経営コンサルタントの国家資格”中小企業診断士”の情報が満載です。 中小企業診断士の広場

中小企業診断士の広場

メディアを診る

メディアを診る・特別編 【第4回】ネイルサロン店長・さくらの読書成長記

文:渡辺 まどか(中小企業診断士)

「自立型店長」と「本部支援」で、売上最下位の店を救え! [1]

さくら、スーパーバイザーになる

『ネイルアートギャラリー ティアラS店』の店長・東条さくらは、本社の会議室で部門長の大野部長と向き合っていた。月1回の店長会議が終わって帰ろうとした矢先、呼び止められたのだ。

いつも忙しそうな大野部長だが、最近は半月に1回のペースでS店にも足を運んでくれる。一緒にランチやお茶をする機会も増えた。常に将来の事業プランを熱く語る部長に、さくらは信頼を寄せるようになっていた。部長の語る事業プランが、さくらにとって共感できるものだったというのもある。でも何より嬉しかったのは、部長がさくらの頑張りを認めてくれたことだった。そんな部長から、「相談したいことがある」と言われたのだ。さくらは不安に思うばかりか、「何を言われても協力しよう」と心に決めて、話を聞く態勢をとった。

「今日の会議でF店の発表を聞いて、どう思った?」

それが、部長の第一声だった。F店は、郊外の老舗百貨店内の化粧品売場に立地するサロンである。比較的中高年層が多いせいか、1年前の開店以来、売上がパッとしない。と言うよりは、売上最下位をキープしている状態で、ほぼ毎月、赤字を垂れ流している。

F店の店長を務める鎗田あゆみは、他のネイルサロンで店長経験を積んでから入社してきた。29歳という年齢は、系列店のネイリストの中では、やや高いほう。あゆみが店長になったのは半年前だが、その経験から、期待を背負っての昇進だった。当初は張り切っていたあゆみだったが、最近は店長会議に出てきてもおとなしく、売上報告のときですら、他人事のように淡々と口を開く。その点は、さくらも気になっていた。

「F店は、スタッフに何かしらの問題があるんじゃないかと思います。あゆみさんからは、『人通りがない』とか、『忙しい日にネイリストが足りない』といった発言がありました。でもそれって、他店でも抱えている問題です。売上が伸び悩むときは、スタッフに問題があるケースが圧倒的に多いものです」

さくらはきっぱりと、自分の意見を述べた。ネイルサロンで売上を上げようと思ったとき、もっとも重要な要素は「人」―彼女は、そのことをよく理解していた。

「そう言うと思ったよ。やっぱりF店は、東条に任せてみることにしたよ」

「はい???」

恵まれているお店と恵まれていないお店

部長の話は、こうだった。

「S店の店長は、そのまま務めてほしい。S店はドル箱だから、まだ他のスタッフだけでは切り盛りできないだろう。そのうえで、2週間に1回ペースで、F店にも入ってほしい。ポジションは、スーパーバイザーだ。F店の立て直しができたら、S店の入店数を減らして、他の不採算店も同じように回ってほしい。同時に、S店の店長候補も育成するんだ」

突拍子もない話に驚いたものの、それを聞いたさくらは、お客様にそうするように、部長の立場になって考えてみた。

ティアラの系列店は徐々に増え、スタッフも増えてきた。今後もますます、拡大していくだろう。そうなると、部長1人で管理するなんて、無茶な話だ。部長の仕事は、ネイルサロン部門に限った話ではない。そうなったとき、サポート役が必要になる。さくらは、即決で引き受けることにした。すると、行動の早い部長は、その場で勤務シフトを調整し、翌週にさくらがF店に入る手はずを整えた。その翌日には、さくらをスーパーバイザーとする旨の人事通達が、全店に回った。

翌週、さくらはF店に向かった。当日は、店長のあゆみ以外に、副店長の堀井愛子と入社2ヵ月目の佐藤知香が一緒だった。開店前準備の際の朝礼で、さくらはみんなに挨拶した。

「今日からこのF店のサポートをすることになった、東条さくらです。店長以外は初めてお会いしますが、よろしくお願いします」

あゆみも愛子も知香も、挨拶は返してくれたものの、戸惑いを隠せないといった表情だった。さくらは予約の合間を縫って、3人と面談することに決めていた。

「まずは、みんなと個々に話してみる。それから、3人のサロンワークをみて、何かヒントを得よう」と考えたのだ。午前中は、店長のあゆみと話をした。

「時間のムダなので、率直に言いますね。F店は、S店や他のお店と違って、特殊な環境なんです。だから、売上を上げようとすること自体、無理なんです」

あゆみの第一声は、穏やかな声とは裏腹に、少々過激な発言だった。

「それは、どういうことですか?」

「私、前のお店でも店長をやっていたから、わかるんです。そもそも、ティアラのターゲットって、20~30代のキレイになることに貪欲な女性ですよね? 通常、ターゲットに合わせて、サロンで提供するサービスやプロモーションを考える必要があります。でも、このF店は、既存顧客も新規の潜在顧客、つまり化粧品売場のお客様も、30代後半~50代の方が圧倒的に多いんです。そもそも、うちの会社が意図するターゲットの売上で成り立っているサロンではないんですよ」

さくらは、あゆみの主張を聞いて驚いた。正直、ここまでしっかりとした考えを持っているとは、思ってもいなかったからだ。

「たしかにそれは、一理ありますよね。では、あゆみさんは、F店の売上を上げようと思ったとき、自分たちで何ができると考えていますか?」

「私だって、いろいろ手は尽くしてみました。頑張って、このお店の売上を上げようと思っていましたから。でも、所詮無理だったんです。いろいろ試してみたけど、全滅でした。うちのサロンのウリは豊富な種類のネイルアートなのに、アートをしないお客様が大半なんです。なかにはオーダーしてくれる方もいますが、控えめでシンプルなものばかりなので、単価だって伸びません。F店は、そういうお店なんです。さくらさんのS店は、若いお客様が多くていいですよね。恵まれてますよ」

あゆみの言葉が、さくらの胸に刺さった。

「それに、うちのスタッフも、何を考えているのかわからないし...」

ひとり言のように、あゆみはそうつぶやいた。その後、愛子や知香とも話したが、前向きな話は聞けなかった。

「予約が入っていない時間が多くて、化粧品売場の通路でメニュー配りばかりしているので、つまらない」

「自分がこのお店のために何をしたらいいのか、よくわからない」

「ネイルアートのメニューをお客様に勧めても、なかなかやってくれない」

「誰も掃除してくれないから、自分がいつもやっている」

「店長は特に指示してくれないし、何を考えているのかわからない」

思っていた以上に、いろいろな話が聞けたように思う。もしかしたら、誰も何も話してはくれないのでは...と心配していたさくらだったが、杞憂に終わった。みんな、同世代か自分より年上だから、警戒されないで済んだのだろうか。

<つづく>