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診断士に向けた熱いメッセージ

中小企業診断士に期待する

ヤマハ(株)代表取締役会長 岸田勝彦さんに聞く

取材・文:加藤 毅(中小企業診断士)

【第1回】 YAMAHA 成功の要因

取材日:2007年1月29日

世界の音楽文化を支えるヤマハ(株)の岸田勝彦会長は、中小企業診断士でもいらっしゃいます。激務の中で取得した中小企業診断士には、思い入れが強いそうです。今回は、楽器からリゾートまで扱う多角化企業であるヤマハの経営者として語っていただくとともに、中小企業診断士に対する思いを伺いました。

岸田勝彦さんヤマハのベンチャースピリット

― ヤマハの事業は実に多岐に渡っていますね。

ヤマハの売上規模は連結で5,400億円ぐらいですが、その規模以上に事業が多岐に渡っています。事業の主力は楽器ですが、楽器にもピアノ、電子楽器、ギター、管楽器、バイオリンといろいろあります。さらにホームシアターなどのAV機器、半導体、住宅機器、金属加工、ゴルフクラブにリゾートまでやっています。当然ながら自分が経験したことがないものがほとんどです。

またアメリカ、ヨーロッパ、アジア、最近ではBRICsなど世界各国で事業展開しています。その国ごとの特性や文化も理解しなければなりません。

ですから各事業に対しても、各国に対しても理解力、掌握感に努力を要します。

楽器類の販売や音楽普及活動などを通じ、世界中の人々の豊かな生活、潤いのある人生にいささかでも役立ち、各国の文化レベルの向上に貢献しているという満足感と喜びが支えです。

― ヤマハがここまで多角化し、成功している要因はどこにあるのでしょうか。

ヤマハのDNAだと思います。創業者や中興の祖がどのような行動をしてきたかというものが関係していると思います。

創業者の山葉寅楠は、医療器械を修理する技術者でした。ある日頼まれてアメリカ製のオルガンを簡単に直したのです。そこでオルガンを作る仕事をはじめました。私だったらそれだけで終わりますが、山葉寅楠のすごいところは、それを仕事にしてしまったことです。さらに東京芸大の聴講生となって音楽理論を学び、その後アメリカにわたってピアノ製造も勉強しました。そうしたベンチャースピリットともいえるものが、ヤマハにいまも根強くあります。

ピアノで一番大事なものは、木工の加工や塗装の技術です。ピアノで培ったヤマハの木に対する技術は日本一だと思います。昭和のはじめにその技術を買われ、陸軍省からプロペラの製造を委託されました。後にプロペラが金属製に変わりはじめたことに対応して、金属加工のための技術、設備、人材を強化しました。

戦後、海外に視察に行った川上社長(当時)は、楽器が斜陽産業であることを目の当たりにしました。そこで楽器以外のものを作ろうと事業の多角化を目指したのです。そこでいままで培った金属加工の技術を用いてオートバイを作りはじめたのです。

― 多角化の歴史が長いのですね。

はい。ヤマハの場合、多角化の歴史が長いので、技術転用、技術者同士の横の連携といったものも比較的うまく根付いています。

岸田勝彦さん中小企業診断士になって部下への説明能力が向上した

― 経営者としてどのような姿勢を大事にしていらっしゃいますか。

企業の姿勢としての考え方では、ハーバート・スペンサーのsurvival of the fittest、適者生存という言葉が好きです。強いものが勝つのではない、優秀なものが勝つのでもない、環境変化にフィットするものだけが生き残るということですね。

人間観としては、性弱説というものを唱えています。本質をいえば人間は弱い。ただ、本来は弱いけれど、チャレンジすることで強くなれるし、そのために自分を鍛えなければいけないと考えています。

企業の戦略としては、「知的財産とプロダクトイノベーションが日本企業を生き残らせるエンジンだ」と社内でよく語っています。給料が20分の1のアジア各国に対して、日本が生産性とかコスト競争力で勝負しても勝てません。プロセスイノベーションには限界があります。しかし日本には特許、デザインといった知的財産があります。徹底的に研究して知的財産を蓄積する。それをバネにした製品革新=プロダクトイノベーションをおこして価値ある製品を作る。これをやらなければ、日本は闘えません。

― 中小企業診断士の資格をとったことは、経営の進め方や考え方などでどのように役に立っていらっしゃいますか?

オールマイティとはいえませんが、ジェネラリスト的な広い視野が身につきました。経営を進めていく上であらゆる角度からバランスよくものを見ることができます。

いろいろな実践を理論で検証することもできます。経営理論というのは、素晴らしいチェックリストと考えています。

人間を動かす上で最も大切な説明能力が向上したと思います。人間を動かすにはカリスマ性があるか、説明能力が高いかのどちらかが必要です。

いまの日本には優秀な経営者は多いのですが、松下幸之助や本田宗一郎といったカリスマ性がある経営者はいるのかなと思います。経営者が、理由もいわずやれというだけでは部下は納得しません。なぜその仕事をしなければならないか、部下自身がそれを納得して働けるように説明する能力が必要です。

中小企業診断士としての知識は、大局的視点から理論的に説明することに役立っています。中小企業診断士の勉強で相手を説得するための引き出しが増えました。(この項続く)

岸田 勝彦さん:ヤマハ(株)代表取締役会長

岸田 勝彦(きしだ かつひこ)/1966年日本楽器製造株式会社(現ヤマハ株式会社)入社。1992年ピアノ事業本部長。1994年取締役。1998年常務取締役。2000年専務取締役。2004年代表取締役会長。1996年に中小企業診断士登録(工鉱業部門)。

売上高5,340億84百万円(グループ連結2006年3月期)従業員数25,298人名(グループ連結)

会社名 ヤマハ株式会社
設立 1897年10月12日(創業1887年)
資本金 285億34百万円(2006年3月31日現在)
本社所在地 静岡県浜松市中沢町10番1号
ホームページ http://www.yamaha.co.jp