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オリックス・バファローズ執行役員 球団本部長補佐/千葉商科大学大学院客員教授・瀬戸山隆三さんに聞く

取材・文:秋田 舞美(中小企業診断士)

【第2回】「指針」を持つことの大切さ

取材日:2012年9月8日、10月27日

オリックス・バファローズ執行役員 球団本部長補佐で千葉商科大学大学院客員教授も務められる瀬戸山さんにうかがう第2回目。今回は、中小企業にとっての「理念」とも重なる、球団経営に関する「指針」についてお聞きしました。

勝率とファンと経営、それぞれの価値判断軸と指針

― 前回、球団経営の難しさとして、勝つことと経営とのさじ加減、指針設定の難しさというお話がありましたが、野球球団独特の事情についてお話しいただけますか。

瀬戸山隆三さん

第一に、役員、フロント、監督、それぞれの立場がある中、それぞれの指針がどこを向いているかを見極めるのが難しいことがあります。球団自体は中小企業なんですが、利害関係者の多さという意味では、大企業並みというか、さらに複雑です。

― 中小企業でも、意思決定権者が問題になることがありますが、たとえば職人と事務方、現場サイドと管理職などの立場の違いに通じる部分もあるでしょうか。

もちろん、そういった立場の違いもありますが、問題を複雑にしている第二の理由があります。つまり、球団は一般的な企業のように、単純に利益が多ければ合格というわけではないからです。

球団を持つ企業の多くは、その広告宣伝効果に期待しています。赤字は減ったけれど、弱くて、しかも人気のないチームなど、誰も求めていない。ですので、経営と勝率のバランスが必要になります。

たとえばですが、年俸の高い選手を多数獲得してくれば、チームは強くなります。でも、その費用負担にどこまで耐えられるのか。さらに、同じ金額を出すにしても、このチームに足りないのは走・投・打のどこなのか。現場とフロント・経営陣という単純な対立軸だけでなく、オーナー個人としても、勝率と経営をどのようなバランスで求めるか、そのスタンスに大きな違いが生じるのです。

― なるほど。「利益」という1つの価値判断基準では解を出せないんですね。本体会社との関係で、経営指針レベル、つまり経営理念に関しても、他の業種と比べて多種多様な価値観が存在し得るということですね。

そうですね。解答がないだけに、業界としていまだに、誰かの気分とまでは言いませんが、1人の感覚に頼っているところがあります。もちろん、感性を大切にすることは悪いことではありませんが、感覚に頼りすぎると理論がなくなってしまいます。理論がなく、感覚的な判断をくり返すから、一度成績が悪かったりすると、なぜそのような判断をしたのか、誰も答えられない。理由が見つからないから、誰かを交代させて責任をとらせる。すべての球団ではありませんが、そんな古い風習が残っている業界でもあります。

― 瀬戸山さんの考えでは、どのような方向を目指していくべきだと思いますか。

瀬戸山隆三さん

12球団それぞれが、自分の球団の指針に自信を持っていいと思います。販売にしても、人事にしても、戦略があいまいな球団が多いように思いますが、もっと独自性を持ってもいい。

たとえば、最近の北海道日本ハムファイターズには、独自色が感じられますね。ここ数年、小笠原道大(2006年、巨人へ)、森本稀哲(2011年、DeNAへ)、ダルビッシュ有(2012年、テキサス・レンジャーズへ)、高(漢字:はしごの高)橋信二(2011年、巨人⇒オリックスへ)と、大型の移籍が続いています。彼らは、日本ハムのスターでした。

一見すると、球団が育てた選手を、せっかく育ったところで放出してしまったかのようにも見えます。他球団への移籍を、もろ手を挙げて歓迎したわけではないケースもあったでしょうが、結果的には許容しました。

選手が活躍すると、年俸は上がります。一方で年々、年齢も上がり、経験による判断力は向上しますが、激しい動きには向かなくなる。想像ですが、活躍したスターたちを適度に放出することで、年俸を抑えつつ、若手にもチャンスを与える戦略をとっているのではないでしょうか。

― 日本ハムはここ数年、ドラフトも特徴的ですよね。

誰が何と言おうと、獲得できる望みが低かろうと、一番欲しい選手を指名する。これは、指名した人の勇気もありますが、チームとしての指針がしっかりしており、指針に基づいているから、獲得できなくても処分はされないという確信があるからこそできるのでしょう。そして、選手がベテランになってもチームにいるとは限らないので、選手を放出しても、選手のファンではなく、チームのファンを育てましょうという姿勢が出ていますね。

この作戦が、唯一の絶対的な成功モデルとは言いませんが、明らかに他球団とは違う独自路線、しかもしっかりとした芯を持って行動しているように思います。

― 価値観に多様性がある業界だからこそ、指針がしっかりとあることで、独自性が出せるということですね。
 球界についても、冷静な理論で分析し、お話しくださる瀬戸山さん。次回は、中小企業診断士に対して思うところや希望などをうかがいます。

(つづく)

瀬戸山 隆三(せとやま りゅうぞう)
ダイエー入社後、福岡ダイエーホークスに出向し、1996年より球団本部長、1999年には球団代表に就任。下位低迷を続けていた球団を、南海ホークス時代以来、26年ぶりのリーグ優勝、35年ぶりの日本一へと導いた。また、王貞治監督をダイエーホークスに招へいし、日本シリーズでのON監督対決への功労者となる。2004年に千葉ロッテマリーンズの球団代表、2006年より同球団社長に就任し、こちらでも31年ぶりの日本一を達成。2011年より千葉商科大学大学院客員教授となり、中小企業診断士養成コースで教鞭をとる。2012年11月より、オリックス・バファローズ執行役員 球団本部長補佐に就任。