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基本に戻り、大切にされる会社になる

文:村橋 保春

『日本でいちばん大切にしたい会社』

大切にしたい会社という観点

本書を読むと、子供のころの家族に戻った気がする。

子供は家族の中で少しずつ役割を与えられ、経験を積み、育っていく。成長により、与えられる役割も少しずつ変化する。自分自身の成長を感じ取った子供はその自身の成長を喜び、成長を喜ぶ子供を見て家族は微笑みかける。家族がみなお互いを大切に、大切にされる。家族の中での希望は、大金持ちになることでも、家族のメンバーを御するような権限を持つことでもない。お互いを思いやり、慈しみ、大切にしあう状況が続くことであったと思う。家族の中では、基本的に競争はない。

子供が成長し、社会に出て行く。そこには競争があり、利害の対立がある。戦い、争い、抗い、勝ち進むことが求められる。お互いを大切にしあうことの少ない世界である。ビジネスの世界ではその特徴が一層はっきりする。会社はビジネスの世界のプレイヤーであり、いつも戦闘意欲を持って、ファイティングポーズを維持しなければならない。グローバル経済化が進み、誰もが自己責任を求められるようになり、社会では常に緊張を強いられることとなった。

そんななかで、本書の目次を読んでみる。

2部構成になっており、第2部では「日本でいちばん大切にしたい会社たち」として、5つの会社を紹介している。それぞれの会社にふられたコピーを並べてみる。

  • 障害者の方々がほめられ、役立ち、必要とされる場をつくりたい
  • 「社員の幸せのための経営」「戦わない経営」を貫き、四八年間増収増益
  • 「人を支える」会社には、日本中から社員が集まり、世界中からお客様が訪ねてくる
  • 地域に生き、人と人、心と心を結ぶ経営を貫いていく
  • 「あなたのお客でほんとうによかった」といわれる、光り輝く果物店

これらのコピーには、競争や対立といったことをイメージさせる言葉はない。本書を読んで、子供のころの家族に戻った気がする理由はここにある。

会社は営利を得るための器、近年では会社自体を直接売り買いする対象にしてしまった。高度成長期には、経済成長を併せてほとんどの企業も成長を続け、どんどん人を雇い入れた。慢性的な労働力不足から労働供給側、つまり働き手のほうが強い立場にあり、会社は従業員にとって居心地のいい環境、条件を整えていった。会社も従業員も成長を言うベクトルの上に乗り、幸せな関係を維持することが出来た。

金融経済の進展に原因を見出し、営利を目的として企業活動をする会社を単純に批判することはしない。しかし、会社の目的や成果を金銭的利益にだけ位置づけてしまうことで、会社自体が利益獲得の道具となり、大切にされず使い捨てにされる存在になってしまった。

著者は「現場で中小企業研究や、がんばる中小企業の支援をする」ことをモットーとした研究者である。中小企業の現場でその実体を数多く見聞きしてきた実績を持つ。実践的で、具体的で問題解決型の思考が出来る研究者である。

著者は長年の研究の成果として、会社経営とは「五人に対する使命と責任」を果たすための活動として定義している。その内容は以下の通りである。

  1. 社員とその家族を幸せにする
  2. 外注先・下請企業の社員を幸せにする
  3. 顧客を幸せにする
  4. 地域社会を幸せにし、活性化させる
  5. 自然に生まれる株主の幸せ

これらの使命や責任のために、企業は業績より継続を重視する必要があると説く。大切にするということは、丁寧に、長く、愛でることである。著者は「大切にしたい会社」というキーワードをこうした思考の中で見つけ出した。

大切にしあう気持ちを呼び戻す

本書では5つの大切にしたい会社を取り上げている。読んでみると、いずれの会社も本当に大切にしたいと思う。心から思う。知的障害を持つ人を積極的に採用するチョークメーカーの日本理化学工業株式会社の章は、何度読んでも心が震え、感じ入って涙がこぼれる。どんなことがあってもこの会社を大切にしたいと考える。フィクションでなく、現実にこうした会社が日本にあることと、心底誇り高く感じる。

本書を読んで、会社とはそもそも何であるかについて改めて考える。会社は競争や対立に勝ち残るための武器であるのか。競争や対立を緩和し、家族同様、お互いを大切にし合える環境を作る揺りかごであるのか。基本に立ち返り、理想を掲げて、会社のあり方を考えてほしい。

中小企業診断士は、単に利益を追求するビジネス指南ではないはずである。

あなたはどのようにお考えになるか。

『日本でいちばん大切にしたい会社』

『日本でいちばん大切にしたい会社』

坂本 光司[著]
207ページ
定価:1,400円(税込)
あき出版刊 http://www.asa21.com/