経営コンサルタントの国家資格”中小企業診断士”の情報が満載です。 中小企業診断士の広場

中小企業診断士の広場

メディアを診る

結局は自分で考えるしかない

文:宇都宮 譲

『入門から応用へ 行動科学の展開-人的資源の活用-』

動機づけの流れを知る

わが国企業にとって、労働生産性向上は重要な課題のひとつです。
定義からすれば、高い付加価値を有する財・サービスを生産するかより少ない労働力で財・サービスを生産することで労働生産性は向上します。実際に労働生産性を向上させるには、さまざまな施策が必要ですが、職務を担当される方々が働きやすいようなリーダーシップ、動機づけを図る方法を適用することもまた必要でしょう。本書は、リーダーシップや動機づけ法に関する学説を取り扱う行動科学と呼ばれる領域を概観します。


 本書は、はじめに行動科学の重要性を語ります。われわれは「証明済みの行動科学的諸概念を知り、かつこれを応用することが必要であり、それにタイミング良く応用する技能が加わらなければならない」そうです。そしてこうした知識と技能を発揮することで他人の行動について、「理解、予測、そして制御」することが必要であるそうです。こうすることで、動機付けした場合とそうではない場合に発生する労働意欲差を埋めることができるとされます。


 動機づけについて、本書は様々な学説をまとめてくれています。ホーソン効果(注目されること自体が注目された人々の行動を変容させる現象)やXY理論、ERG理論などよく知られた学説から、はじめて目にする学説まで、様々な学説について簡潔に解説を与えています。

行動科学の関心

とはいえ行動科学が掲げる諸原則は、薬とは異なり、いかなる場合にいかなる原則を適用すれば動機付けがはかれるかまでは教えてくれません。しかも効果をもたらすかどうか保証の限りではありません。これを本書は「自然科学と異なり、確率に基づいて処理しなければならない」「行動科学の世界では、ルールなど存在しないのである」と表現しています。しかしながら適切な原則を選択することは、本書に記されるほど数多い原則が存在すると何が正しいかなど選びようがありません。適切な原則を選択することは事実上不可能です。 

 さて、なぜ行動科学が掲げる諸原則は、人を引きつけるのでしょうか。書店にて経営書コーナーを眺めていると、労働意欲や動機づけに関する文献が数多く上市されています。こうした問題に人々が頭を抱え、また悩んでいることが示唆されます。しばしば対置・比較される科学的管理法に由来する作業研究あるいは職務分析に関する文献が同じコーナーにならんでいることはありません。たいてい生産管理コーナーに配架されており、経営課題というより生産職場における問題解決法として位置づけられているようです。それぞれに需要があり、重要な課題であると認識されていますが、図書流通量から鑑みるに、行動科学に対して圧倒的な需要があるようです。

 こうした大きな需要はおもうに、行動科学が原則を提示してくれることが原因ではないでしょうか。科学的管理法に由来する手法は、手堅く地道であるゆえに、実施すれば確実に問題解決につながります。しかし企業経営について理念や指針、あるいは原則を提供してくれはしません。そうしたものが存在することを与件として、眼前にある問題を解決しようとする手法です。

自らの判断が求められる企業経営

 

とはいえ、企業経営に関する方針とは、企業経営にあたる人々が自ら考える事柄ではないでしょうか。日頃から努力して情報を収集し思索を経て築き上げるものではないでしょうか。その点、ケインズが「長期的に危険なものは、既得権益ではなくて思想である(J. M. ケインズ、塩野谷祐一訳(1995)『雇用・利子・および貨幣の一般理論』東洋経済新報社、386頁)」と、『雇用・利子・および貨幣の一般理論』で述べていることは示唆的です。
 企業経営に関する方針や労働生産性向上策など重要な意思決定をするときは、他人の言説は参考程度にとどめておいて、最後は自ら判断・決定したほうがよいようです。

『入門から応用へ 行動科学の展開-人的資源の活用-』

『入門から応用へ 行動科学の展開-人的資源の活用-』

ポール・ハーシィー・ケネス、H・ブランチャード、デューイ・E・ジョンソン[著]
 山本成二・山本あづさ[訳]  A5版・460ページ
 定価:3360円(税込)
 生産性出版刊 http://www.jpc-sed.or.jp/index.html