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診断士カレイドスコープ

エリア全体を長期間にわたりプロデュース

文:堀切 研一(中小企業診断士)

【第3回】長瀞(ながとろ)町商工会~長瀞桜燻製プロジェクトの支援

前回までは、川崎市日吉地区で複数の商店街が連携しながら、地元の企業や団体、学生、メディア関係者と協働で地域活性化を行った事例を紹介しました。今回は、地域資源を使って新商品や新サービスを開発した事例と、中小企業診断士が地域を支援する際のポイントをお伝えします。

長瀞町の長瀞桜燻製プロジェクト

次に、埼玉県秩父郡の長瀞町で取り組んでいる「長瀞桜燻製プロジェクト」における支援について、ご紹介します。

私は2009年度、秩父の荒川商工会で農商工連携等人材育成事業の研修講師をさせていただきました。荒川商工会の経営指導員の方から、同じ秩父の長瀞町商工会で燻製事業をやりたいという話があり、専門家としてご紹介いただいたことがきっかけでした。それ以来、長瀞町では2010年から3年間、お手伝いをさせていただいております(2013年5月現在)。

長瀞は、大正13(1924)年に国の名勝・天然記念物に指定されて以来、岩畳の渓谷美や、ロウバイの咲く宝登山などの豊かな自然を求め、年間約200万人もの観光客が訪れる関東有数の観光地です。観光業も盛んで、鮎釣りやラフティング・カヤックなどのレジャーも豊富です。

「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン(改訂第2版)」には、長瀞ならびに長瀞町内の観光施設が、県内で初めて掲載されました(「ミシュラン・グリーンガイド」は、フランスのタイヤメーカー・ミシュラン社が発行する、世界的にも著名な旅行ガイドブックで、シリーズ全体では10ヵ国語、344種類が発行されています)。

また長瀞は、(財)日本さくらの会が選定した「日本さくら名所100選」に選ばれた桜の名所でもあります。これらの桜の木は、間伐のために伐採されていますが、当時、間伐材の有効活用はできていない状況でした。そこで、これらの間伐材をチップに加工して有効利用し、燻製事業に町全体で取り組みたいとの依頼をいただき、2010年より支援させていただいています。

研修全体をコーディネート

1年目の2010年度は、農林水産物の生産や加工、消費者ニーズを踏まえた販路開拓までを展開するうえで核となる人材の育成・確保を目的に、研修を実施しました。その際、農商工連携等人材育成事業を活用しました。

農商工連携に必要とされる知識は、多岐にわたります。コンセプト立案、ブランド開発やパッケージ開発、陳列技法やITを使った販売促進、そして燻製の製造方法などについては、研修全体の構成、講師である中小企業診断士の人選からアサインまで、一貫してコーディネートを行いました。

また実地研修については、岐阜で川魚などの燻製商品を製造・販売している七宗食品や八王子燻製研究会にお世話になりました。こちらも、実地研修の構成立案や先方とのやりとりについては、私がコーディネートをさせていただきました。

七宗食品における実地研修 七宗食品における実地研修
七宗食品における実地研修

加工食品の開発を支援

2、3年目は、実際に燻製商品やサービスの開発を行うための支援を行いました。燻製体験サービスの開発や飲食店メニューも支援対象に入っていますが、何と言ってもハードルが高いのが、加工食品の開発です。常温だと流通しやすいのですが、日持ちするように製造するためには、高い技術が必要です。現在、地元の中心的存在の事業者が、加工食品製造に取り組まれており、秩父館の村山勝氏は「鮎の燻製」、長栄建設の中畝富子氏・靖人氏は「鮎の燻製の甘露煮」、「鮎の燻製の甘露煮を使った押寿し」の開発を行っています。

燻製品を量産するには燻製工場が必要ですが、保健所の許可を取る必要があります。そこで、どうすれば燻製工場建設の要件を満たせるかを確認するため、何度も保健所まで同行して条件を確認しました。また、衛生的な環境を満たしつつ、作業効率も高いレイアウトになるよう、事業者や経営指導員の方と相談しながら、設計前のデザインのラフ案も一緒に考えました。

商品開発を支援する際には、製造工場の建設、製造、コンセプト開発、パッケージ開発、サンプル品の試食アンケートなどの市場調査、展示会出展、販売促進や販路開拓など、すべてにかかわる必要があります。私は以前、食品メーカーで開発・マーケティングの部署におりましたが、企業の中でこれだけ全面的に実務にかかわることはありません。食品メーカーには各部門の専門家がおり、その知恵を結集させて商品を作り、市場に販売していきます。当時は、周りに各分野の専門家がいるのが当たり前でしたが、独立して専門家として活動していく際は、各分野のエキスパートとのコネクションを作っておくところからが仕事です。特産品開発に携わる際には、そうした専門家のネットワークを普段から作れているかが、非常に重要になります。

特に、食品は人の体に入るものですので、衛生面には非常にシビアに対応する必要があります。菌については理論上、安全な作り方を担保するとともに、増えていないかを定期的に検査しながら、数値的な担保をとれているかも確認する必要があります。

地域のリーダーに教えてもらった考え方

また、試食アンケートや展示会などでは、できるだけ地元の方と一緒に体を動かすように心がけています。地元の方は、子どもの頃から深い絆を結び合った関係でお付き合いしている方が多く、何よりも人間関係が大切とされる地域で、外から来た専門家が信頼してもらうにはなかなか高いハードルがあります。先述の村山氏から、「長瀞を第二の故郷と思って支援してください」と言われたときには身の引き締まる思いがしましたし、そういった気持ちで支援をしなければならないと、地域の方から教えていただきました。

展示会での出展の様子 宝登山のふもとで観光客向けに試食アンケートを実施
展示会での出展の様子
宝登山のふもとで観光客
向けに試食アンケートを実施

現在、試作品づくりまでは完了していますので、今後は販路開拓が重要になってきます。地元の商店以外の販路については、商談などの営業活動も地元の方と一緒に行っています。中国の富裕層向けWebサイトでの販売などについても、一部商談を進めています。ここでも、地元の方と一緒に動くことが、何よりも重要だと考えています。

燻製マップや提案メニューカード 燻製マップや提案メニューカード
燻製マップや提案メニューカードなどの販促物
秩父館製造「鮎の燻製 桜あゆ」 秩父館製造「鮎の燻製 桜あゆ」
秩父館製造「鮎の燻製 桜あゆ」

今後は、認知促進にも力を入れていきます。すでに、食の専門誌『dancyu』に当プロジェクトの活動が掲載されましたが、引き続き商品発表会も実施する予定です。それに伴い、メディア関係者へのニュースリリースなども行っていきます。

楓庵製造「鮎の燻製の甘露煮 押寿し」 楓庵製造「鮎の燻製の甘露煮 押寿し」
楓庵製造「鮎の燻製の甘露煮 押寿し」
長瀞商業振興有限会社製造
「長瀞の桜チップ」

地域を支援するポイント

中小企業診断士試験では、「企業」の支援に役立つ理論やセオリーを体系的に学びます。しかし、「地域」を活性化するための理論は、ほとんど出てきません。行政の方からも、「ぜひ、他の地域で水平展開できるような手法やモデルを開発してください」というご要望をいただいています。地域活性化のトップランナーの方々は、自身の経験から生みだした理論を打ち出していますが、それは少数にとどまっており、まだまだ体系化されるまでには至っていない分野だと感じます。そのため、ある程度は自分でポイントを整理し、概念化する作業が必要になります。

今回、ご紹介した支援を通じて、私なりには、以下のように活性化のポイントを整理しています。

ポイント利点、理由等
・学校、大学生との連携
できれば継続的にお付き合いができる地元の大学のゼミと連携する
・若者のアイデアを活かせる
・外部の視点を取り入れられる
・話題性が高まる
・マンパワー不足の解消
・地元の方との密な交流 ・信頼関係の構築
・他地域の人との連携 ・全国的な波及効果が得られる
・リソースの相互補完
物サービス ・新商品、新サービス(スタンプラリー等の従来型のものを含む) ・収入源、運営費の確保
・開発を通じたネットワークの強化
・地元企業とのタイアップ(広告収入を含む) ・リソースの相互補完
・収入源、運営費の確保
情報 ・メディアとの連携
・ニュースリリースの発信
・住民や商店街会員へ、商店街活動を広く知ってもらえる、話題になる
地域資源 ・地域資源(歴史、文化、地名、企業、行政、学校)の活用、連携 ・活動のストーリー化に必要
・量販店との差別化(大型店は経済活動に偏っており社会的活動があまりできていない、本部の許可がおりない)
・子供(とその親)を巻き込める

当初、地域活性化には決まったセオリーがないように見えていましたが、突き詰めて考えると、企業のコンサルティングと同様、人・物・金・情報といった資源をいかに活用するかといった視点が欠かせないという結論に至りました。それらに地域資源を加えて、地域のストーリーを作っていくのです。

私が地域活性化支援を始めた頃、人・物・金・情報・地域資源といった切り口が見えていなかったのは、企業のようにそれがすぐそこにあるものではなく、地域は広すぎるため、どこに誰がいて、何があるのかが見えていなかったからだと思います。もしくは、その地域にはなく、日吉商店街連合会のように広域連携をして補完する必要がある資源も、少なくありません。それらを掘り起こすためには、できるだけ現地に入り、地元の方と密に会話をして、資源を探すことから始めなければなりません。

多様性こそが地域の良さで、その地域にしかないものを探す。そして、それを物語に紡いでいく。プロデューサーとして広い地域全体にかかわり、長期的に支援していく面白さは、そこにあるのだと思っています。

(おわり)

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※東京・銀座でマーケティングサービス会社を経営する松原和枝さん(中小企業診断士)の取材記事です。

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