に苦労した。各講師から生徒経由で保護者に渡してもらうようにするが、保護者とのやり取りが少ない現況で突っ込んだ内容のアンケートを配布したため戸惑った保護者も多かったのか、回収率が低かった。そのため一部の生徒・保護者に追加で直接インタビューも行う(右はアンケートのサンプル)。
・講師の経営状況への認識と満足度
→生徒・保護者について講師の方々がどう捉えているか、また、K塾の経営状況に関する考え方やオーナーに対する接し方などを調べるために、講師向けのヒアリングを行うことは重要だが、この点については次回以降の調査項目に持ち越すこととする。

(2)顧客・市場について:個別指導塾の顧客層は小・中・高からなる学生ですが、真の顧客は保護者であるともいえます。そのため、a.生徒となりうる小・中学生および高校生の人口、b.1世帯当たりの塾・予備校への支出額――の2つが市場規模を図る基準となります。aはさらに、a-1:付近の住民(家が近い)、a-2:付近の学校に通う遠くの住民(学校が近い)――の2つに分けられます。

商圏内の年少人口(a-1)
→各種レポートによると、塾の商圏は500m~2kmといわれていることが判明。実際に、既存生徒の分布を見たところ、全生徒が500m圏内に住んでいたことから、一次商圏を500mと判断。年少者人口(15歳以下)は、WEB上の「地方自治体の統計」からデータとして入手。
一次商圏(500m以内)内の学生人口(人)
小学生 中学生 高校生
平成12年 487 263 289
平成19年 765 (+57%) 366 (+39%) 307 (+6%)
メインターゲットである小学生・中学生の人口が急増していることがわかる。
商圏内の学校への通学人数(a-2)
→国公立の学校については各自治体のWEB等で学校別の生徒数が公開されていたが、私立学校については、一部しか開示されていない。非公開の学校については、各年度の受験募集人員数から推測。
商圏内世帯の教育サービスに対する支出(b)
→各種データを探すも、都道府県ごとでの世帯あたり平均支出データは見つかるが、市区町村別のデータは見つからなかった。代わりに、市区町村別の平均所得のデータをWEBで見つけて利用。

(3)競合について:競合となる塾・予備校の数や特性を把握することは、潜在市場規模の予測ばかりだけでなく、SWOT分析の観点からも非常に重要です。

競合の分布
→NTTのWEBサイト「iタウンページ」から、学習塾・進学塾・予備校のリストを入手。周辺は競合塾が多い地域であるが、幸い一次商圏内には少ないこともわかった。
競合の戦略・位置づけ・セールスポイントの調査
→新聞の折込広告、ホームページなどから、情報を得る。K塾の教育方針を前面に出せば差別化が可能と思われることが判明。

さて、これらの情報収集を行って分析していくと、面白いことがわかってきました。