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隠蔽(粉飾・偽装)は発覚したときの社会的影響がわかる

文:濱 満久

『監査難民』

詳細かつ臨場感のある解説

本書を執筆した種村氏は共同通信社経済部の記者です。取材では建設、証券、銀行および財務省などを担当されていたため、産業再生機構や不良債権処理、粉飾決算などの問題には裏事情まで精通されています。本書の中で扱われている世間を騒がせた上場企業の経営破綻などの事件も、海外の大きな事件との比較や他の事件との関連および政治的な背景などを随所にふまえて描かれています。
筆者はまた、米国公認会計士の資格も取得されています。そのため、公認会計士監査における監査法人の立場からの心情描写も見事です。

監査法人の業務

監査とは、企業が株主や債権者などの利害関係者のために報告する「財務諸表」を適正に作成しているかどうかを、第三者の立場から調べることです。いわゆる「会計の番人」の役割を果たすのです。
 本書はその監査の役割を担う監査法人の中でも、かつて四大監査法人の一つであった、みすず監査法人(旧中央青山監査法人)が、組織を解体せざるを得なくなった経緯を詳述しています。では、本書のタイトルとされている「監査難民」とはいったいどういうことを指すと筆者はいっているでしょうか。

「会計ビックバン」による「護送船団方式」の崩壊

上場企業の場合、監査人の出す「監査報告書」が「不適正」や「意見不表明」とされれば、上場廃止に追い込まれます。その影響の大きさを考えると、監査法人も粉飾の疑惑のある企業の監査を辞退することが起こり、その結果、監査の引き受け手が存在しない「監査難民」が生じる、と筆者は説明しています。

本書は経済成長期までの日本経済の特徴である、銀行や企業による株式の相互持ち合いとそれを旧大蔵省が監督するという、いわゆる「護送船団方式」においては、外部監査は形式上の意味しか持たず、問題を先送りできるのがよい会計士とさえいわれたシステムが、バブルの崩壊や不良債権問題が隠しきれなくなり外圧も加えて、ついにはカネボウの粉飾決算発覚を契機に急速に進んだ改革により、会計の番人に代償が払わされた一連の流れをとらえています。本書の内容の大部分は、カネボウの粉飾決算の巧妙な仕組みや発覚後の中央青山監査法人内部の動揺、監査業界および行政当局の対応、さらにその大きな影響を中心に展開されています。

監査法人の抱える「ジレンマ」

筆者は日本の監査法人が企業との関係を長く良好に維持し、監査対象企業の組織や業務を深く理解することは優れた特徴と評価しています。しかしその関係には「甘え」や「馴れ合い」が付きものであり、それが最悪のかたちで現れたのがカネボウ事件であると指摘しています。
 さらに筆者は、日本の金融資本市場を「フリー(自由)」「フェア(公正)」「グローバル(国際的)」となるべく施された「会計ビッグバン」は、規制緩和という名の制度劣化をもたらしたと指摘しています。不十分なマーケットであるにもかかわらず、金融庁の処分は業者の処分が中心で、市場規制の不備による不正を摘発する体制が十分に整っていないことに触れ、そのような状況において監査法人ばかりに責任を押しつけることにも問題があると述べています。
 また中央青山監査法人が業務停止となれば、800社に上る監査を委任されている上場企業がいっせいに監査法人の変更を余儀なくされるが、その多くは株主総会に間に合うように後任の監査法人を決定することが不可能であるという監査法人側が出した意見書を、金融庁が取り合わなかったことにも触れています。このように筆者は、「ルール重視」を鮮明に打ち出し業務停止を断行しようとする金融庁と、「監査難民」を防ごうとした監査業界との軋轢についても問題視しています。

今後に向けて

このところ、特に大手食品メーカーの偽装問題が次々と発覚し、大きな社会問題となっています。企業は少しでも何とかしてもうけを捻出しようと、あの手この手と方策を打ちますが、経営者は時に、違法な手段に手を染める衝動に駆られてしまいます。その手段の1つとして、粉飾決算すなわち会計上の偽装がなされていることもあるのです。しかしそれらはいったん発覚すれば、金融不安を招き株式市場において連鎖的に反応し、経済全体の不況を引き起こしかねないものであることからも、大きな社会問題をもたらせるものといえるでしょう。本書では金融の専門家や会計士・弁護士らが一体となって日本の資本市場の発展と国際化を推進する総合戦略が練られているため、これまでの事件を教訓とし、問題企業への監視の手を緩めるべきではないと、巻末で強く述べられております。
 このように本書を紹介したわけでありますが、私は決して会計の専門家ではありません。しかし門外漢でも非常に読みやすく、少しでも会計にかかわることに興味がある人であれば、是非一読することをお勧めします。

『監査難民』

『監査難民』

種村大規[著]
四六判・271ページ
定価:1,680円(税込)
講談社 http://www.kodansha.co.jp/