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歴史から何を学んで来たか

文:村橋 保春

『検証 拓銀破たん 10年』

北海道経済に度重なる試練

米国の投資銀行の破綻の後、米国経済が急激に悪化し、その影響は全世界に及んでいる。米国発の世界不況である、100年に一度の経済危機であると、繰り返し喧伝されている。全国各地に出向き、地域振興に携わっているが、全国ほとんどの地域で厳しい局面に至っていると感じる。バブル経済崩壊後も、ものづくりを産業基盤とする中部地方はしっかりとした経済状況にあったといえる。しかし、今回の経済悪化は資産経済にとどまらず実体経済をも蝕んでおり、自動車産業まで悪影響を及ぼしている。長期に低迷していた日本経済の中にあって一人気を吐いていた中部地方も今回は相当の打撃を受けている。

地域別では、北海道経済はかねてから厳しい状況にあった。石炭産業、水産業、林業、製紙業など、得意とする産業分野は、経済構造の変化により、かなり以前から衰退傾向にあった。国による開発事業も、財政状態を反映して以前のように期待することは出来ない。第一次産業の収益性の向上に努め、IT産業の一層の推進や観光産業の確立を目指して、新しい産業構造の構築に努めてきた。しかし、今回の経済危機は北海道に深刻な打撃を与えている。

北海道を代表する老舗百貨店が破綻した。同社は以前から厳しい経営状況にあった。債務免除や大手百貨店による支援などにより、これまで少なくとも2回の破綻の危機を回避してきた。しかし、今回は経済激震に耐えることが出来なかった。500億円の負債を抱えた民事再生法の適用申請は、その負債規模自体大きい。しかし、北海道民が親しみを持つ百貨店がつぶれたという、心理的打撃は単に数字だけで納まらない。地域商業の華やかさと高質な商業文化において大きな役割を果たしている百貨店の破綻は、地域住民に陰鬱な気持ちを与え、地域商業者には事業計画の再考を迫るものとなる。

北海道は今回の老舗百貨店の破綻より12年前に、実質的、心理的の両面で、非常に大きな打撃を受けた経験を持つ。北海道における都市銀行である拓銀(北海道拓殖銀行)の破綻である。拓銀は1900年に国策銀行として発足し、後に普通銀行に展開するが、一貫して北海道経済のリーディングカンパニーとして、重責を担い続けてきた。北海道経済にとどまらず、北海道のあり方についても、強く影響を与え続けてきた会社である。その破綻は、北海道の中にあるもの全てをひっくり返すほどの状況にあったといって決して言い過ぎではない。

北海道は、特に北海道経済は十年余の短い間に、度重なる大きな試練を受けている。

企業の心の財産とは

今回、紹介する書籍は、拓銀の破綻への経緯とその後の動向を取りまとめたものである。

破綻に至るまでの、破綻に突き進む経営陣の動き、破綻の局面での関係者の思惑、明らかになる人間性などを、新聞社らしい豊富なデータと多方面からの調査に基づき分析している。関係者の証言も数多く載せている。踏み込んだ証言を数多くつかんでおり、この点でも新聞社らしい。

第5章の拓銀行員たちのその後は、読み手を元気付ける。本章の小見出しに、最強の「人材バンク」と記している。本書の意図するところを明確に示している。企業は経営環境や経営陣による経営判断の誤りで、破綻することもある。多くの関係者に迷惑をかける。ただし、企業では、ヒトが育っているのである。従業員は仕事を通じて、社会への貢献を目指して、自己を研鑽し、実力を蓄えていく。企業にとって真の財産はヒトであることを、本書は強くメッセージとして発しているのである。

歴史をきちんと学んでいるか

本書では、第6章の北海道経済の針路の中で、北海道の将来を語っている。しかし、本書全体の中で、第6章はどうも迫力にかける。執筆者は経済には明るいが、経営や事業に関する理解はそれほどではないのかもしれない。丁寧にインタビューをしているが、会社や経営者のもう一歩奥をきちんと見ていない。問題の本質をあえて避けているようにも感じられる部分もある。

歴史をきちんと学んでいるか。この点に尽きる。歴史の評価は十年余では定まるものではないかもしれない。しかし、歴史はすぐに教訓を示してくれる。ヒトがヒトとして成長するのは経験によるものであり、経験のなかで特に成長に寄与するのは教訓であると考える。

北海道は拓銀の破綻から、何を教訓として学んだのだろうか。10年後に著されるかもしれない「検証 老舗百貨店破たん 10年」の発行後は、こうした試練は繰り返されないことを願うばかりである。

『検証 拓銀破たん 10年』

『検証 拓銀破たん 10年』

北海道新聞社[編]
536ページ
定価:1,900(税込)
北海道新聞社刊 http://www.aurora-net.or.jp/doshin/book/