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診断士カレイドスコープ

社長の、社長による、社長のための、診断士資格活用法

取材・文:弥谷 和也(中小企業診断士)

【第3回】エスアイ精工株式会社代表取締役・指尾成俊さん

取材日:2013年11月15日

第3回目は、大阪府豊中市で製造業を営まれている指尾成俊さんに、お話を伺いました。

事業承継の準備のために

― 指尾さんのご経歴と、資格を取得しようと考えたきっかけを教えてください。

指尾成俊
指尾 成俊さん

昭和48(1973)年生まれの40歳で、カーボン製に特化した治具加工業を営んでいます。父が創業した会社で、平成25年2月に社長業を引き継ぎました。大学卒業後、医療機器メーカーに就職して10年間営業職として働いた後、いまの会社に入りました。それまで営業のことしか知らなかったため、いずれ会社を経営しなければならないときに備えて、役立つ勉強をしておく必要性を感じたことが資格を取ろうと思ったきっかけで、中小企業診断士を選んだのは、経営者として必要な知識をトータルで学べる資格だったからです。

資格取得で学んだ知識を駆使して

― 診断士資格を取って、経営に一番役立っていると思うことは何ですか。

会社経営を俯瞰して見られるようになったことです。もしも診断士資格の勉強をしていなかったら、問題点やその対策を断片的にしか見られていなかったと思います。たとえば、将来こういう方向性に持っていきたいとなったときに、現状では組織に問題があるのか、あるいは生産、マーケティングに問題があるのかというように、きちんと分類しながらも網羅的に自分で判断できるようになりました。会社の経営課題に対処するには、どれだけ切り口を持っていて、それらをモレなく考えられるかがすごく重要だと思うのです。MECE(モレなく、重複なく)の考え方ですね。売上を上げなければいけないときに、新規客を獲得するのか、既存客の売上を上げるのか。あるいは、客数なのか客単価なのか。全体を見渡してから、どこにメスを入れる必要があるのかを見出すという、考え方の枠組みを一番学んだように思います。

― 知識面でもっとも活かされているものは何ですか。

マーケティングの考え方ですね。私たちの業界は、外部環境の変化を受けやすく、業績の浮き沈みが激しい。そうした中で業績が悪くなると、苦し紛れにさまざまなことに手を出したくなります。先ほどお話ししたように、弊社はカーボン製の治具に特化していますが、たとえば金属製やプラスチック製のものをやろうと思ってみたり、とにかく仕事を集めなければ、と場当たり的になったりしてしまいそうになります。でも、それでは中小企業として生き残っていけません。やはり、自社の強みや自社らしさをしっかり見つめ直して、そこで足場を固めてやっていくことが大事なわけです。

新規取引先の開拓にしても、弊社はホームページを活用したり、展示会に積極的に出展したりはしていません。既存取引先の紹介や口コミを頼りに、お客様との関係性を太く強固なものにしていくことをベースにしています。元々は下請企業としてスタートした会社ですが、それだけでは収益は上がっていきませんので、できる限りお客様に会いに行って話をするようにしています。そのような活動をする中で、VEや改善提案をしながら関係性を高めていくように努めています。そのかいあって、最近は見積もり合わせの仕事が減り、指名受注が増えて、収益改善につながっています。

このような考え方を持ちながら、中小企業として自社のあるべき姿を明確化できるようになったのは、診断士資格の取得を通して学ぶことができたからです。

― 強みを活かして、新たな機会を生み出しているのですね。

目の前にいるお客様の要求を何とかして満たそうと考えていくと、また新たな強みができてくるものです。具体例を挙げますと、これまでは図面をもらってそのとおりのものを作り、加工賃をいただく仕事でしたが、少しずつ変えていき、図面設計のお手伝いをするようになりました。私自身も勉強して、CADで図面が描けるようになった。すると、CADで設計できることが新たな強みとなり、他の製品設計も手がけたり、製品全体の設計を請け負う提案ができたりして、幅広いアプローチができるように変わってきました。これらも、生産管理やマーケティングの学習を通じて習得できたことです。

― 自社の戦略を考えるうえで、ヒントにされていることはありますか。

中小企業経営・政策や2次試験の学習を通して、中小企業白書を精読する習慣が身につきました。中小企業白書には、手本にできる事例がたくさん紹介されています。最近の白書に目を通していて感じることは、中小企業はやはりスピードが命だということです。どれだけ迅速に動けるか、小回りが利くか、そしてすぐに判断できるかがとても重要です。

そうしたスピード経営を実現するため、私はITを駆使しています。たとえば、これまでに作った製品や図面をすぐに検索できるように、データベースを作りました。これにより、過去に実績のある製品や類似品の見積もりを、お客様のニーズに応じて瞬時に回答できるようになりました。さらに、最近ではスマホで図面をチェックし、外出先からも迅速な返答が可能になっています。

― ITに関しては、もともと詳しい知識をお持ちだったのでしょうか。

まったく強くなかったのですが、診断士試験の経営情報システムで勉強したことが役に立ちました。たとえば、知識として学んだSQL(※リレーショナルデータベースの管理方式の1つ)などを思い出しながら、市販のソフトを用いて独自のデータベースを構築できました。

― それは素晴らしいですね。

学んだ知識を活かして自ら作ったことで言えば、経営法務で知的財産権について学んだおかげで、特許も1つ申請しました。申請にあたっては、特許が良いのか実用新案が良いのかなど、共同で製品づくりに取り組んだ会社の法務部の方と話し合って詰めたのですが、勉強していたおかげで話がかみ合いましたね。申請書類は、最終的には先方の法務部でチェックしていただきましたが、自分で作成して提出しました。

兵庫県中小企業診断士協会の活用と市場開拓

― 中小企業診断協会における活動は何かなさっていますか。

私は兵庫県の診断士協会に所属していますが、資格を取得してすぐに「プロコン育成塾」に参加しました。そこで、プロコンとしてのイロハを教わりつつ、多くの先生方とのつながりを得ることができました。いま思えば、そこが私の中小企業診断士としての人的ネットワークの根源になっています。

その後、数名の仲間と「ものづくり&SCM研究会」という研究会を立ち上げました。参加者には、製造業を中心に企業内診断士の方が多くいらっしゃいます。

― それらの活動やネットワークを活かして、新たに取り組まれていることはありますか。

取引先とのSCM構築の過程で、海外展開の機会が出てきています。1つは、中国市場へのアクセスです。自ら作った人脈やルートを活用し、中国語の勉強をしながら現地に行き、直接設計の打ち合わせをしたりしながら商談をまとめることに成功しました。その後、ベトナムの会社とも取引を開始し、海外市場向けの売上が全体の15%ほどを占めるようになってきました。ネットワーク活用という点では、元々いた業界での経験と人脈を活かして、医療業界向けの製品開発に取り組んでいます。

― 最後に、経営者としての思いをお聞かせください。

父から社長業を引き継いだときに、自分が経営者としてどうあるべきかを考えました。創業者というのは、思いを込め、必死に汗水たらしてやってきたはずで、その事業を継ぐには、相当の覚悟と思いを持って臨まなければいけません。そのことに気づかせてくれたのが、中小企業診断士になってから出会った多くの先生方でした。私と同じような2代目経営者をたくさん見てきた先輩方から、経営のあるべき姿や、経営者としてあるべき姿について教えていただいたことが、私自身の礎になっています。このことに、とても感謝しています。

また私は、弊社の従業員にもとても感謝しています。私が子どもの頃から、そして学生時代や社会人になって別の会社で働いている間も、ずっとこの会社で働き続けてきた従業員たちのおかげで、いまの会社があり、いまの私があるわけです。皆さんには、感謝の思いしかありません。何とか恩返しをしたいというのが、この会社を経営するうえでの私の思いです。会社の業績を上げ、皆さんにボーナスをたくさん渡し、家族の方々も含めて幸せになってもらえるよう、これからも頑張ってやっていきたいと思っています。

(おわり)