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中小企業診断士の広場

診断士に向けた熱いメッセージ

中小企業診断士に期待する

法政大学大学院政策創造研究科教授・坂本光司氏に聞く

取材・文:大石 幸紀(中小企業診断士)

【第3回】中小企業診断士に望むこと

取材日:2010年8月25日

今回が、法政大学大学院政策創造研究科教授の坂本光司氏にお話を伺う最終回です。多くの中小企業診断士をご覧になってこられた坂本氏に、中小企業診断士への期待を語っていただきました。

経営者の心を揺さぶる人材であれ

― いまの中小企業診断士をご覧になって、どのように思われますか。

坂本光司氏

以前と比べると、よくなっていると思いますが、経営を支援する専門家として、一番のベースとなる力が弱い方をお見受けします。ベースというのは、戦術や戦闘論ではない部分です。生産管理や財務管理といった管理論でなく、その企業の戦略や、経営の目的について経営者に語る力です。

初めてお店を訪問した中小企業診断士の方が、30年間経営されている店主に向かって、「レイアウトを右から左に変えたほうがよい」などとおっしゃることが、たまにあるそうです。たとえば、店員さんで手や足の悪い方がいらっしゃるために、苦肉の策でそうしているといった場合もあるでしょう。その店舗には歴史があり、風土があり、従業員の性格もあるのです。損しようと思って経営している方なんていないのですから、そんな箸の上げ下ろしのようなところでなく、もっと大きな部分のアドバイスをしてもらいたいものです。

いまの中小企業の問題は、ほとんどが経営者の背中と心に宿っています。「経営とは何か」、「その目的は何か」、「経営者はどうあるべきか」といった大局観や企業の戦略を、経営者に対して語ることが必要なのです。中小企業の問題=経営者の問題です。中小企業診断士には、そうした大局的な話をして経営者の心を揺さぶるような人材であってほしいのです。

何よりも、経営者の期待に応えられる人材になってほしい。工場長や生産管理課長に期待される人材で、とどまってほしくはありません。そして、経営者の性格まで変えられる人材になってほしい。経営者を変えない限り、中小企業は変わりません。社員をいくら変えても、その企業を変えることはできないのです。いや、ヘタに社員だけ変わってしまうと、その社員が苦しむことになりかねません。ですので、中小企業診断士には、経営者を変えられる人材になってほしいのです。

中小企業診断士という仕事で生計を立てていくのは難しいという話を、たまに耳にしますが、中小企業診断士という1つのサービスを、時代が求めていないなんてことはありません。私の持論は、「企業は必ず弁護士、税理士か会計士、そして中小企業診断士の3士を顧問に置き、中小企業診断士からは月に1回でもいいので、企業の戦略や方向性についてよい部分と悪い部分を含めて評価してもらう、あるいは叱られる機能を持つべきだ」というものです。その助言を実行する、しないは別として、自分や自社の考え方を客観的に診てもらう機能が必要だ、と提言しています。しかし、私がそういうことを主張し続けるには、当の中小企業診断士にその期待に応えてもらわなくては困るのです。

現場に関心を持ち、多くの事例に接する

― そのためには、中小企業診断士はどのようにするべきなのでしょうか。

坂本光司氏

私は、先週も1週間で10社の企業を訪問しました。年間にすると、200社は訪問しています。私の経営学は、現場の経営学です。だから、経営者にアドバイスをしても説得力があり、リピーターが多い。そういう意味で、中小企業診断士にも、もっと現場に関心を持って、多くの事例に接してほしい。そのうえで、その中小企業に対してアドバイスをしてほしいのです。

こういう理論があるとか、こういう偉い学者の方がいっていたと、自慢げに中小企業経営者に伝える方がいらっしゃるようですが、そういう理論は、知識として持っておいて、そのうえで現場から自分自身が得たものを語ってほしいと思います。そうして、多くの企業の現場に触れた経験から、戦略や経営の目的に関する相談に応えられる中小企業診断士になってもらいたいのです。マイケル・ポーターを基礎的な知識として知っていることは重要ですが、それが実際の現場でどのように使われているのか、生きた事例として経営者にアドバイスをしてほしいものです。くれぐれも、頭でっかちの支援者にはならないでほしい。

もう1つ、どんな優秀な専門家でも、1人では限界があります。積極的に、他の専門家と連携を組んでほしい。中小企業診断士同士にとどまらず、大学の教授や弁護士、会計士といった異分野の専門家と、血の通った交流をするべきではないでしょうか。何か経営者から相談されて、「それは私の専門ではありません」と答えているようでは、ダメな商店と同じじゃないですか。自分ができなくてもいい。「この人に聞けばいい」と紹介するのでも、「この人に聞いて、明日お答えします」でもいいのです。私もそうですが、1人では限界があります。能力の限界だけでなく、時間という物理的な限界もあるのです。中小企業診断士には、積極的に連携を組んでいただきたいですね。

総じて、中小企業診断士の皆さんは、もっともっと力をつけなければいけません。経営者は、税務申告をしなくてはならないので、税理士には頼ります。しかし、中小企業診断士を顧問として置くかどうかは、任意です。そのうえで、先ほど申し上げたように、中小企業の経営者が弁護士、税理士に並んで、中小企業診断士を顧問として置くような存在になってほしい。優秀な専門家なら、そのバックには500人の人脈があります。たった1人の人材を顧問に置くことで、それらの人脈を手に入れることができる――そう思われるような人材を目指すべきでしょう。

世の経営者が中小企業診断士のことを知らないというのなら、それは中小企業診断士の努力に問題があるのでしょう。あるいは、知っていて頼まないということは、その能力に問題があるのでしょう。いまの中小企業診断士には、両方の問題があると思います。中小企業診断士が取り組むべき課題は、まだまだ多くあるのです。

(おわり)

坂本 光司(さかもと こうじ)
1947年6月4日生まれ。浜松大学経営情報学部教授、福井県立大学地域経済研究所教授、静岡文化芸術大学文化政策学部教授を経て、現在は法政大学静岡キャンパスキャンパス長・大学院政策創造研究科教授・大学院イノベーション・マネジメント研究科教授。
また、特定非営利活動法人SOHO・アット・しずおか理事長、特定非営利活動法人オールしずおかベストコミュニティ理事長を務める。他に国、県、市長や商工会議所等の団体の審議会や委員会の委員を多数兼務。専門は中小企業経営論、地域経済論・産業論。