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診断してみました!・シリーズ1:【診断テーマ】「先生」から「経営者」へ ―経験ゼロからの学習塾経営を支援

文:山田 かすみ(中小企業診断士)松井 淳(中小企業診断士)遠近 浩二(中小企業診断士)原崎 崇(中小企業診断士)守井 浩一(中小企業診断士)

【第1回】診断先の概況

今回からスタートする新シリーズ「診断してみました!」は、実際の企業・商店等を診断し、実務の概要や提案内容を紹介するものです。シリーズ1の診断先は学習塾。経営経験のない"新米"塾オーナーに対して経営戦略の策定等をサポートしていきます。診断にあたってどこに着目し、どのような考えに基づいて提案を行ったのか――診断チームのメンバーが、実際に行った診断実務について詳細にレポートします(全5回)。

1.講師から塾のオーナーに

K塾は平成19年4月に開校した個別指導専門塾です。現オーナーは、家庭教師派遣事業をメインとするA社が運営する前身の塾で講師として働いていましたが、売上不振のためA社が教室を売りに出した際、個人事業主となって塾を存続させる決意をしました。大学卒業以来、講師業一筋で生きてきたオーナーにとって、生徒14名、プロ講師6名の規模とはいえ、塾の経営に携わるのは初めての経験です。

オーナー就任後も、引き続き講師として忙しく働く日々が続きました。オーナーは「生徒の個性や状況に適したきめ細かな対応が可能なマンツーマン個別指導という授業形態こそ、生徒の学力を最大限に伸ばすことができる」との信念をもっています。担当授業には入念な予習と下調べを行って臨むため、将来について腰を据えて検討する時間をもてず漠然とした不安が募るなか、オーナーは中小企業診断士に相談することにしました。

2.K塾の周辺環境

K塾が入居しているビルは、全国市町村別平均所得で上位にランクされるX県Y町の一角、地下鉄の最寄り駅から徒歩2分という好立地です。Y町はX県のなかでも教育に力を入れている地域で、中高一貫の私立女子校が数多く存在し、中学受験の合格実績で定評のある公立小学校などがあります。そのため、近隣のJR駅周辺には競合と目される大手の学習塾や予備校が集積し、「塾激戦区」の様相を呈しています。

●私立学校数
小学校
中学校
高等学校
Y町
3
21
7
X県全体
53
179
250

Y町の人口を調べると、総人口に加え、主な顧客層と考えられる年少人口が他町村と比べて少ないことがわかります。そのうえ、競合が多いため、Y町の塾・予備校一件当たりの年少人口はX県中最少となっています。

●人口
人口(人)
年少人口:15歳未満(人)
年少人口割合(%)
Y町
43,252
4,900
11.3
X県全体
12,692,117
1,461,387
11.5

3.直近の目標は生徒数の増加

K塾を訪れた診断チームは、まず、その室内に愕然としました。参考書や問題集が並ぶ書棚の上には古びた文房具や用途のわからないガラクタのようなものが雑然と放置されており、5つの個別ブースの机の上には消しゴムのカスが散らばっていました。

診断チームのヒアリングに対してオーナーが語った主な内容は以下のとおりです。

  • 「生徒数を増やして経営を安定させることが直近の目標だが、せっかくオーナーになったので、自分の専門分野を活かして大学受験対策に特化した塾にしていきたい」
  • 「オーナーになってすぐに、新しくパンフレットを作成した。どんな生徒にも対応できるように学校の補習から東大医学部コースまで幅広いメニューを揃えている」
  • 「生徒の保護者には、オーナーが変更になり、月謝の振込先が変わったことを連絡する文書を郵送した。今のところ保護者と顔を合わせたことはない」
  • 「一対一の個別指導なので、個々の生徒の状況把握は各担当講師に任せている。自分も授業を持っているため、講師と話す機会はほとんどない」
  • 「このあたりに塾はないので、競合の存在は特に意識していない」
  • 「現在通塾しているのは男子生徒が9割以上なので、きれいなビルに引っ越すなど、女子生徒が通いやすい環境を整備したい」

開校以来、新規に入会した生徒について尋ねたところ、中学受験を目指している男子小学生が2人との答えでした。退会した生徒は女子中学生が1人で、理系の女性講師という生徒の要望に応えることができなかったのが原因のようです。

また、現在の個別ブースの稼働率を算出すると約18%と極めて低い状況でした。生徒数を増やすという目標はあるものの、新聞の折込広告を用いた宣伝以外にこれまで実行した具体策はないとのことでした。教育者としての理念は明確ですが、経営者としてのビジョンを具体的に思い描くことができず、何から着手すればよいのかがわからないというオーナーの不安と戸惑いが伝わってきました。