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診断士に向けた熱いメッセージ

中小企業診断士に期待する

法政大学大学院政策創造研究科教授・坂本光司氏に聞く

取材・文:大石 幸紀(中小企業診断士)

【第2回】中小企業診断士との出会い

取材日:2010年8月25日

法政大学大学院政策創造研究科教授の坂本光司氏にお話を伺う2回目。坂本氏が尊敬してやまない、ある中小企業診断士との出会いについて、お聞きしました。

公務員から大学教授へ

― 公務員として中小企業支援に携わられていた先生が、どのようなきっかけで、大学教授に転身されたのでしょうか。

坂本光司氏

商工労働部で中小企業の支援にかかわる仕事に携わった後、中小企業支援機関へ出向しました。そこでは、私のために指導調査課長のポストをつくってくれました。役所時代の活動を知っていた上司が、私が自由に動けるよう、配慮してくださったのでしょう。現に、出向してからも、私を名指しで相談を持ち込まれる中小企業経営者の方が後を絶ちませんでした。

この世界は、どうしても属人的になります。的確な答えを出せる人間に、相談が集中するのです。その機関に持ち込まれる相談の8割が、私を指名ということもありました。おそらく、周りの方はやりにくかったと思います。申し訳ないという気持ちも感じていました。

また、県内の中小企業の会合で講演を頼まれることも多くなってきました。そのうち、県外からも来てほしいという依頼をいただくようになります。しかし一方で、県の公務員が県外の仕事をするのはいかがなものかと、おっしゃる方もいらっしゃいました。仕方なく断るようにしていたのですが、「どうしても」とおっしゃっていただいたところには、有給休暇をとって講演に行きました。

講演に行けば、新しい出会いがあり、現場にも行けて、その分だけ得るものがありました。県外で講演した際に相談を受け、当時はメールもありませんでしたので、電話や手紙で支援を続けることもありました。県を超えた企業と企業のマッチングをしたりもしていました。こういう活動は、組織の中では異端と思われていたのでしょう。私自身も、組織人としての枠からはみ出しているという思いを強くし始めていました。

このように、中小企業と現場で触れ合いながら、学術的に中小企業支援を研究する必要性も感じていたので、学会に出席して論文を発表したりもしていました。その論文は、さまざまな方に読んでいただけるようになり、「うちの大学に来ないか」というお誘いを受けるようになります。当時はまだ、職場を辞めようとまでは思っていませんでしたので、非常勤講師という形でお引き受けしていましたが、もちろんこれも有給休暇を活用し、無報酬で行っていました。そのため、私用で休みをとったことはないのに、毎年、有給休暇はすべて消化している状態が続きました。

当時、「昼間の公務中に執筆活動をしているのではないか」、「講演で副収入を得ているのではないか」といった根拠のないことを言われることもありました。そこで、誤解を受けるようなことがないよう、業務外に時間をつくり、夜遅くまで中小企業支援に関する研究に取り組みました。

そんな中、昭和62年に「円高、国際化と地域産業」というテーマで書いた論文が、中小企業研究奨励賞本賞を受賞します。一介の役人が、大学教授をおさえて本賞を受賞したと噂になり、ますます多くの大学からお声をかけていただくようになりました。私自身、周囲からの期待がいっそう大きくなったことを感じました。ただ、当時は両親の健康状態などもあり、自分の幸せだけを考えて東京に出てくることが本当によいことなのか、わかりませんでした。最終的には、自宅から通えるということで、静岡県内の大学に転職することになります。こうして私は、15年間の公務員生活にピリオドを打ちました。

私の尊敬する中小企業診断士

― 先生には、尊敬されている中小企業診断士がいらっしゃるとのことですが。

坂本光司氏

先述の静岡県中小企業問題研究会は、ある1人の中小企業診断士との出会いがきっかけでした。その方は、静岡県の杉山敏男先生です。初めてお目にかかったのは、先生がまだ40代半ばのバリバリの頃でした。いまは80歳を超えられていますが、いまだに交流を続けさせていただいています。

杉山先生とお会いしたのは、私が商工労働部に入ってしばらくたった頃でした。当時、中小企業経営者のためのセミナーや研修を企画するのが私の担当でした。現場をよくご存じで、非常に活躍されている中小企業診断士の方がいらっしゃるというのは、新聞記者や同僚から聞いていました。そこで、一度お手並み拝見と思い、杉山先生を講師にセミナーを企画したのです。

受付を終えて会場に入り、講演の内容に耳を傾けると、中小企業経営者にとって、とてもよい話をしてくださっている。また、自分がいままで時間をかけて調べてきたことを、サラッと知っておられることが伝わってくる。さらには、講義の内容も的確で、何より話が生きている――。一度で、これは素晴らしい中小企業診断士だということがわかりました。それから私は、先生を頼り、セミナーや中小企業支援施策について相談するようになりました。

昔の中小企業診断士制度は、商業部門、工鉱業部門に別れていました。どちらか1つの試験に合格すれば、中小企業診断士としての資格が与えられるにもかかわらず、杉山先生は両部門の試験に合格されていました。商業も工業も同じ目線でみられるため、的確なアドバイスができるのです。当時、杉山先生にお会いして、「1日も早く追いつかなくてはならない目標とすべき方ができた」と、とても嬉しく思ったのを覚えています。当時から人格者で、若い人を育てることにも熱心な方でした。

私が、「静岡県中小企業問題研究会をつくりたい」と相談すると、「それはとてもよいことだ」と賛成してくださり、会長をお引き受けいただきました。いまでもそうですが、杉山先生はどんなことがあっても、私を支持してくださいました。どんな状況に私が陥ろうとも、先生は私を支持してくださったのです。私もそんな杉山先生を、いまでもとても大切に思っています。

(つづく)

坂本 光司(さかもと こうじ)
1947年6月4日生まれ。浜松大学経営情報学部教授、福井県立大学地域経済研究所教授、静岡文化芸術大学文化政策学部教授を経て、現在は法政大学静岡キャンパスキャンパス長・大学院政策創造研究科教授・大学院イノベーション・マネジメント研究科教授。
また、特定非営利活動法人SOHO・アット・しずおか理事長、特定非営利活動法人オールしずおかベストコミュニティ理事長を務める。他に国、県、市長や商工会議所等の団体の審議会や委員会の委員を多数兼務。専門は中小企業経営論、地域経済論・産業論。