経営コンサルタントの国家資格”中小企業診断士”の情報が満載です。 中小企業診断士の広場

中小企業診断士の広場

診断士カレイドスコープ

社長の、社長による、社長のための、診断士資格活用法

取材・文:弥谷 和也(中小企業診断士)

【第1回】株式会社渡辺藤商店代表取締役・渡邉直規さん

取材日:2013年10月31日

経営者や後継者の中には、経営スキル向上のために、自ら診断士資格取得にチャレンジする方も少なくありません。今回は、診断士登録後、社長として自社の経営や諸活動に資格やスキルを有効活用されている3名の方々に、資格取得を目指したきっかけ、どのような知識が役に立っているか、経営改善への取組み事例、人脈やネットワークづくり、施策の利用などについて伺いました。

第1回目にご登場いただくのは、大阪市内で紳士服の裏地および付属品の卸売業を営まれている渡邉直規さんです。

SEの同僚に誘われて

― 最初にご経歴を教えてください。

渡邉直規さん
渡邉 直規さん

昭和54(1979)年生まれの34歳で、株式会社渡辺藤商店という紳士服裏地の卸売業を営んでいます。創業は明治35(1902)年で、私で4代目。平成23年に父から社長業を引き継ぎました。

― 社会人になって、すぐにいまの会社に入られたのですか。

大学卒業後、SEの仕事を6年間やっていました。いまの仕事にかかわるようになったのは、その後です。でも、すぐには入社しませんでした。父から会社の話を聞くと、どうも先行きの暗い話をしているんですね。はたから見ると強みはあるのに、機会を見出せずにいると感じたのです。ならば、自分が機会を作ってあげられないものかと考え、SEの仕事をしながらホームページを開設し、ネット販売を立ち上げました。すると、すぐに売上が増加し、これなら自分の収入くらいは確保できると思い、SEの仕事を辞めて別会社を立ち上げました。こうして、父から商品知識などを教えてもらいながら、自分の思うやり方で、しばらく商売をさせてもらいました。このとき、同じ会社でやらず、別会計で始めたのが良かったと思っています。

― それはなぜですか。

当時の体制のまま、同じ会社でやっていたら、たとえばネット販売がどれだけ成長して利益が出ているといったことを、はっきり区分けして把握できなかったと思うからです。でも、別会計にしたおかげでそれらが明確になり、「ここが伸びているので、この部分に投資すればいいんだな」と、父にも明確に理解してもらうことができました。

― その頃、すでに中小企業診断士になられていたのですか。

いいえ。勉強は始めていましたが、診断士登録をしたのは平成24年です。

― すると、診断士試験合格と社長になられたのが、ほぼ同時期だったわけですね。良いタイミングでしたね。

いえ、実はタイミングは決して良くなくて...。私が合格したのは平成23年10月の試験で、同年9月に社長になったのですが、満を持してというわけではなく、父が癌になったのがわかったからなんです。すぐに病状が悪化し、引き継ぎもほとんどできないまま、9月に亡くなってしまいました。

― そのような状況の中、よく試験に合格されましたね。

自分でも、よく受かったと思います。でも、診断士資格の勉強をしていて本当に良かったと思いました。経営について何の勉強もせずに社長になっていたら、間違いなく右往左往していたと思います。

中小企業診断士としての気づき

― 社長就任当初、どのように業務を掌握していかれたのでしょうか。

「人・モノ・金」に分けて考えることから始めました。「人」はそれぞれ働いてくれますし、「金」は経理担当者がいますので、最低限のチェックさえすれば大丈夫。あとは「モノ」の流れさえつかめば、多分何とかなると思いました。診断士資格の勉強をしていたことで、切り口が見えて優先課題の整理ができたのと、任せる部分は人に任せて、自分がやらなければいけないことを明確化できたのが大きかったです。

― ほかにも、診断士資格の勉強をしていて良かったと思われたことはありましたか。

外部環境は絶えず変化しますから、企業はそれに合わせて内部環境を変えていかなければなりません。会社で働いていると、外部環境の変化はすごくわかりづらいものです。たとえば売上の変化にしても、急に下がると「これは大変だ」とすぐに手を打てますが、じわじわ下がっていくと、「ゆでガエル」状態でなかなか変化に気づけません。そこを敏感に察知し、気づくべき変化に対して即座に手を打つことの重要性を学びました。特に中小企業では、そうした小さな変化が続きますので、急に組織を変えたり、人をたくさん入れたりではなく、小さな変化に対してこちらも少しずつ変わっていくことが大切です。

資格取得の有効性

― 資格を取得後、経営の実践で活かしておられることをお聞かせください。

受験生時代の勉強仲間に、非常に真面目で優秀な税理士が1人いたんです。資格取得後も、その彼と会って話していると、同じ勉強をしてきた者同士だからか、目線が共通で話が通じやすい。このことから、社長として中小企業診断士の顔を持ちつつ、ほかの中小企業診断士と話すのは、非常にやりやすいことがわかりました。ただ最初は、自分が中小企業診断士なのに、ほかの中小企業診断士に相談するのは何だか情けない気がして、壁を作っていました。変なプライドがあったんですね。でも、そんなプライドより、他人の持つ優れた能力を活用できるほうがいいと思えるようになってからは、さまざまな専門家や外部の施策を有効活用できるようになりました。

― 具体的には、どのような活用をされていますか。

先ほどの方には、当社の顧問税理士になってもらいました。そして、社内の経理業務の合理化について相談したところ、経理担当者を置かずに仕事ができる方法を提案してくれました。しかも、会計ソフトや新たな投資を一切することなくやれる方法で。もし、ほかの税理士や支援先に相談していたら、ソフトの導入や、手っ取り早くやれる方法を勧められたかもしれません。私の考えや当社の事情をよく理解してくれていたからこそ、手間を惜しまず、実質的な提案をしてくれたわけです。

― 外部の施策活用についてはいかがですか。

資格を取って最初に活用したのは、大阪府の中小企業診断士派遣制度です。販売管理の方策に関する支援を受けました。派遣された診断士の指導を受け、顧客と商品のクロス分析に基づく営業推進ツールを作成しました。このツールを導入することで、顧客ごとの営業目標の明確化と管理がしやすくなり、成果が上がりました。さらに、同じ指導員の方から、中小企業診断協会の実務補習を受け入れてみないかという提案を受けました。すぐに返事はできませんでしたが、その翌年に思い切って実務補習チームの診断を受けてみました。普段まったく違う仕事をしている人たちから、うちの会社がどう見えるのかを知りたいと思ったからです。自分が持ち合わせていない視点と分析による提案を受けることができ、経営改善に役立てることができました。

― ほかに、どのような施策を活用されていますか。

「小規模企業共済」「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」に加入しています。経営セーフティ共済は、掛金を40ヵ月間払い込めば、解約しても元本が100%返ってきますので、本来の倒産防止目的に加え、赤字の際に補填できるといった効果もあります。保険的に、内部留保を外部に積み立てているようなものですね。

さらに、最近になって「F/S支援事業」という施策も活用しました。

― F/S支援事業では、どのような支援を受けられたのでしょうか。

海外展開のための事業化可能性調査の支援を受けられるもので、海外に売りに行くのではなく、売れるかどうかの調査を専門家が一緒にしてくださる制度です。知人の中小企業診断士に教えられて申請したところ採択され、中小機構のアドバイザーと職員の方と一緒に、6日間香港に行きました。計画作成から訪問先のアポイントメントまで、アドバイザーの方が調査を手厚くサポートしてくださったおかげで、海外市場への足場づくりができました。

― 最後に、経営者が診断士資格を持つことの有効性についてお聞かせください。

私たち経営者は、資格取得を通して知り得た知識や施策、そして人脈を、自社の経営改善にすぐに活用でき、しかも実践すればするほど、効果として自分にはね返ってきます。ほかの資格で、これほど社長業に役立つものはないと感じています。また、心を許せる相談相手が多数できたことも、大きな財産となりました。今後も、この資格をフル活用していきたいと思います。

(つづく)