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診断士カレイドスコープ

平成23年中小企業経営診断シンポジウム報告

取材・文:鎌田 浩一(中小企業診断士)松林 栄一(中小企業診断士)

【第2回】経営革新実現への第一歩とは

取材日:2011年11月9日

未来工業株式会社の瀧川克弘様から、人の潜在能力を引き出すことの大切さをお話しいただいた午前に続き、午後の各分科会では、それを実践して経営革新に導いた事例について、数多くの発表が行われました。今回はその中から、第1分科会の様子をお伝えします。

「5つのギャップ」を解消し、IT経営革新を成功に導く

東京支部 小林勇治氏
東京支部 小林勇治氏

中小企業庁長官賞対象の4名の方から事例発表があった第1分科会は、座席が早々に埋まり、立ち見の方も出るほどの盛況でした。どの発表も、持ち時間(質疑応答を含めて40分間)をフルに活用し、熱い思いのこもった密度の濃いものでした。

その中で、見事に「中小企業庁長官賞」に輝いたのは、東京支部の小林勇治氏による「中小企業IT経営革新阻害要因5つのギャップ解消のための提言」です。小林氏は、26年間にわたるIT経営革新コンサルタントとしての経験をもとに、IT経営革新の失敗・成功要因について仮説を立て、事例の検証と原因究明を行い、さらに成功率向上に向けた提言を展開されました。

小林氏によると、IT経営革新で生じやすく、失敗・成功を左右するギャップとして、次の5つがあります。

1.経営系とIT系のギャップ

2.各プロセス間のギャップ

3.組織のトップとローアのギャップ

4.ユーザーとベンダー、コンサル間のギャップ

5.リファレンス間のギャップ

いずれも、本来ならば関係者による戦略やビジョンの共有を基盤とし、全体が整合して進められるべきところ、何らかの不足や不一致、バランスの悪さなどによって、狙った効果が出なくなるというものです。

小林氏は、これらのギャップの原因を究明し、その解消に有効なモデルを考案・適用してきました。これにより、戦略やビジョンとその実現のために必要な要素を共通認識化し、関係者の思惑がずれたままプロジェクトが進行するのを防止できます。その有効性は、小林氏のIT経営革新支援先である29社中26社で成功を収めた(成功率89.7%)という実績が語るところです。

審査委員からは、失敗・成功の原因に関する洞察の鋭さ、あるべき姿を独自の表や図を駆使して可視化し、共有を図る巧みさ、そして長年の経験に裏づけられた説得力について、高い評価がなされました。IT分野については、経営者が「話が難しくてよくわからないから、任せるよ」と業者やIT担当者に任せっきりにしてしまうケースが散見されますが、今回の発表で、IT経営革新の成功には経営者のコミットメントが必須であることが、あらためて浮き彫りになったといえそうです。

経営革新実現への第一歩とは

東京支部・山口県支部 山本哲史氏
東京支部・山口県支部 山本哲史氏

小林氏以外の3名の方々も、その素晴らしい発表内容により、各賞を受賞されました。以下、ご紹介いたします。

「日刊工業新聞社賞」を受賞されたのは、東京支部・山口県支部の山本哲史氏による「障がい者授産施設の元気化事例~プロジェクト推進による工賃向上の実現」です。近年、国は障がい者授産施設の工賃倍増を打ち出していますが、十分な成果があがっている授産施設はまだ少ないのが現状です。

山本氏は、「自分で立案した計画を実行することが経営革新の第一歩」という視点から、職員一人ひとりの創意を肯定し、各々が自分で考えて実行する組織への転換を図りました。これにより、「私たちにはできっこない」といっていた授産施設職員からアイデアが出始め、実施した結果を検証し、成果を共有できる組織へと変化していきます。その中で、PDCAやマトリックスなどのベーシックなツールを、敷居を下げながら丁寧に活用していく様子に感心させられました。

審査委員からは、福祉の領域にビジネスの発想を活用して成果をあげている点や、発表の端々に感じられる支援者への熱い思いが高く評価されました。福祉のような非営利分野において、中小企業診断士が価値を提供できる可能性を見出させてくれる点で、意義深い発表でした。

愛媛県支部 山本久美氏
愛媛県支部 山本久美氏

「日本経営診断学会会長賞」を受賞されたのは、愛媛県支部の山本久美氏による「学習組織体制構築による顧客維持型マーケティング戦略」です。山本氏の支援先は建設業者で、景気低迷により新規住宅着工数が落ち込む中、低価格住宅メーカーとの価格競争にさらされ、厳しい状況に陥っていました。

山本氏はヒアリングから、根本的な経営課題を従業員の知識・経験不足およびオペレーションの非効率さと見定め、支援を行っていきます。ベテランを講師とする勉強会、監督者の施主訪問時の同行などによって新人の成長を図りつつ、工程管理の確実な実施、顧客データベースを活用した営業活動など、業務面の改善も進めていきました。これらにより、営業利益率は経営革新前の2.7%から3.7%に改善し、1人あたりの労働生産性も2倍以上になるという、高い成果を導き出しました。

審査委員からは、取引先や外大工(請負)を巻き込み、短期間で新人に専門的知識を習得させるための学習体制を構築した点が、高く評価されました。熟練の職人が高齢化し、経験者の採用に注力する企業も多い中で、組織として新人の早期戦力化を果たしたこの取組みには、学ぶべき点が多々ありそうです。

茨城県支部 青柳敦子氏
茨城県支部 青柳敦子氏

「中小企業診断協会会長賞」を受賞されたのは、茨城県支部の青柳敦子氏による「経営革新の実現を可能にした創造性とローコストオペレーション」です。青柳氏の支援先は理容業者で、以前の過剰な設備投資が重荷となり、経営がひっ迫している状況でした。

青柳氏は、金融機関対応などシビアな課題に直面しながら、「女性専用の顔剃りサロン」という新しいコンセプトの店舗を低イニシャルコストで立ち上げるという経営革新策を立案し、その実施をサポートしてきました。

審査委員からは、青柳氏が追い詰められた経営者の心の支えとなり、粘り強く支援を行ったことが高く評価されました。市場調査や必要売上高の算定、RFM(最新来店日・来店頻度・利用金額)による分析など、オーソドックスな手法に依拠しながら、資金や物理的制約を乗り越える創造性を発揮したこの経営革新事例は、非常に参考になりました。

各賞を受賞された4名の方の事例発表は、それぞれが示唆に富み、今回のテーマ「経営革新実現への第一歩とは」への解答となっていました。経営者とともに考え、支援し続ける4人の姿は、「中小企業の経営革新に貢献する」という中小企業診断士のミッションを再認識させ、大変有意義な分科会となりました。

(つづく)

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