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メディアを診る

メディアを診る・特別編 【第4回】ネイルサロン店長・さくらの読書成長記

文:渡辺 まどか(中小企業診断士)

「自立型店長」と「本部支援」で、売上最下位の店を救え! [2]

問題解決型の店長を育成せよ

翌日が休みだったさくらは、F店救済のヒントを得るために書店へ向かう道すがら、3人の言葉を思い返していた。

「売上を上げようなんて、無理」

「他のスタッフが何を考えているのか、わからない」

「自分がF店のために何をしていいのか、わからない」

3人が言っていることは、共通していた。

「どうすれば、彼女たちの意識改革ができるのだろう? あたしが彼女たちのためにできることは、何だろう??」

そう自問自答しながら書店に入ったさくらだが、すぐに足が止まってしまった。

「人の問題だから、人材育成? それとも、結局は売上のことだから、マーケティング??」

よくわからなかったので、ビジネス書売場を一周してみる。すると、「店舗・販売管理」というコーナーが目に入った。そこで、強烈なキャッチコピーが、さくらの視界に飛び込んできた。

「こんな店、辞めてやる!」

あの3人が、いつ言い出してもおかしくないセリフだ。そのキャッチコピーがオビに入った本のタイトルは、『幸せな売場のつくり方』。「ショップスタッフ小説」とある。さくらは、その本の内容に強い興味を持ち、すぐに購入することにした。そして、いつものファミレスに向かい、その場で一気に読んでしまった。困ったことに、途中で泣けてきて仕方がない。本の内容は、至ってシンプルだった。

主人公のアパレルショップ店長は、たくさんの不満を抱えている。スタッフも同様だ。「お客様は来ない」、「チームはバラバラ」、「残業はシンドイ」。でも、販売指導のセンセイが現れたことをきっかけに、お店がみるみるよくなっていく―そんなハッピーストーリーだった。

内容は、とてもリアルだ。みんな手を抜いているようで、実はそれぞれの立場でお店に貢献していた。一方で、商品が悪いとか人手が足りないといったことを理由に、売れない言い訳をつくっていた。でも、店長が変わったことで、みんなも変わっていき、自立したチームが形成されていく。

たしかに、売上は簡単には上がらない。でも結局は、働く人間の気持ちしだいだ。さくらは、印象に残ったところだけをピックアップした読書メモを読み返し、ストーリーを思い返しては、また泣いてしまった。

  • 売上は、「売上が上がるお店」にならないと上がらない。
  • お店の大切な役割
    1. 毎日決まった時間にお店をオープンさせ、笑顔でお客様をお迎えすること
    2. 足を運んでいただいたお客様を徹底的に喜ばせること
    3. 喜んでいただいたお客様をお店のファンにすること
  • チームを巻き込む5つのステップ
    1. いま、お店で抱えている課題を話す
    2. 店長としてどうしたいかを話す
    3. 相手に何を期待しているかを話す
    4. 相手がそれをやりたいかどうかを確認する
    5. 具体的に何をするかを話す
  • 店長であるあなたのミッションは、スタッフ全員がお店の役割をきちんと果たすという目標に向かって、全力で走ることのできるチームをつくること
  • ねぎらいのない店は滅びていく
  • ほめるは条件付の行為、ねぎらうは無条件の行為
  • やりがいとは、自分に会いにわざわざ足を運んでくれるお客様の存在
  • 「自立型店長」とは、「自ら考え、自ら判断し、自ら結果を出す」問題解決型の店長
  • 自分で考え、判断して行動を起こしたうえでの結果でなければ、仕事の真のヨロコビは得られない
  • 「管理はするけど、支援はしない」―いま、多くの本部がその状態にあると言える
  • 「支援」とは、「正解」とは何かを探して走る背中を押すこと
  • お客様を連れてくるのは、私たち1人ひとりの販売員

「まずは、あゆみさんに問題解決型の店長になってもらえればいい。でも、あたしからいろいろ話すのではなく、あゆみさんにこの本を読んでもらおう。あの人なら、それで十分だ」

さくらはファミレスを出ると、そのまま書店に戻り、あゆみへのプレゼント用にもう1冊、同じ本を買った。

必要なのは「管理」ではなく、「支援」

さくらはその足でF店に向かい、あゆみに本を届けた。接客中だったので、メモ書きを残す。

「何が何でも今日中に! この本を読んでください。私は私のできることをして、F店を売上が上がるお店に変えてみせます。あゆみさんは、あゆみさんのできることをしてください」

さくらのすべきこと、それはF店の「管理」ではなく、「支援」だ。スーパーバイザーという立場の本部の人間として、部長に対し、ある提案をすることにした。F店のコンセプトを刷新するのだ。

同じ『ネイルアートギャラリー ティアラ』であっても、F店の客層は他とはまったく違い、30代後半~50代の富裕層が多い。であれば、ターゲットも変える必要がある。そのためには、ティアラのプレステージブランドをつくればいい。アートをウリにするのではなく、ベーシックなお手入れを充実させて、基本コースの単価を高くするのだ。従来より、トリートメントメニューを充実させてもいいかもしれない。

これは、あゆみや愛子、知香の言葉と接客からヒントを得た。実際にF店では、アートの代わりに、トリートメント系のメニューを勧めていた。そのほうが、F店の客層にもしっくりくる。

メニューを刷新し、客層に合ったサロンにするには、従来よりも高級感を出す必要がある。となると、店舗レイアウトや販促物全般もすべて、新しくつくり直さなければならない。だが長期的にみて、F店を「売上が上がる店」に変えるには、必要な取組みだ。彼女たちも間違いなく、同意してくれる。だって、3人は自分たちなりに頑張っているのだから。ちょっと元気がないことをのぞけば、サロンワークだって、ほとんど問題なかった。

翌日、さっそくあゆみから電話がかかってきた。

「さくらさん、あの本を教えてくれて、ありがとうございます。読み始めてみたら、途中から涙が止まりませんでした。まずは、F店をどんなお店にしたいのか、そこからスタートします。スタッフともちゃんと話し合います。また相談に乗ってください」

あゆみにならきっと伝わると思っていたが、そのとおりだった。

「さて、あたしは、F店のプレステージブランド化プロジェクトを開始しなくちゃ!あの部長を説得するのは大変だから、交渉術の本でも買いに行くかな」

この本に出会ってから、さくらの書店通いはますます、エスカレートするのだった。

(おわり)