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ただ一つの法則を知るだけで「洞察力」「予見力」「対話力」が身につく

文:井上 康由(中小企業診断士)

田坂広志著『使える弁証法』を読んで

私たちは物事を考えるとき、ともすれば複雑に捉え過ぎて本質を見過ごしてしまうことがままあるのではないでしょうか。ましてやそれが、今後の社会の動向ということになると、五里霧中の世界をさまようことになりかねません。  同書は、まさにその迷いから我々を救ってくれる「目からウロコ」の指南書です。ヘーゲルの弁証法というと難しい印象を受けますが、そこは著者である田坂氏の簡潔明快な論調により、自然と理解できるよう工夫されています。

5つの法則

田坂氏はヘーゲルの弁証法を私たちに理解しやすいよう5つの法則にまとめてくれています。

(1)「螺旋的発展」の法則
  物事は直線的に発展するのではなく、あたかもらせん階段を登るようにして発展する。
  (2)「否定の否定による発展」の法則
  物事は否定の否定により発展する。
  (3)「量から質への転化による発展」の法則
  量が増大し一定の水準を超えると急激に質の変化が起こる。
  (4)「対立物の相互浸透による発展」の法則
  対立するもの同士は互いの性質が相互に浸透して似てくる。
  (5)「矛盾の止揚による発展」の法則
  全ての物事の内部には矛盾が含まれているがその矛盾こそが発展の原動力であり、この矛盾を機械的に解消するのではなく止揚したときに物事は発展する。
  なお、止揚とは一方を否定するのではなく、両者を肯定し包含し統合し超越することによりさらに高い次元のものへ昇華していくことです。

具体的に捉えると

著書には上記(1)~(5)につき、それぞれ分かりやすい具体的な事例が掲載されています。

(1)はネットオークションが代表例です。それは「競り」がネット革命により姿を進化させ復活したものといえます。また、変化が激しい現代では、あっと言う間にらせん階段を登ることになるため、私たちは常に「活きた情報」を求める必要があります。

(2)の否定とは「消す」ではなく「超える」という意味で使われています。オンライントレーディングがその例です。いったん価格競争に向かったオンライントレーディングは、行き着く所まで行ったため、現在はそれがさらに否定され品質競争になっています。世の中は、まさに振り子のように動いているということです。そのことを知っていると大局観を身に付けることができます。

(3)はブロードバンド革命をあげることができます。通信料金の劇的低下が常時接続と使い放題という世界をもたらし、その結果情報に対する人々の意識が変わりました。これは、本格的な顧客中心市場の幕開けを意味しています。

以下、(4)についてはリアル対ネットの例が、(5)については利益追求と社会貢献の例があげられています。

私たちが考えること

私たちは今後の動向を考えるとき、何かの調査結果や分析技法を用いて論理的に解明しようと努める傾向があると思います。それも確かに大事ではありますが、それだけでは十分でないことを本書は教えてくれています。さらに、深く将来を見据えるには、哲学的な思索が必要ということです。そのためには、深く静かに物事を見極める心のあり方が問われます。

本書は私たちに、ものの理(ことわり)を静かに問い掛けて来ます。何回も読み返し心に焼き付けたい内容に溢れています。5つの法則が身についたとき、私たちはその過程において培われた「洞察力」「予見力」「対話力」を発揮することができるのでしょう。

『使える弁証法』

『使える弁証法』

―ヘーゲルが分かればIT社会の未来が見える
田坂 広志[著]
B6判・197ページ
定価: 1,575円(税込)
東洋経済新報社 http://www.toyokeizai.co.jp/