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若者の職場定着のために考慮すべきこと

文:高橋 美紀(中小企業診断士)

山下篤著『漁師志願!』より

若者の離職率の高さは社会問題

近年、就職後3年以内に離職している者の割合は、中卒で約7割、高卒で約5割、大卒で約3割に達しているそうです。厚生労働省の調査によると、特に1年以内の離職者の理由に多いのは、「仕事が自分に合わない」「人間関係がよくない」だとか。もちろん若者の意識の問題もあるのでしょうが、企業側にも採用、育成のコストを無駄にしないために、さまざまな配慮が求められます。

本書には、若者の定着率を向上させ、一人前の戦力として育て上げるヒントがちりばめられています。「漁師募集!瀬戸内海での鯛の養殖業、経験不問」、この求人広告を見て都会の若者2人が応募しました。大学卒業後、どのアルバイトも長続きしない智志。寿司職人として働いていたものの、何か物足りなさを感じていた真二。この2人が親方の厳しくも温かな指導のもと、一人前の漁師を目指す、というお話です。

親方の指導のポイント

親方は腰を痛めたことから人を雇うことを決意しましたが、いくら島に若者がいないからといっても、都会から若者を呼ぶには相当な勇気が要ったはずです。親方が意識したかはともかく、以下のように丁寧なコミュニケーションがなされた様子が読み取れます。

  1. 初対面時の自己開示:初めて会ったその日に、自分はどういう人間なのか、なぜ2人を採用したのか明確にし、自分から壁を取り払おうとしています。
  2. 丁寧な仕事の指導:まず仕事の全体像を示し、次にそのために具体的に何をすべきかを明確にしています。あるときは自然の厳しさを教えつつ、またあるときは未経験の2人の好奇心をくすぐりつつ。
  3. 仲間同士を比べない:性格の違う2人を同時に採用した親方ですが、決して比較しません。むしろ、「真二は慎重なのがいい、智志は実践向き」などと、それぞれの良さを認めています。それによって2人は、お互いの弱点を補いあうことを覚えていきます。
  4. 環境になじめるような配慮:いい仕事をするためには、安心して生活できる環境がベースにあることも大事。親方は2人のために家を用意し、地元の人にも積極的に紹介しています。もっとも、これは親方が地元で信頼されていたからこそできたことでしょう。

誰かの役に立つ幸せ

智志も真二も、いつしか「親方のために頑張りたい」と思うようになります。そして「一番大事な人に食べてもらいたくなるような鯛を作りたい」と夢を語り合います。もちろんそのためには労力も伴いますが、2人にはその覚悟もできています。特に智志が、「今までのアルバイトではどうやってサボってやろうかと思っていたけれど、今は自分達の魚を美味しいと言ってもらいたい」と病床の親方に語るシーンは印象的です。仕事でもっとも大切な「向上心」そして「誰かの役に立つ幸せ」を手に入れたのです。

なお、農林水産省によると、平成18年の漁業就業者数は約21万2千人、65歳以上の割合は36.4%なのに対し、24歳以下はわずか2.7%なのだそうです。今日も美味しく魚が食べられるのは漁師さんのおかげと感謝しつつ、第一次産業を守るために何ができるか、真剣に考えなければならないと感じます。

『漁師志願!』

『漁師志願!』

山下篤[著]
四六判・316ページ
定価:1,680 円(税込)
新潮社刊 http://www.shinchosha.co.jp/