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東日本大震災後の支援現場から―株式会社東日本大震災事業者再生支援機構 高橋尚志さん

取材・文:平井 彩子(中小企業診断士)

【第2回】「殿軍(しんがり)」という言葉を心の拠り所に

2017年12月19日更新(取材日:2017年9月20日)

東日本大震災発生から6年半が経過し、高橋氏の勤務する東日本大震災事業者再生支援機構に寄せられる相談内容や件数にも変化が現れているようです。第2回は、厳しい支援現場の中で、どのような気持ちで支援にあたってきたかについて、お話しいただきました。

震災から6年半、増える相談件数

―相談件数が年々増えていますが、これはなぜでしょう?

土地の造成やまちづくりが進むことで、仮設店舗に入って事業をしていた方々が、建物を建てて復活し始めました。この場合、新たな借入金が必要になりますが、震災前からの借入金も考慮したうえで、うまく活用できる制度がないかという問い合わせが増えています。
このように、地域の復興に合わせて問い合わせが増えるのは自然なことですが、本機構では、震災前の借入金の整理しか対応ができません。現在は、震災前の借入金の返済が進み、負債残高が小さくなっているため、その負債を買い取って免除したとしても負担はあまり減りません。一方で、新しい借入金は何千万円レベルとなると、私たちのご支援の効果は少なくなります。ですから、相談件数は増えていますが、年数が経つことで、ご支援による直接的な効果が薄まってしまうという現象が起きています。

―最近になってのご相談が多いのですね。

震災後、さまざまな支援メニューが発表され、事業者さんの目にも入っていたと思いますが、こういった支援は必要に迫られないと、調べたり問い合わせをしたりしないケースが多いものです。そもそも債務免除となると、「そんなこと、できるわけがないでしょう」とか「できるとしても、大きい会社しかできないのでは」などと思っている方が多いようです。また、特に小規模事業者さんの場合、一度支援を利用すると、将来的に金融機関から借りられなくなるのでは、と不安を抱くケースもあるため、当初の問い合わせが少ないのも納得です。

―時間が経ち、問い合わせの内容も変化する中、対応するにはさらに多彩な支援メニューが必要ですね。

本機構は株式会社ですが、営利企業ではなく国の機関ですので、被災事業者さんからの相談は断ることができません。受ける限りは、事業者さんを助けるためにも、満足するご支援をしなければならないため、さまざまな工夫が必要です。
本機構には保証機能がありますので、金融機関からの融資を受けやすくしたり、震災後の借入がふくらんでしまった場合、返済を緩和するための計画の作成をご支援したりもしています。また、出資機能も有していますので、金融機関に「出資をするので、金融機関さんもこの中小企業を支援してください」とお願いをすることもあります。さらに、金融債務だけを少なくしても、買掛金や未払金のほうが非常に大きい先の場合は、取引先を一緒に訪問し、免除のお願いをすることもあります。

苦しい時期を支えた言葉

―支援する側も非常に大変かと思いますが、どのように気持ちを支えていますか?

苦しんでいる事業者さんと日々接していると、何とかしてあげなければ、という気持ちが芽生えます。仮設住宅で一緒に過ごすと親近感も湧きますので、なおさらですね。その気持ちから支援に力が入るのも当然ですが、私たちは、「殿軍(しんがり)」(※参考)という言葉を最初から植えつけられているんです。
私たちは、苦しくなったときにはこの言葉を思い出します。心の拠りどころですね。ほぼ公務員ですので、たとえば相談件数によって給料が変わるわけでもありませんが、そのような考え方ではいけませんし、1社でも1人でも多く助けていくことが必要だと思っています。

―支援する側はさまざまな機関から集まってきたメンバーのようですが、皆さん、多くの刺激を受けて成長されるでしょうね。

全体の7割が金融機関からの出向者です。東北管内ですと利益相反になりますので、特に西日本の地方銀行から来ている者が多いです。中には、診断士資格をすでに取得している者もおります。
ここにいると、かなり力がつきます。私たちは、各自が損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書をExcelで手作りし、それをもとに金融機関との交渉にあたりますので、事業再生計画を作るスキルがものすごく上がります。金融機関にいると、一般的にはすべて決められたソフトに入力し、出てくるものを見るだけで良いのですが、ここでは違います。ここでの業務を経験した後に、退職して本機構のプロパーになる者もいるほどです。
また、出向で来ている者は、当初は自分の派遣元の論理で発言をしていたのが、しだいに変化していく様子が見られます。先日まで金融庁から来ていた者は、お客さんに対してとても親身に取り組み、私たちが支援できない案件に関しても、金融機関との関係を良くするために資料を作り、事業者さんと一緒に金融機関に行って説明をするなどしていました。彼は出向期間中、非常に努力をしましたし、その分成長もしたと思います。これもまた、「殿軍」という言葉が彼の中に浸透したからこそだと思っています。

(※参考)殿軍:本隊の後退行動の際に、敵に本隊の背後を暴露せざるをえないという戦術的に劣勢な状況において、殿軍は敵の追撃を阻止し、本隊の後退を援護することが目的である。そのため、本隊から支援や援軍を受けることもできず、限られた戦力で敵の追撃を食い止めなければならない。

(つづく)

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プロフィール

高橋 尚志(たかはし なおし)
1976年秋田県生まれ。中小企業診断士。(株)北都銀行(本店:秋田市)入行後、群馬県中小企業再生支援協議会へ転じ、2012年(株)東日本大震災事業者再生支援機構入社。過大な債務に苦しむ中小企業への事業再生を通じ、その事業と従業員を守りたいという想いで再生支援に携わっている。