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メディアを診る・特別編 【第1回】ネイルサロン店長・さくらの読書成長記

文:渡辺 まどか(中小企業診断士)

「利益の方程式」で黒字化する

新人ネイリスト・さくら、店長になる

都内S区・ターミナル駅の駅ビルに立地するネイルサロン、『ネイルアートギャラリー ティアラS店』。ここの店長を務めるのが、東条さくら。ネイリスト歴1年の20歳である。

高校を卒業してすぐ、都内のネイルスクールに通い、在学中にネイリスト検定1級を取得した。スクールを卒業してからしばらくは、スチューデントサロン(ネイルスクールが運営する格安ネイルサロン。ネイリストはすべて、スクール生かスクール卒業生)や出張ネイルで経験を積んだ。そして1年後、『ネイルアートギャラリー ティアラ』を首都圏に10店舗展開する化粧品メーカー・E社にネイリストとして入社した。

配属されたのは、都内老舗百貨店の化粧品売場の一角にあるN店だった。顧客は富裕層が多く、優雅な空間でのんびりとした施術を好む方が多い。そのせいか、店長をはじめ、スタッフ全員がのんびりした雰囲気。でも、さくらは違った。

「あたしはまだ、ネイリストとして未熟だから、人一倍施術して腕を上げるんだ。そのためには、たくさんのお客様を接客して、1人のお客様に多くの技術を提供するんだ」―そう決めていた。

だから、ほかのスタッフを尻目に、さくらは化粧品売場にまで出て、サロンのメニュー表を手配りした。そして、興味がありそうなお客様にはその場でアプローチし、施術に引き込んだ。

とはいえ、あまり予約が入っていないようなときは、店長や他の先輩スタッフにお客様を譲らざるを得ないこともある。でもそこは、「一番下っ端なんだから、仕方ない」と割り切った。

自分が接客するお客様には、基本コース以外のオプションメニューをおすすめし、長時間の接客に及ぶことも少なくなかった。「たくさん施術して、うまくなりたい」という一心から行動を起こしただけだったが、新人としては異例の売上を上げるようになる。その結果、入社3ヵ月、ネイリスト歴1年という経験の浅さにもかかわらず、寿退社するS店店長の後任として抜擢されたのである。

「利益を上げろ」っていわれても...

S店店長になってすぐに、さくらは本社での店長会議に出席した。アジェンダは事前に知らされており、「前月の売上報告と今月の方針発表」がメインであることは把握できていた。とはいえ、さくら自身は、引き継ぎの数日をのぞいてはN店に勤務していたため、前月のS店の状況は把握できていない。したがって、前店長が記入してくれた売上報告書に書いてあることを発表する準備しかしていなかった。

ネイルサロン部門を統括する大野部長は、40代後半の男性。大手外資系化粧品メーカー出身のやり手だという噂は、さくらにも届いていた。さくらと同時期の入社のため、まだ4ヵ月目である。その大野部長が仕切る形で、7月度の店長会議が始まった。各店の店長が、売上報告書を読み上げていく。前月の売上目標、売上実績、達成率、客数、客単価...数字のオンパレードだ。ただ、どこの店舗も似たり寄ったりの数字で、いいんだか悪いんだか、さくらにはよくわからない。各店の発表が終わった後で、大野部長はおもむろにこういった。

「私がこの会社にきた理由の1つは、大赤字のネイルサロン部門を建て直すためだ。あなた方は日々、店頭での接客に精一杯で、あまり自覚はないかもしれないが、残念ながら現時点では全店が赤字だ。この赤字を、半年以内に黒字にするようにと、社長からはいわれている。私は他部門も担当しているので、あなたたちにつきっきりというわけにはいかない。そこで、ここにいる皆さんには、店長としての自覚を持って、利益を出すことを最優先に、日々のサロンワークに励んでほしい。もちろん、私もバックアップする。でも何よりも、現場にいるみんなの意識が一番大事なんだ」

利益を上げるための本選び

初めての店長会議に出席した帰り道、さくらは部長の言葉を思い出しながら、打ちひしがれていた。

「全店が赤字だなんて、思ってもいなかった。でも、それが現実。せっかく店長になれたのに、もし半年以内で黒字にできなかったら、ネイルサロン部門の存続も危ぶまれるかもしれない。ただ、利益を出せといわれても、どうやればいいのかよくわからないし...」

さくらは、近所の行きつけの書店に立ち寄った。ふだんは、文庫本コーナーやコミックコーナーに一直線なのだが、今日は迷わず、ビジネス書コーナーに向かった。「利益」というキーワードのもと、いくつかの本を手にとってみる。このとき、ビジネス書をよく読むという友人の言葉を思い出した。

「ビジネス書を選ぶときは、まえがきともくじを読んでみるといいよ。そうすれば、本全体の内容を大まかにつかむことができる。さらに、もくじの中で興味をひいた項目のページを開いて、読んでごらん。それでしっくりきたら、買いだね」

さくらは友人のアドバイスにしたがって、小一時間を本選びに費やした。そして選んだ本が、「勝間式『利益の方程式』 商売は粉もの屋に学べ!」だった。

利益を上げる方程式

帰宅後、さくらは一気にその本を読んでしまった。もともと本が好きなので、読み慣れているのもあるが、何よりもわかりやすく、読みやすかった。読み終わった後、本に書いてあった内容を実践すべく、作戦を立てた。

本書によると、万能利益の方程式は、以下のとおりだ。

「利益=(顧客単価-顧客獲得コスト-顧客原価)×顧客数」 この式の左辺である利益を増やすには、4つの原則がある。
  • (1)客単価を上げる
  • (2)顧客獲得コストを下げる
  • (3)顧客原価を(全体的には)引き下げる
  • (4)顧客数を増やす

でも、経験に乏しいさくらでは、すべてを同時にはできそうにない。そこで、(1)と(4)に力を入れることにした。厳密にいうと、この4つのバランスが重要とのことだが、赤字である現状を踏まえ、できそうなことからやってみることにしたのだ。

まず、(1)について検討してみる。同じ顧客に、いかにしてより高いメニューを選んでもらうか、より多く通ってもらうかに集中して考える。

前月のS店の顧客単価を計算してみると、3,500円だった。ネイリスト1人が、1日5人接客したら、17,500円。ここから、私たちのお給料や材料費、家賃を引いたら、赤字になるのも当然だ。今日の店長会議で、部長からは目安の数字が、このように提示された。

「1日の売上が、ネイリスト1人あたり3万円を超えられれば、黒字になる」

つまりは、こういうことだ。

「ネイリスト1人あたり1日の売上目標3万円=顧客単価×接客数」で、「現在の売上17,500円=3,500円×5人」。3万円となると、倍に近いし大変だけど、できないはずはないと思った。なぜなら、すでにさくら個人としてはクリアしていた数字だからである。自分の売上と照らし合わせ、S店全体としての目標数値を設定した。

「S店ネイリスト1人あたり1日の売上目標3万円=5,000円×6人」

ちなみに、顧客単価のほうに重点を置いた理由は、客数を増やすよりも顧客単価を増やすほうが容易だと、さくら自身の経験値で確信していたからである。

利益の増やし方を共有する

さくらはさっそく、その日のうちにS店スタッフ全員にメールで連絡し、翌日はいつもより1時間早く出社してもらうことにした。S店は、カウンター形式の5席で、そのうちフットケアにも対応できるのが2席である。その日は金曜日で繁忙日であったため、運よくS店専属スタッフ4名全員が出揃った。

さくらは、「S店を今後、黒字にするための目標」として、昨日考えた数字を全員に伝えた。全員が一様に、不安そうな顔をする。もちろん、想像どおりの反応だ。でも、さくらはこう考えていた。

「やってやれないことはない。それに、できない理由を考えるより、できるためにどうするかを考えるほうが断然楽しいはず」

そのことをスタッフに伝え、「みんなでできそうなことを考えよう」と提案した。

「客単価を1,500円、接客数を1人増やすためにできることは何か」

そう問いかけると、たくさんのアイデアが出た。

  • 「5,000円のお得なキャンペーンメニューをつくって、それを全員ですすめればいい」
  • 「1,500円のマッサージか、ネイルアートのどちらかをプラスしていただいたら、次回使えるサービス券を発行してはどうか」
  • 「ハンドケアのみのお客様に、フットケアもすすめてやってもらえれば、それだけで大幅な顧客単価アップになる」
  • 「1ヵ月のうち、3回以上ご来店のお客様には、何か特典をつけてはどうか」
  • 「全員が1日1人、通りすがりのお客様にアプローチして、予約を取りつけるようにしよう」
  • 「既存顧客に対しては、いままでのカルテの記録をみながら、ややグレードアップしたメニューをすすめよう」

全員でアイデア出しをするうちに、みんなの表情が心なしか明るくなってきた。そして気づくと、あっという間に1時間が経過していた。

「よし。今日は初日だから、いままで出たアイデアの中で、それぞれ自分にできそうなものをやってみよう。そして今日の閉店後に、もう1回話し合おう」

さくらがそう提案すると、全員が力強くうなずいた。そして、いつもどおりの開店準備にとりかかった。

「東条店長、私は店長の接客をマネします。そうすれば、目標を達成できるような気がします」

そんなふうに声をかけてくれたのは、未経験で先月入社したばかりのスタッフだった。

「うん。このメンバーなら、絶対に達成できるよ!」

さくらはそう返事しながら、「どのお店よりも早く、S店を黒字にしよう」と固く決意した。

『勝間式「利益の方程式」 商売は粉もの屋に学べ!』

【今回の1冊】

『勝間式「利益の方程式」 商売は粉もの屋に学べ!』

勝間和代[著]
東洋経済新報社 2008/4

いまや、トップマネジメントのみならず、現場社員にまで求められるスキルである「利益の生み出し方」。その手法として、4つの要素をコントロールするだけで、利益の最大化が実現できるようになる方程式を提唱しています。

また、これらの要素の具体的なコントロールの仕方を、事例を使ってわかりやすく解説しています。

さらに、読んで終わりとしないために、最終章に「40の行動習慣」も収載。知識の整理と、その知識を仕事につなげるための具体的な行動原則がまとめられ、学んだことをすぐにでも実践できるように工夫されている点は、特筆すべきです。