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IT業界を覆う不条理の分析

文:井海 宏通(中小企業診断士)

『30のプロジェクト破綻例に学ぶ IT失敗学の研究』

頻発する"システム上の問題"

現在では、ITは企業活動の中核部分を担っており、もはや情報システム抜きでは経営が成り立たなくなっていると言っても過言ではありません。

一方で、情報システムの不具合をめぐる報道もよく耳にします。利用者に混乱をきたし社会問題になるトラブルは、実は件数的には氷山の一角であり、表に出ないような不具合は、ここ数年で確実に増加の一途をたどっています。

その背景にあるのは、1つには「情報システムの複雑化」です。いくらITが日進月歩で進歩していると言っても、情報システムを設計し構築するのは人間ですので、システムが業務に組み込まれて複雑化すればするほど、不具合が発生する確率が高くなるのは至極当然のことでしょう。

しかし、本書を読めば、問題はそれだけではないことがわかります。システムが「動かない」というレベルではなく、そもそも「動くはずがない」システムや、「動かす気がない」プロジェクトがたくさん存在するというのです。

ITの開発現場は極めて労働集約的で、プロジェクトには技術者だけでなく多くの人が関係します。本書は、システム構築プロジェクトの破綻例の事例研究を通してその防止策を提言しています。

構造上の問題を喝破

ITのプロと言えばベンダーですが、情報システムに絡む問題は、ベンダーにのみ存在するのではなく、ユーザー企業の経営者やシステム担当者にもそれぞれ問題があると本書は指摘しています。当事者の経営無知や保身、ブランド志向やスキル不足などがさまざまな"不条理さ"を生み、システム構築プロジェクトの失敗要因になっているというのです。

本書の執筆陣(不条理なコンピュータ研究会)は、システム開発における現役または元現役の人たちで、30の失敗事例集には他のIT教科書には書かれていない生々しさがあります。当該企業が特定されないよう、ある程度の加工はされているものの、内部の人間のみが知る事例のリアルさは、他書に類を見ません。

また、そうであるからこそ、問題の本質に深く迫ることができるのでしょう。

IT投資で失敗しないために

本書は事例研究の結果、情報システム構築の破綻はIT自体の問題ではなく、経営の問題であると結論づけています。そして、ユーザー企業はもっと目利き力を身につけるべきであり、ベンダーの担当者はビジネススキルを磨くべきだと提唱しています。

ITに対して苦手意識を持つ中小企業の経営者は未だに少なくありませんが、自社の競争力を強化する上でIT活用は避けて通れません。一方で、IT投資は決して財務的な負担が少ないわけではなく、失敗は許されません。自分がベンダーに情報システム構築を委託する際に、トラブルの当事者にならないよう、他社の失敗事例を"転ばぬ先の杖"とすることはとても大切なことだと思います。

また、情報システム開発の現場を垣間見たいという方にも本書はお勧めです。

『30のプロジェクト破綻例に学ぶ IT失敗学の研究』

『30のプロジェクト破綻例に学ぶ IT失敗学の研究』

不条理なコンピュータ研究会[著]/日経コンピュータ[編集]
A5版・223ページ
定価:1,890円(税込)
日経BP社刊 http://www.nikkeibp.co.jp/