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都市における魅力創造

文:上田 恵美子

『まちづくりと創造都市-基礎と応用-』

まちづくりの現場に向けての都市の理論

この著書は創造都市という考え方から現場のまちづくりにアプローチして行く本です。創造都市とは、近年、世界中が注目する都市の考え方です。荒っぽく言えば都市における創造的な環境を整えて行きましょうという都市の方向性を示しています。国内では創造都市研究者の第一人者としては佐々木雅幸氏があげられます。佐々木氏は「創造都市とは市民の創造活動の自由な発揮に基づいて、文化と産業における創造性に富み、同時に、脱大量生産の革新的で柔軟な都市経済システムを備え、グローバルな環境問題や、あるいはローカルな地域社会の課題に対して、創造的問題解決を行えるような、『創造の場』に富んだ都市」と定義します(佐々木雅幸編著『創造都市への展望』42頁)。

創造都市の中心となるテーマはこれからの産業と文化で、文化の持つ創造性を重視しながらどのような産業を都市に立地させるかを課題としています。本編で紹介されていますが、イギリスでは創造産業を中心とする産業政策が採られています。ここでいう創造産業とは「個人の創造性や技能、才能に由来し、また知的財産権の開発を通して富と雇用を創出しうる産業」のことで、「具体的には、広告、放送、デザイン、ファッションデザイン、コミュニケーション・デザイン、建築設計、編集、批評、報道、映像、映画、ビデオ産業、美術・イラストレーション、手芸・クラフト、美術品アンティーク、音楽産業、舞台芸術、出版、ゲーム・ソフトウェア開発、コンピュータ・サービスなど(本文23頁)」です。これらの産業はGDPの4%を占めていて、成長率をとって見ても他の産業に比べて有望と言えるでしょう。

国内の都市とものづくりの関係

国内の創造都市の議論も、特にアーティストやクリエーターと言われる人たちには注目します。「往々にして、日本の「ものづくり」は、熟練と技術のみを強調し、デザインやアイデア等の創造性や付加価値には無頓着であった」と、創造都市の研究者後藤和子氏は言っています。「日本有数の眼鏡産地が数人のデザイナーしか抱えていない状況では、イタリア等の洗練されたデザインを有する眼鏡生産と競争できるはずもない」。こうした日本の現状に対して、欧米ではデザイナーがまちづくりに関わるようになってファッション関連産業と都市が伸びた例などを挙げています。(佐々木雅幸編著『創造都市への展望』85~104頁)。

欧米では文化と産業が都市という舞台の上で好循環を起こしているように感じられますが、国内にはそんな事例はまだ少ないでしょう。私が以前にたまたま関わった調査でも、先の眼鏡の例と同様、地方都市の地場産業の中には非常に高い技術を持っているにも関わらず、デザインが洗練されていないという産業がありました。行政がデザインセンターなどの施策で支援しても、どこかしっくり馴染まない。中小企業はデザインまで手を出せないので自社ブランドを構築できず、従って大手企業のブランドの下請けということで甘んじています。つまり、自ら創造することを放棄するということになります。それは、中小企業は事業に余裕がないというのもありますが、技術を持っている人の中に文化がない、つまり作り手の日常生活に文化がないのでデザインの価値がわからないから使えない、また消費者側にも同様にデザインの善し悪しが判断できないから有名ブランドということで判断してしまうというのもあるでしょう。やはり都市では、市民全体の文化の向上・発展というものが必要と思います。市民が文化・芸術に親しみを感じている都市では、本物がわかる市民が増え、市民の購買行動が製品を育てていると考えられるのではないでしょうか。老舗と言われる店舗が多いまちでは、そのまちの住民も老舗の商品には敏感で、住民がよりよい商品を求め店舗もそれに応えるといった循環ができているのがその例です。

まちづくりと創造都市

実際に、創造都市論は、国内では金沢市、横浜市を筆頭に、いくつかの自治体の政策にインパクトを与えてきました。こうした都市の考え方は、より小さな単位を対象とするまちづくりであっても無縁ではないことは言うまでもありません。

この本ではまちづくりと創造都市について、基礎編では創造都市に関わる概念が整理され、応用編では事例が紹介されています。創造都市をキー概念とする著書や翻訳は他にもいくつも出版されていますが、初めて都市論を理解しようとする人にはこの本がお奨めと思います。この本は、現場でまちづくりに取組もうとする読者層を意識して編集されています。ただ、この本は関西で出版され、大阪の都市政策を念頭においている部分が多く、少し偏りがあるということは断っておかなければなりません。応用編で取り上げられている事例もほとんど関西です。しかし、この本が伝えようとしているこれからのまちづくりのあり方は、大阪であるかないかは関係なく、全世界共通のものだと言えるでしょう。

主体から見るまちづくり

この本は創造都市の考えを現場のまちづくりにまで押し広げ、経営組織論やマーケティングなどのより実践に近い理論を紹介しています。創造産業の集積は垂直型ではなく、横の繋がりを重視しますが、そのこととも関係して話題となることが多い概念がソーシャル・キャピタルです。

ソーシャル・キャピタルという言葉自体は古くからあったそうですが、90年代後半のロバート・パットナムの研究で世界中に広く知られるようになりました。直訳すると社会資本ですが、国内では社会資本は道路や港湾などの別の意味で使われていますので、「社会関係資本」と訳されたり、近年は翻訳せずに「ソーシャル・キャピタル」とそのまま使われていても通じるようになりました。

パットナムはソーシャル・キャピタルを「人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を改善できる、信頼、規範、ネットワークといった社会組織の特徴」と定義しています。本文では、ネットワーク、信頼、規範について解説し、まちづくり組織の成長モデルなども提示しています。

魅力的な都市づくりに向けて

まちづくりに完成がないように、都市デザインにも完成があるはずがありません。同時にまちづくり論や都市デザインも終わりはなく、創造都市も今後まだ発展していく概念です。今の時点で言えることは、都市に今必要とされているのは、若手のクリエーターや技術者を中心に多様な異業種が水平な関係を作り、都市の文化(歴史的に培われてきたしくみや土地固有の資源との関係性)を活かしながら創造的な展開を起こしていくことです。そうした積み重ねで魅力的な都市やまちが誕生し、独自の創造的な産業集積が形成されていくということではないでしょうか。

『まちづくりと創造都市-基礎と応用-』

『まちづくりと創造都市-基礎と応用-』

塩沢由典・小長谷一之[編著]
234ページ
定価:1,995円(税込)
晃洋書房刊 http://www.koyoshobo.co.jp/