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メディアを診る

SaaSで混乱の時代を切り抜ける

文:山口 亨(中小企業診断士)

『クラウド時代の中小企業経営』を読む

黒船クラウド到来

「Google」、「Amazon」、「SalesForce.com」―クラウドネイティブと言われるアメリカ企業が、かつての「幕末の黒船」のように台頭してきています。クラウドコンピューティングの実現により、「フリーミアム」と言われる新しい収益モデルも生まれ、「刀で黒船と戦う」ような旧来の考え方では難しくなってきています。今の世の中も、幕末のように急速に変化しているのです。このような時代に、日本の中小企業はどのように立ち向かっていったらよいのでしょうか。

弱者が世の中を動かせる時代に

身分制度が厳しく、下級武士が上級武士を超えることなど考えられなかった時代は移り、坂本龍馬をはじめとする多くの下級武士が、後世に名を残すようになりました。時代が大きく変わったのです。そして今もまた、時代は大きく変わりつつあります。経営資源に乏しい中小零細企業であっても、クラウドコンピューティングを活用することで、コスト的な制約を超えて大企業と同じ土俵で戦えるようになったというわけです。

本書は、クラウドコンピューティングの中でも中小企業が利用しやすいSaaSに焦点をあて、いかに経営に活かしていくかという視点で描かれています。中小企業経営者はもとより、中小企業診断士などの支援者側にとってもおすすめの1冊です。

理想と現実のギャップ

しかし中小企業の現場では、まだまだPCが使えない従業員も多く、「IT化なんて他人事だ」と感じている方も多いのではないでしょうか。また、いくら技術面や費用対効果の優位性を説明したところで、導入されても活用されないシステムになってしまうのではないか、と疑問をお持ちかもしれません。

本書は、「IT技術を利用しましょう」ではなく、「現場でいかに使ってもらえるか」という視点で書かれたものです。SaaSを導入した中小企業をモデルケースとして、業種別に多くの実例を紹介しています。さらに、パッケージソフトを併用した使い方や、あえてITを利用しない事例なども交えながら、成功・失敗事例を含めた中小企業の現場の声を紹介しています。特に、座談会形式での担当者の本音は生々しいものばかり。利用者、システム担当者、経営者など、それぞれの立場で共感できる点も多いのではないでしょうか。

人が支える中小企業

パッケージソフトやASP・SaaSなど、導入さえすればIT化ができるわけではありません。大手企業に勤めていると、PCは1人1台が当たり前で、ワープロや表計算ソフトは誰でも使えると思ってしまうかもしれません。しかし、実際の中小企業の現場はそうではないことが、この本を通じてわかると思います。いくらIT化が進んでも、結局は人がシステムを利用します。PCが利用できない社員には、携帯電話で簡単にシステムを利用してもらう工夫をしたり、講習会を開催したりと、社内での仕組みづくりも必要となるのです。

中小企業経営者にとっては、IT化へ取り組む際に技術面やコスト面だけでなく、現場での運用面や教育面などの仕組みづくりにおいて、本書が大変参考になるでしょう。また、支援者側においても、中小企業の現場におけるITスキルの実態がわかり、技術面や費用対効果を説明するだけでは、導入されても実際に活用されない場合があることに気づくのではないでしょうか。

人がシステムを利用する環境さえ整えられれば、クラウドコンピューティングの恩恵は、中小企業がもっとも受けられるはずです。少ないコストで業務効率化を図れるとともに、得意分野の差別化に経営資源を集中させることもできるのです。この本を参考に、黒船クラウドを避けるのでなく、うまく利用してはいかがでしょうか。

えっ? そもそも、クラウドやSaaSって何かって?? そういう方もご安心を。本書のわかりやすい説明をご覧いただければ、きっとおわかりになるでしょう。

『クラウド時代の中小企業経営』

『クラウド時代の中小企業経営』

独立行政法人中小企業基盤整備機構 [編]
A5判・176ページ
定価:1,890円(税込)
株式会社同友館刊 http://www.doyukan.co.jp/store/item_046438.html