経営コンサルタントの国家資格”中小企業診断士”の情報が満載です。 中小企業診断士の広場

中小企業診断士の広場

診断士カレイドスコープ

元支援機関職員の中小企業診断士が教える施策活用法

文:園田 晋平(中小企業診断士)

【第3回】「戦略的基盤技術高度化支援事業」~世界を照準としたモノづくりを行うために~

実際に中小企業施策を活用した企業を紹介しながら、その施策の実際をお伝えする当連載。今回は、注目が高まっている「戦略的基盤技術高度化支援事業」(サポイン)に採択されたプロジェクトの研究総括として、中心的役割を果たした企業の事例を紹介します。

「戦略的基盤技術高度化支援事業」とは

木田成人代表取締役社長
木田成人代表取締役社長

「戦略的基盤技術高度化支援事業」は、通称・サポイン(サポーティングインダストリーの略)と呼ばれ、ものづくり基盤技術の高度化に向けた研究開発を行いたい中小企業者に委託金を支給する事業です。この委託事業の拡充は、平成22年9月に閣議決定されていて、国としても力を入れています。支援対象は、「中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律」の認定を受けた中小企業者を含む共同体で、委託金額は、初年度4,500万円以下/テーマ、2年目は初年度の契約額の2/3以内、3年目は初年度の契約額の半分以内と、大型の委託事業と言えます。

創業以来培ってきた高い金型技術

「世界を照準としたモノづくりをおこない、顧客にビジネスパートナーとして信頼される企業となる」--これは、昭和精工株式会社(神奈川県横浜市、木田成人社長、電話番号:045-785-1111)が昭和29(1954)年の創業以来、現在まで掲げている目標です。この目標に向けて、同社では一貫して精密プレス金型および成形技術の開発に着手してきて、現在では、自動車部品や食品容器の金型を中心に、幅広い産業分野に高機能の金型の供給を行っております。その技術は高く評価され、平成18年には経済産業省「元気なモノ作り中小企業300社」に、平成19年にはものづくり日本大賞優秀賞(内閣総理大臣表彰)に選出されるなど、公的表彰も多く受賞しています。また同社は、ものづくりを行う中小企業にとって最大級の支援施策とも言うべき「戦略的基盤技術高度化支援事業」に、平成19年に採択されました。

公的支援の活用

「汎用プレス機を用いたハイサイクル精密せん断加工技術」というのが、「戦略的基盤技術高度化支援事業」に採択されたテーマです。高機能製品を得る精密せん断(ファインブランキング)をハイサイクルでの成形で可能とする金型および成形技術の開発で、この技術が応用されれば、プレス加工の生産性が約3倍に向上するのをはじめ、金型の耐久性アップや日常的な金型のメンテナンスの削減などによって生産環境が向上し、革新的なさまざまなメリットを生み出します。

この技術の開発には長年取り組んでいましたが、重要テーマだけに多額の開発コストを要する点、金型の摩擦軽減のために金属表面処理の技術開発という協力パートナーが必要な点、また試作開発品の評価を行う機関が必要な点など、多くの課題を抱えていました。このような課題を解決するうえで、同社の代表取締役である木田成人社長が真っ先に考えたのは、公的支援の活用でした。

同社はそれまでも、さまざまな新規開発案件の際に、神奈川県や横浜市などの補助金や助成金を数多く活用していました。また、知的財産に関する点や展示会出展などにおいても、公的支援機関を大いに活用してきた経緯があり、すでに公的機関とのネットワークが構築されていました。そして、財団法人横浜企業経営支援財団の技術サロンに参加した際に、「戦略的基盤技術高度化支援事業」を知ります。採択されるのは相当にハードですが、採択されれば、木田社長の掲げる「ファインブランキング加工の生産性を高め、世界に通じる技術にしたい」という目標を実現する大きな力になると考え、挑戦を決意しました。

開発プロジェクト

こうして、同社をコア技術の研究開発の総括として、「戦略的基盤技術高度化支援事業」の採択に向けたプロジェクトが開始されました。この事業には、プロジェクトの管理を担う管理法人の存在が必要ですが、管理法人は大学技術移転促進法(TLO法)に基づく承認TLOである、よこはまティーエルオーが担いました。以下、プロジェクトメンバーとしては、副総括の神奈川県産業技術センターが、試作品の測定など研究開発のサポートをし、横浜国立大学が開発の理論的検証を担い、金属表面処理の技術開発は、株式会社不二ダブリュピーシーという構成でした。まさに産学官一体となった連携体です。

2度目の挑戦で晴れて採択

このプロジェクトで、平成18年度に研究開発計画書の作成および申請を行いましたが、残念ながらその年は不採択となりました。そして翌年にあらためて、研究開発計画書の作成に着手しました。計画書作成業務を通じて木田社長は、「研究開発上に現れる問題の解決を図る場合に、従来は経験とカンに頼りがちだった点が排除され、原因と結果の因果関係を論理的に分析する習慣が身につき、非常に学ぶべきことが多かった」と振り返ります。こうした苦労のかいあって翌年、この開発案件が見事に国の委託事業として採択されました。

国の委託事業として研究開発にまい進

「戦略的基盤技術高度化支援事業」に採択されて、同社の研究開発はさらに加速することになりました。

まず、煩雑な事務手続きなどは管理法人であるよこはまティーエルオーが担当するため、同社は研究開発に集中できる環境を得ることができました。また、連携体が充実しており、横浜国立大学大学院工学研究院の梅澤修教授に、研究開発の技術アドバイザーとしての協力も得られるようになりました。もちろん、国の委託による研究開発なので、資金面でも大きなバックアップを得られます。

こうして、「戦略的基盤技術高度化支援事業」に基づく「汎用プレス機を用いたハイサイクル精密せん断加工技術」の研究開発によって、「昭和精工ブランドを世界に発信する」という企業目標の実現に大きく近づいたほか、「長年にわたってパートナーとして付き合える産学官の強固なネットワークを構築できたのが大きかった」と、木田社長は振り返ります。

「戦略的基盤技術高度化支援事業」の平成22年度の採択結果は、977件の応募に対して採択は308件(倍率:3.2倍)と決して容易ではありませんが、わが国製造業の国際競争力強化のために、国としても力を入れている事業だけに、今後ますます注目は高まると思います。

(おわり)

【こちらもおススメ!】