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メディアを診る・特別編 【第2回】ネイルサロン店長・さくらの読書成長記

文:渡辺 まどか(中小企業診断士)

「集客できるキャンペーン」をつくろう!

3周年記念イベントプロジェクト始動

『ネイルアートギャラリー ティアラS店』は、9階建ての某駅ビル内の7階、美容サロンエリアに立地している。以前、このエリアにあったのは、美容院と理容院、リフレクソロジーサロン(膝下マッサージの専門店)のみだった。しかし3年前、駅ビルのディベロッパーが、美意識の高い女性顧客の獲得を狙い、さまざまな業態の美容サロンを誘致し、大幅にエリアスペースを広げる形でリニューアルオープンした。このエリアは、リニューアルの際に「ミラクルビューティアベニュー」と名付けられ、20XX年5月には3周年を迎えることとなった。

このアベニュー内に立地するネイルサロンの店長・東条さくらは、俄然張り切っていた。というのも、駅ビルが主体となり、「ミラクルビューティアベニュー」の集客イベントが開催されることが決定したからだ。各テナントの代表者が出席する2月の店長会議で、その概要が明らかになった。

  • 企画意図は、新規顧客獲得と既存顧客の掘り起こし、複数テナントの相互利用促進である。
  • 3周年記念企画という切り口で、全店が参加するものとする。企画内容は、各テナントで自由に決めてよい。
  • 告知方法は、ホームページへの掲載に加え、駅ビルの関連会社が発行するクレジットカード会員にダイレクトメールを送るとともに、周辺エリア一帯の住民を対象とした10万部の新聞折り込みチラシにて展開する。それ以外に、可能な範囲で各テナントでも顧客に案内を送付してほしい。その場合、かかった諸費用のうち、半額を駅ビルサイドが負担する。
  • イベント期間は、5月1日~5月20日まで。

ターゲットをどうするか

大きな集客イベントにかかわるのが初めてとなるさくらは、ワクワクして仕方がなかった。

「こんなに大きなイベントに参加でき、しかも自分で企画できるなんて、すごくおもしろそう。それに、たくさんのお客様にご来店いただく絶好のチャンスだ。何としても、成功させよう!」

休みの日、いつものように書店に立ち寄ったさくらは、ビジネス書売場に向かった。せっかく与えられたチャンスを、ムダにはしたくない。そのためには、成功する=集客できる企画を立てる必要があると考え、ヒントが得られる本を探したかったのだ。

「集客」、「イベント」、「販促」...そんなキーワードを意識しながら、何冊か手にとって読んでみた。そして、最終的にさくらが選んだ本は、『人が集まる! 行列ができる! 講座、イベントの作り方』だった。

書店を出たさくらは、その足で行きつけのファミレスに行った。平日休みの多いさくらは、休日の日中を1人で過ごすことが多い。書店で本を購入し、ファミレスでデザートとドリンクバーを頼んで、数時間読書にふけるのが、さくら流の休日の過ごし方なのだ。

さっき買ったばかりの本を、さっそく開いてみる。この本は、著者が行政主催のさまざまな講座で、どのような工夫をして集客を図ったかが書かれた本である。そのため、さくらにとって使える情報と使えない情報がある。まずはもくじを開き、興味のあるところから読み進めていくことにした。すると、「第2章 ターゲットを絞れ」が視界に飛び込んできた。そこから読んでみる。

「『誰にでもきてほしい』は、誰もこない」―そんな冒頭のタイトルに、ドキッとした。たしかに、そのとおりだ。さくらとしては、自分の店にきていただけるのであれば、誰でもいい。1人でも多くの人にきてほしいからだ。

でも、巷にはたくさんのネイルサロンがあるため、サロンとしての独自性を発揮する必要がある。そうでないと、誰にも認知してもらえない。やはり、ターゲットを決めておくことは重要だ。先日の店長会議で配布されたレジュメをみながら、じっくり考えてみることにした。

「ミラクルビューティ―アベニュー3周年記念イベント」の企画意図は、「新規顧客獲得と既存顧客の掘り起こし、複数テナントの相互利用促進」とある。

「新規も既存も、どちらもほしいところだけど、今回の場合、どちらを優先させるべきか? 駅ビルが主体となって広告宣伝をしてくれるわけだから、新規顧客獲得のビッグチャンスであることは間違いない。既存顧客へのアプローチは、単独でもできる。やっぱり今回のメインターゲットは、新規顧客だ」

さくらは、バッグからボールペンを取り出し、配布されたレジュメの隅に、「新規顧客」と書いた。店では、メインターゲットを明確にしている。「流行に敏感な20~30代の会社員、もしくは主婦で、美容に継続的に投資しようという意識が高い女性」だ。実際に、通ってくる顧客の大半が、そのような属性である。

「それにしても、どうやったら新規のお客様に響くような企画が立てられるのだろう? 既存顧客よりも、新規顧客を獲得するほうが、数倍大変だもんなぁ...」

そう思いつつ、レジュメをみてみると、あるキーワードが目に飛び込んできた。「複数テナントの相互利用促進」と書かれている。さくらは、ひらめいた。

「そっか! 他のテナントの既存顧客を、うちの新規顧客にしちゃえばいいんだ!」

顧客を他のお店と共有しよう

さくらは、こう考えたのだ。「ミラクルビューティアベニュー」にはさまざまなテナントがある。ヘアサロン、エステサロン、メイクアップスタジオ、ヘッドスパ、マッサージサロン、アイラッシュサロン(まつげエクステンションを施すサロン)など、このフロアだけで全身を磨き上げることができる。各テナントのレイアウトや価格設定からも、ターゲットは『ネイルアートギャラリー ティアラ』とほぼ同様と考えられる。そこで、何店舗かとタイアップしたキャンペーンを展開することで、各テナントの既存顧客を他のテナントに誘導するようなしかけができ、共有できるのではないか、と考えたのだ。

その後も、さくらは本を読みあさった。すると、以下のようなヒントを得ることができた。

  • 胸に響くタイトルをつけよ
  • どの年代の心にも響く「私らしさ」
  • 「何の役に立つか」をうたう

そのうえで、さくらは企画名も考えた。題して、「私らしさを追求せよ! トータルビューティプロジェクト」だ。

翌日の出勤後、年が近く、仲良しのアイラッシュサロン店長・綾瀬ひかるに、さっそく相談を持ちかけた。

「へぇ。これ、おもしろそうだね! うちでやろうと思っていた企画より、ずっといいや。乗った!」

「マジで? やった! ひかるが便乗してくれたら、だいぶ心強いわ」

「ねぇ、せっかくだから、いいお客さんをいっぱい持ってそうなところを巻き込もうよ。メイクアップスタジオあたりが、うちともさくらのところとも、客層がかぶってそうだよね。店長の三池さん、イケメンだし...」

「三池さん? それが狙い??(笑)」

そんな軽口をたたきながらも、自分が頭をこねくり回して必死に考えた企画が実現しつつあることに、興奮を覚えるさくらだった。

次のご来店につなげる仕組みをつくろう

下心も手伝ってか、ひかるが三池さんにうまい具合に話を持ちかけてくれたおかげで、メイクアップスタジオからも快諾を得ることができた。「トータルビューティプロジェクト」は、3店舗共通のスタンプカードを発行して展開することにした。3店舗のうち、いずれかの店舗で施術を受けた方全員に、スタンプカードが発行される。そのスタンプカードを持って、他の2店舗で施術を受けると、さらにスタンプが押される。そして、「ミラクルビューティ―アベニュー3周年記念イベント」期間中に、3店舗すべてを利用していただいた方は後日、3店舗のうち好きなサロンで15分程度の施術を無料で受けられるというものだ。この企画は、本に書いてあったとおり、「私が行きたい!」を意識して考えた。

『ネイルアートギャラリー ティアラ』は、その名のとおり、ネイルアートのデザインサンプルの種類が他店に比べて豊富なことや、常に新しいデザインアートを開発していることが特徴のネイルサロンである。やはり、新規のお客様には、プロが施すネイルアートを体感してほしい。そのとき、お客様のなりたいイメージを大切にして、それを反映させたサービスが提供できれば、スタンプカードの戻りを、うちのお店で獲得することができる。そうなれば、固定客にするのはさほど難しいことではない。これは、本の最終章にあった「次につなげる方法」というキーワードに反応して、さくらが考えたしかけだ。

「トータルビューティプロジェクト」は、まだ始動したばかりだ。三池さんのメイクアップスタジオでは、ふだんはやっていないカウンセリング&アドバイス付のメイクアップメニューを提供するそうだ。また、ひかるのアイラッシュサロンでは、初心者限定のサービスとして、やはりふだんはやっていない1ヵ月の無料メンテナンスを提供するという。そして、さくらのネイルサロンでは、トライアルメニューとして、爪の形を整え、甘皮処理をし、カラーリングで仕上げるというベーシックなコースに加え、季節限定のカラーとデザインを用意し、お客様の好みに合わせてアレンジするという、世界に1つだけのネイルアートを提供することにした。

「『トータルビューティプロジェクト』、あたしもお客さんとして利用しようかな...」

自然とそう考えている自分に気づいたさくらは、このイベントの成功を確信した。

『人が集まる! 行列ができる! 講座、イベントの作り方』

【今回の1冊】

『人が集まる! 行列ができる! 講座、イベントの作り方』

牟田静香[著]
講談社+α新書 2007/4

集客の素人だった著者が、失敗を経験しながらも行政が行う講座で3.3倍の倍率を誇る集客ができるようになった、そのノウハウが具体的に紹介されている。内容が同じ講座でも、タイトルとチラシの構成が違うだけで、ターゲットの反応がまったく違う点が見どころ。失敗事例とその要因、それを踏まえたうえでの成功事例が紹介されているので、非常にわかりやすい。講座やイベントに限らず、小売店やサービス業の集客にも使え、誰でもマネすることができるのも特徴だ。