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人の心を動かす話し方

文:高木 麻未

『影響力の武器 なぜ、人は動かされるのか』

日常生活にみられる説得と受諾

仕事で、家庭で、道を歩いていて・・・わたしたちは日常生活の中で、非常に多くの頼みごとをしたり、頼みごとをされたりします。
たとえば、あなたがコピーを取るために順番に並んでいたとしましょう。あなたの後ろに並んでいた人が先にコピーを取らせてほしいと頼んできました。このような状況はコピーに限らず、銀行のATM、駅の切符売り場など、日常的によくある出来事です。さて、このような場合に、以下のように声をかけられた時、あなたならどのような対応を取るでしょうか―。
(1)「すみません、5枚だけなんですけど、先にコピーを取らせてくれませんか」
(2)「すみません、5枚だけなんですけど、急いでいるので先にコピーを取らせてくれませんか」
(3)「すみません、5枚だけなんですけど、コピーを取らなければならないので、先にコピーを取らせてくれませんか」
一見、大きな違いは無いように見える3つ文章ですが、この頼み方には、人が要請を受諾してしまうポイントが表れています。
実験の結果、(1)の頼み方では承諾率が60%であったことに比べて、(2)の頼み方での承諾率は94%にものぼり、ほとんどの人がこの要請を受諾しました。人間行動の原理としてよく知られているもののひとつに、人に何か頼みごとをするときには理由を添えた方が成功しやすくなる、というものがあります。つまり、この承諾率の差異は、(1)と(2)の頼み方の違い、「急いでいる」という理由の有無から生じた結果であると考えられるでしょう。
ここで、(3)の文章をもう一度読んでみてください。(3)の頼み方には理由に該当するものはまったくありません。内容だけを考えるならば、(1)となんら変わりないことがわかります。

ところが、(3)の頼み方でも(2)の頼み方とほぼ変わらない93%の承諾率を示したのです。なぜ、理由を述べていない頼み方であるにも関わらず、理由を述べられた場合と変わらない承諾率の高さが生じたのでしょうか。

影響力の武器とは

本書は、実験的研究とセールスマン・募金勧誘者・広告主などの承諾誘導のプロとよべる人々の観察やインタビューから、承諾を導き出す原因を探っています。その結果得られた、承諾するという行動を生み出す基本原理を「影響力の武器」としています。
影響力の武器は、返報性・一貫性・社会的証明・好意・権威・希少性の6つに分類されます。

返報性 他者から何かを与えられたら自分も同様に努めることを要求する規範が存在し、この規範が他者の要請を受け入れるか否かの決定に大きな影響を及ぼす
一貫性 人には自分の言葉、信念、態度、行為を一貫したものにしたい、他人にそう見られたいという欲求があり、いったん承諾を引き出すと、その後の決定が承諾と一貫した方向になる
社会的証明 人がある状況で何を信じるべきか、どのように振る舞うべきかを決めるために使う重要な手段の一つは、他の人々がそこで何を信じているか、どのように行動しているかを見ることである
好意 人は自分が好意を感じている相手にはイエスと言う傾向がある
権威 権威からの要求に服従させるような強い圧力があり、権威からの命令であるというだけで盲目的に従ってしまうことがある
希少性 人は、機会を失いかけるとその機会をより価値のあるものだとみなすため、「数量限定」、「最終期限」といった承諾誘導の戦術が有効となる

本書では、この6つの原理について、その原理と承諾誘導に与える影響力、またこれらに対する防衛法について、章ごとにまとめられています。

モチベーションを認識(認知)する

個人が各々、いかなるワークモチベーションを抱いているのか、それを認識する過程が存在します。このような観点は、モチベーションの内容や特性ではなく、モチベーションがどのような心理的過程を経て成立するかという視点からのアプローチといえるでしょう。
本書ではモチベーションの認知過程も取り上げられています。具体的には「外部環境からの情報や思い出された記憶情報を刺激」とし、「現実にはまだ充足していない潜在的満足を意識することによってモチベーションが生じ」、「自分に開かれていると感じる一連の選択肢の中から、潜在的満足に関する自分の意識とその満足を達成することに関する期待から成り立っている一つの目標を選び出し」、「設定した目標を達成することを意図して行動」し、「目標達成によって何らかの報酬が得られ、満足する」という認知理論の基本的な考え方に基づいたモチベーションの認知理論を紹介しています。
 ワークモチベーションがいかにして人の心で生じるかという過程を知ることで、先にあげられたモチベーションがどのような働きを持つかが、より理解できるでしょう。

人間の行動原理

冒頭で紹介した説得場面において(3)の承諾率が高かった理由は、「ので」という単語にあります。わたしたちは、「ので」という単語の後には理由が説明されることを経験的に学んでいます。そのため、「ので」という単語を聞いただけで、たとえその後に承諾するに値する理由が述べられていなくても、理由があるのものだと勝手に考えてしまい、自動的に承諾をしてしまったと考えられています。このような自動的行動に関しては、「手っとり早い影響力」として最終章にまとめられています。

よりよい説得と説得への対処

本書では、本文中に示された具体例や、「読者からのレポート」という形でまとめられた、読者の周囲で生じている要請・承諾の場面などから、日常生活のなかで、私たちがいかにさまざまな事象から説得を受けているかが実感を伴って理解することができるでしょう。

本書は、他者から承諾を引き出すための武器にはどのようなものがあるのか、それらを有効に使うにはどうしたらよいのかを考える大きな手掛かりとなります。また、説得される側の視点から、これらの承諾誘導の原理を知ることで、望まない要請を承諾せずにすむような対応はどのようにすればよいのかを考えるうえで非常に有効な一冊となるでしょう。

『影響力の武器 なぜ、人は動かされるのか』

『影響力の武器 なぜ、人は動かされるのか』

ロバート・B・チャルディーニ[著] 社会行動研究会[訳]
A5版・374ページ
定価:3465円(税込)
誠信書房刊 http://www.seishinshobo.co.jp/index.html