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「あたりまえ」ができるプロセスを構築する

文:宇都宮 譲

『リエンジニアリング革命』

難局の乗り越え方

経営書にはなぜか冒頭に「経済社会には現在、変化がもたらされており過去よりも厳しい時代に突入している」と記されます。こうした記述は現在ある経営書が「過去」としている時代からありました。現代はあれからどのくらい、「変化」し「厳しく」なったでしょうか。
 本書はこのように変化と苦難に満ちている現代社会において、企業がいかに取り組むことで難局を乗り切ればよいを指南します。
 本書が指摘する変化は、職務配分に関する原則変化です。つまり、アダム・スミスが『国富論』において原理を提供し、科学的管理法をあみだしたフレデリック・テイラーや連続生産方式を開発したヘンリー・フォードが実行に移した「標準化・単純化・専門化・同期化」という原則に基づく分業と協業による生産性拡大は、過去の遺物であるとします。かわりに、現代は職務を担当する担当者による自律性に期待し、自律性を有する従業員に適応するよう職務を再構築する必要があるとします。このように、企業内に分布する職務を再設計することをリエンジニアリング(BPR, Business Process Reengineering)といいます。特に、担当する職務がいかなる手順で遂行されており、またなぜそうした職務が必要であるかを理解することが重要であるとされます。

ビジネス手法のはやりすたり

 

BPR最大のポイントは、プロセスに着目して生産性向上を図るところにあります。これは流行も一段落したISOシリーズにも通じる点です。実施にあたって最初に着手することになっている職務分析は、知見が確立しており、実行可能です。BPRは、問題解決に貢献しそうです。

しかし、BPRは、都合よく利用され捨てられました。『コンサルタントの危ない流儀』(D. クレイグ・松田和也訳、日経BP出版センター、2007年)によれば、BPRという概念が登場するや、無聊を託ってきた会計事務所が、「これならうちもコンサルティングができる」とBPRを掲げてコンサルタント業に進出しました。しかし会計事務所が職務分析などして他人の仕事を把握・分析できるはずもなく、結局失敗しました。折しもIT革命が訪れましたが、BPRは「古い」ということになりIT機器導入こそが生産性をもたらすと信じられました。結果はご存じの通りで、陳腐化した機器が残りました。

トヨタ生産方式、ISO、スピードの経営など、経営手法には流行があるようです。しかしこれらは、「材料を使ったら報告しましょう」「仕事の手順はあらかじめ紙に書いて決めましょう」「意志決定は速やかに」といっているに過ぎません。あるいは「冷蔵庫のお刺身食べたら言ってよね」「ケーキはレシピ通りにつくるとおいしいよ」「出前迅速」でしょうか。目新しいことなどありません。あたりまえすぎて、できないほうがおかしいと考える方がふつうです。BPRも同様です。「古い仕事の仕方を見直しましょう」という程度のことを述べているに過ぎません。しかしわれわれは往々にしてあたりまえのことすらできず、結果として同じ失敗を繰り返します。

あたりまえのことの大切さ

なぜ何をすればよいかわかっていることが出来ないか、なぜしてはいけないとされることを繰り返すか、原因と対策を平易に表現して自らのこととして考えることが、われわれになにより求められているところではないでしょうか。BPRは単なる経営手法であるのみならず、あたりまえのことをあたりまえにすることが重要であることに気がつく契機となるかもしれません。
 最後に、邦訳は事例が冗長で表現が叙情的で構成はまとまりがありません。しかしありがたいことに通して読む必要はありません。気になる部分に線を引きながら読んでも十分に内容は把握できます。安心して購読されてください。

『リエンジニアリング革命』

『リエンジニアリング革命』

マイケルハマー、ジェイムズチャンピー[著]野中郁次郎[訳]
A6版・365ページ
定価:730円(税込)
日本経済新聞社出版社刊 http://www.nikkeibook.com/