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中小企業診断士の広場

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結局は信じて動いてもらわなければならない

文:村橋 保春

『人ったらし』

人は理屈だけでは動かない

中小企業診断士の主な業務は、経営状況を分析・把握し、ふさわしい事業の方向を検討し、その診断内容をクライアントに提示することである。クライアントの業績が向上する事を願って、一所懸命に検討を重ね、実施しやすいアクションプランを練り上げる。そして報告書に取りまとめ、その内容を伝える。中小企業診断士にとっては、報告により業務の区切りがつく。しかし、クライアントにとっては報告書を受け取った時が、その内容を実施するスタートラインに立っているのである。

仕事柄、大学研究者とともにコンサルティングをしたり、パネリストとしてコメントしたりすることも多い。大学研究者は「正解」を一方通行で伝えているケースが目立つ。これに対して、中小企業診断士のようなコンサルタントはクライアントに対してどのように話せばよいだろうか。
 コンサルタントは、クライアントに成果をあげてもらえるように、つまり診断や助言の内容をいかに納得し行動に移してもらえるように力点を置いて話をする必要がある。コンサルタントと大学研究者との違いはここにある。

人を行動させるには、理屈だけでなく、その人の話であればなんとなくやってみようかという気にさせることが求められる。調査分析から、経営企画、経営改善に進むためには、クライアントとのコミュニケーションの中で、資格者(中小企業診断士)としての関係にとどまらない、信頼と依存と安心がないまぜになった心的関係が必要となる。

相手の心をトロトロにする

本書の表題「人ったらし」はあまり上品な言葉ではない。「誑す(たらす)」とはだますこととされている。しかし著者はこの言葉にこだわっている。特に促音の「っ」に思いを込め、以下のとおり定義付ける。
 その人がいるだけで、その場の空気がガラリと変わる。
 近くにいれば、気分がリラックスする。言葉を交わせば、まずまちがいなく元気になれる。それどころか、その人と話しているうちに、自信のようなものさえ湧いてくることもある。あ、オレもまだまだヤレるかも知れないぞ。つい後ろ向きになりがちな気持ちが、なんだかずいぶんと風通しが良いものになっている。
 そんな特別な能力を持った人が、世の中にいる。そうした人たちのことを、私は憧れと敬意をこめてずいぶん以前から「人ったらし」と呼んでいる。

著者は雑誌の編集者を経て、長い間テレビの司会者も勤めてきた。「癖のある」人たちとも数多く知り合ってきた。玉石混交だと思う。そうした目の肥えた著者が本書で「人ったらし」として取り上げる人たちは、必ずしも社会的に褒められたことばかりをやってきたとはいえない。ただし、会った瞬間、なぜか相手の心をトロトロにするのである。

本書では、有名人としてはアントニオ猪木、吉行淳之介、桑田佳佑、辻仁成、梨本勝などから、著者の個人的な付き合いの人まで取り上げられている。果ては詐欺師クヒオ大佐も登場し大変バラエティである。5章に区分され、簡単なテーマを与えている。いずれもエピソードを取り上げ、どのような人ったらしであるかについて著者の視線でまとめている。興味を感じるページから読み始めて問題ない。

第一章『「オネーさん、お水ね」といえる人』の内容は、コンサルティングするうえで参考になると考える。中小企業経営者に対してコンサルティングする場合、自営業者の特性や接し方など、いいヒントが隠されている。

相手を緩ませて、行動させる

本書を通じて、「人ったらし」は強さやすごさによらず、尊敬や畏怖を強いることなく、なんとなく緩んだ気持ち(トロトロ)にさせて、信頼と依存を得て、相手を安心させていることがわかる。
 中小企業診断士として、クライアントが診断内容をしっかりと受け止め、行動まで進んでもらうことを志すのであれば、「人ったらし」の手法も取り込んでもらいたい。言うは易し、行なうは難しかも知れない。けれども、中小企業診断士の魅力と力量は、どうも「人ったらし」の部分も含まれているように感じられて仕方がない。

『人ったらし』

『人ったらし』

亀和田 武[著]
新書版・232ページ
定価:746円(税込)
文芸春秋刊 http://www.bunshun.co.jp/l