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策士、策に溺れていませんか?

文:飯田 順(中小企業診断士)

『日本でいちばん大切にしたい会社2』を読む

いま、「日本でいちばん大切にしたい会社」として紹介された中小企業が、注目を集めています。海外の難民の方々にメガネを通じ"見える喜び"を提供している株式会社富士メガネ(北海道札幌市)や、日本で一番長くて活気あふれる朝礼を行い、多くの障がい者の方々を雇用することでも知られる株式会社沖縄教育出版(沖縄県那覇市)など、新聞やニュースで、社名を見聞きしたことのある方も、いらっしゃるのではないでしょうか。本書は、2008年に発行された『日本でいちばん大切にしたい会社』の続編であり、小さくてもキラリと光る魅力を持つ8社の中小企業が、人々から愛され、魅力的であり続ける様子が取り上げられています。著者の坂本光司氏は、大学院で経営学を教えるかたわら、全国6,000社以上の中小企業との交流を持つ人物であり、独自の視点を交えながら、「日本でいちばん大切にしたい会社」とは何かを論じています。

大切な会社って、何だろう?

"収益力があり、株主配当や給料が高い会社"、"高品質な製品・サービスを提供する会社"、"誰もが知っている有名な会社"など、良い会社とは何かと問われれば、数多くの答えがあることでしょう。その中で著者は、"社員とその家族を大切にする会社"が、「大切な会社」の第一条件であると説きます。"一に人材、二に人材、三四も人材"が大事であり、社員や家族に加え、社外社員(外注先・下請企業)、顧客、地域社会、株主も大事にする会社が「大切な会社」であるとしています。

大切にしたい会社である理由

本書で紹介された会社が、「日本でいちばん大切にしたい会社」たるゆえんは、人材へのきめ細かな配慮を可能にする、経営者や社員の豊かな感受性にあるのではないでしょうか。経営者が社員に目を向け、耳を傾けることで、社員は経営者に心を開き、仕事と真剣に向き合う。それに顧客や外注先・下請企業は魅力を感じ、会社の商品・サービスは熱烈な支持を受ける。そうした他者の心を感じ取ろうとする姿勢、他者の想いを受けとめようとする態度の大事さが、本書からはうかがえます。

"何を甘いことを言っているんだ"、"そんなことでは会社は運営できない"といったご意見もあるでしょう。あるいは、"そんなことは、マーケティングの基本に過ぎない"、"単に、ES(従業員満足)を指しているだけじゃないか"と、お思いの方もいらっしゃることでしょう。それはそれで、ごもっともです。しかし、多くの会社が経営管理という名のもとに、会社の規律や仕組みの維持を優先したことで、社員は過大なストレスを抱え、経営者や同僚、顧客を人として信じられず、会社を立ち去っているのも事実です。また、従業員満足の向上を経営理念に掲げながら、その実は、多額の役員報酬や役員交際費を計上し、従業員は過酷な労働条件のもとに置かれている会社が多いのも、また事実です。

これに対し、本書で紹介された会社は、経営者や社員が笑顔の裏で、顧客のために血のにじむような努力を厭わない様子が描かれています。それは、会社の規律や仕組みにコントロールされた努力ではなく、自分の会社や仕事、同僚に誇りを持つことで芽生える、自らの意志に基づく努力であることが読み取れます。中小企業は大企業のように規律や仕組みが整備されておらず、人材が果たす役割は、相対的に大きくなります。人材を大切にできない会社や経営者が、顧客や取引先から支持を得ることはできないという著者の信念に基づき、人材の大切さが説かれています。

策士、策に溺れないために

企業の経営者や私たち経営コンサルタントは、さまざまな経営管理手法を取り入れ、会社経営の場に反映させています。しかし、こうした手法も、社員をはじめ、関係者の理解や協力がなければ、ただの経営者満足・コンサルタント満足に過ぎず、他者の満足は引き出せないのではないでしょうか。知らず知らずのうちに策士、策に溺れていないか、本書を通じ、いま一度、考えてみませんか。

この本は、私が経営コンサルタントとして日々過ごす中で抱えていた、"自分は、この企業にどうなってほしいのか?"、"自分は、なぜこの企業を支援するのか?"という疑問に、明快な答えを与えてくれました。著者は、"「日本でいちばん大切にしたい会社」は、今回の8社だけでなく、まだまだ多くの企業があり、これからも紹介していきたい"としています。今後も第3弾、第4弾と、「日本でいちばん大切にしたい会社」との出会いが楽しみです。

『日本でいちばん大切にしたい会社2』

『日本でいちばん大切にしたい会社2』

坂本光司[著]
四六判・254ページ
定価:1,470円(税込)
株式会社あさ出版刊 http://www.asa21.com/