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海外のいまを知る―タイ編(中小企業診断士集団によるタイ・ホット訪問記)

文:山本 倫寛麻畑 紀美子加藤 ゆり姫野 智子(中小企業診断士)

【第1回】タイの現状と魅力

中小企業診断士の目で見た海外の現状をお伝えするシリーズ「海外のいまを知る」。第2回となる今回は、タイ訪問記をお届けします。

2012年8月31日23時、羽田空港に総勢20名の中小企業診断士が集合しました。私たちの所属する研究会「MPA」における、夏恒例の海外合宿の始まりです。今年の行き先は、タイ・バンコク。2泊5日の行程で、最終日には中小企業診断士として3ヵ所を訪問しました。訪問先は「JETROバンコク事務所」、日本企業の進出目覚ましい「ヘマラート・イースタン・シーボード工業団地」、タイ最大の財閥系で工業団地等の不動産開発を手がける「CPランド」です。

今後、2回にわたってタイ訪問記をお届けしますが、第1回はタイの現状と魅力、および多くの日本企業が進出している工業団地についてレポートします。

タイってどんな国?

日本の対外直接投資額
ASEAN主要国に対する
日本の対外直接投資額の推移
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タイは、海外渡航先ランキング第4位(法務省「渡航先別渡航目的別日本人出国者数」)と、日本人に大変人気のある国。ASEAN主要国に対する日本の対外直接投資額の推移(財務省「国際収支状況(対外直接投資内訳)」)からも、日本にとって魅力的なビジネス市場となっていることがうかがえます。

国土面積は日本の約1.4倍で、人口は6,353万人と日本の約半分です。産業の中心は就業人口が4割の農業、およびGDP構成比の36%を占める製造業です。そして製造業の中では、自動車関連と電気・電子関連が2本柱となっています。

名目GDPは3,456億ドル(2011年)で、ASEAN域内ではインドネシアに次いで第2位に位置しています。しかし、1人あたりGDPは5,394ドルと、ASEAN域内ではシンガポール、ブルネイ、マレーシアに次いで第4位。1位のシンガポール(49,270ドル)の10.9%にすぎません。なお、シンガポールの1人あたりGDP(2011年)は世界13位で、日本の18位を上回っています。

特筆すべきは、在学率の高さです。タイの教育制度は日本と同様に6-3-3-4制で、近年は中等教育、高等教育の在学率が上昇し、高等教育への在学率は60.5%となっています。日本の高等教育(大学・短大・通信制・放送大学進学者)在学率60.3%(「教育指標の国際比較2012年」より)と比較しても、まったく変わらない水準の高さと言えます。

3ヵ月で半数が辞める

ブリーフィングを受けるMPAメンバー
JETROバンコク事務所で
ブリーフィングを受けるMPAメンバー

中小企業がタイに進出するにあたって重要なのが、優秀な人材の確保です。どの国においても同じことが言えますが、タイも例外ではありません。

一般的にタイ人は、教育を素直に受け入れ、働き者で手先も器用。そして何より、笑顔を絶やさぬその態度が、ともに働く日本人に安心感を与えます。しかし、給与水準の高い職場があれば、すぐにそちらに転職してしまうのも現状のようです。

JETROバンコク事務所でうかがった話によると、工場では3ヵ月で50%の人が辞める事態も起きているとのこと。それを防ぐには、以前の日本では当たり前だった「家族的な経営」が有効だそうです。

タイ人は、恩義を感じる国民性を持っています。そのため企業では、懇親会や運動会、または従業員のお母さんの誕生日にプレゼントを贈るなど、家族を巻き込んで会社のファンにしてしまうことによって定着率を高め、転職を防ぐ工夫をしています。

日本企業にとってのタイの魅力

日本企業がタイ進出を決める要因として、アジアにおける地理的優位性、電力や水道等のインフラ整備の充実度、そしてアジアでもっとも進んでいる産業集積等がよく挙げられます。加えて、タイ人が親日的で論争を好まず、日本人になじみやすい国民性を持つため、労務面での問題発生が少ないことも大きな要因のようです。また、今回のタイ訪問で私たちも実感しましたが、治安が良く、夜中に出歩いても基本的には危険を感じないことも挙げられます。さらに日本人学校、日本人コミュニティがあり、日本人が快適で安全に暮らせる環境が整っていることもタイの魅力を高め、タイ進出を後押しする要因となっています。

こうしたさまざまな魅力を持つタイには、50を超える工業団地が存在しています。そして各工業団地では企業を誘致するために、それぞれが魅力的な環境を整備し、企業の受け入れを行っています。私たちは、それらの工業団地の1つで、日本企業も多く進出している「ヘマラート・イースタン・シーボード工業団地」を訪問し、タイ工業団地の現状を視察しました。

"東洋のデトロイト" ヘマラート・イースタン・シーボード工業団地

ヘマラート・イースタン・シーボード工業団地(略称:ヘマラート・ESIE)とは、ヘマラート・ランド アンド ディベロップメント株式会社という総合不動産開発会社が開発した、ワールドクラスの工業団地の1つです。

タイ進出の際に工業団地を活用するメリットは、電気、水道、通信、納入・搬入のアクセスである道路等、製造にかかわるインフラが十分に整備されていることや、日系企業が集まるために情報交換がしやすく、新たな受注につながる可能性が広がることです。また、タイは外資優遇政策のため、法人所得税の免税や減税等、税制面で優遇が受けられます。

このヘマラート・ESIE一帯は、"東洋のデトロイト"とも言われ、東南アジアにおける自動車関連・産業クラスターの雄と言えるでしょう。まさに、M.E.ポーターの言う「立地の競争優位の源泉(ダイヤモンドモデル)」の典型と言っても過言ではありません。

ヘマラート・ESIEの概要は、次のとおりです。

  • 物流に有利な立地条件(バンコク市内から112km。タイ最大の国際港・レムチャバン深海港へ27km。主要幹線道路へも至近)
  • 海抜60~120mで、洪水の心配のない強固な地盤
  • 総敷地面積約815万坪(約2,690ヘクタール)で、東京ドーム約600個分
  • 入居企業数317社(うち150社が自動車関連産業、日系企業比率は約60%)
  • 主な入居企業:スズキ、フォード、GM、ATT社(マツダとフォードの合弁会社)等
  • 世界上位25社の自動車部品メーカーのうち、15社が生産拠点を設置
湯浅氏による迫力あるガイダンス
日本顧客開発・アドバイザーの
湯浅氏による迫力あるガイダンス

今回のヘマラート・ESIE訪問に際しては、日本顧客開発・アドバイザーの湯浅氏にガイダンスをしていただきましたが、その中で特に印象に残った内容が2つあります。

1つは、「この工業団地では工場建設にあたり、ほとんどパイルを打ち込む必要がない」という説明でした。平均1㎡あたりの地耐力が何と約30トンとのことで、強固な地盤がこの工業団地の特徴と言えます。

私・山本が総合商社の一員として上海に駐在していた当時、何件かの工場建設プロジェクトに参画しましたが、ある工場建設の際には、何と数メートルおきにパイルを打ち込む必要がありました。しかもパイリングの際に、一本一本がスーッと、何mも一挙に地中に消えていく様を目の当たりにし、その地盤の緩さに恐怖さえ覚えました。このパイリングが不要ということは、コストダウンのみならず、工場建設工期の短縮にもつながるもので、非常に有利と言えます。

もう1つ印象に残ったのは、「中小企業向けの賃貸工場も用意してある」との説明でした。広さは最小で500㎡、賃料は平均で1ヵ月200タイバーツ/㎡とのことです。この手頃感を利用し、業種の違う中小製造業に入居してもらい、賃貸工場を1つの工場と見立てて操業することも可能ではないかと思いました。

私はマレーシア駐在当時、「カンポン作戦」というものを考案したことがあります。「カンポン」とはマレーシア語で「村」という意味ですが、この作戦は村の中に業種の違う中小製造業に入居してもらい、分業体制を構築して最終製品に仕立てようというものです。たとえば、あるクライアントが村の入口で、「こんな完成品が欲しい」との要望を出すと、村の中の企業がそれぞれ作業を分担し、クライアントは村の出口で待っていれば完成品を受け取れるといったイメージです。今回の湯浅氏の説明にあった賃貸工場を利用して、いま一度カンポン作戦を敢行し、中小企業の皆様のお役に立ちたいという気持ちを強くした次第です。

中小企業にとって海外展開は増益効果あり

円高、高い法人税、貿易自由化の遅れ、労働規制、温室効果ガス抑制策の五重苦に、東日本大震災後の電力不足を加え、六重苦とも言われるわが国の現状において、中小企業と言えども国際展開を図らざるを得ない状況に、ますます拍車がかかっています。

海外展開の増益効果
海外展開の増益効果
(出典:2012年度版『中小企業白書』)
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海外直接投資(現地進出)による日本国内の空洞化が懸念されていますが、2012年度版「中小企業白書」でも、海外展開の増益効果に関するアンケート調査で、「直接投資は企業利益を増加させる」という問いに対し、「全くそう思う」と「まあそう思う」の合計が56.1%となっています。

また、直接投資開始企業の日本国内における従業者数についても、「増えている」という調査結果が出ています。これは、海外においては系列等のしがらみがなく、技術・コスト競争力を持っていれば、国内では取引関係のなかった新規顧客の開拓、新たな取引関係の構築ができることを示していると考えます。このように、中小企業が海外展開することにはさまざまなプラスの効果があります。

しかし当然ながら、海外展開にはさまざまなリスクが伴うことも事実です。闇雲に海外展開を図るのではなく、常にリスクの存在を認識することが必要です。その対処策を事前に講じることで、中小企業が安全に、そして安心して国際展開できるサポートの提供をしていきたいとの思いを、今回のタイ訪問で一層募らせました。

(つづく)

※本稿は、山本倫寛、麻畑紀美子、加藤ゆり、姫野智子によるレポートです。

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