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文:堀切 研一(中小企業診断士)

【第2回】感性をぶつけ合うことで生み出される面白さ

取材日:2010年3月26日

感性を磨くと物事の本質がみえてくると語る服部さん。哲学と映画を通じ、本質を追求して活動されてきた話に引き込まれます。

哲学と映画の共通点

映画「音の城♪音の海-SOUND to MUSIC-」より ©アップビートビジョン
映画「音の城♪音の海-SOUND to MUSIC-」より
©アップビートビジョン

― 今までにもっとも影響された映画について教えてください。

たくさんあるのですが、私は「BLUE」(デレク・ジャーマン監督。1993 年のイギリス映画)という映画が好きなんです。この映画では、74分間ずっと青い画面だけが映っています。青一色の画面に、音だけが流れているんです。映画における音の役割を考えさせられました。映画は想像力をかきたてるものですが、その最たる作品です。CDにすればいいんじゃないかって話もありますが(笑)。

― 想像する余地が大きいので、この映画をみた人はそれぞれがまったく違った感想を持ちそうですね。

そうですね。この作品をみて、私は映画の本質を問い詰めるようになりました。この映画に触発されたこともあり、目のみえない方が、目のみえる人と一緒に映画を解釈していく社会的な行為が撮れたら面白いのではないかと思って「City Lights」を撮影することになったのです。

― 目のみえないことで、逆にみえてくることもあるのですね。

それを証明しているのは、ユジュン・バフチャルというスロベニア出身の盲目の写真家です。手で触った感覚や、音で聞いたものを対象に写真を撮影しているんです。彼が撮った写真は、独特のリアリティが感じられて、非常に刺激を受けました。自分にはない感性や世界観だったので、その世界に少しでも近づけたらなと今でも思っています。哲学に興味を持ったことと、これらの作品を通じて感じたことには共通点があります。「これってなんだろう」という視点ですね。その視点は、自分にない感覚や世界観に対する探究心、憧れのようなものが原点となっていますね。

言葉や映像の限界を知ったうえでコミュニケーションをする

― 映像はみえるものですよね。小学生の頃から漠然としていた観念的なものを、映像の力を使って見える化していきたいという思いはありますか?

はい。今となっては、もやもやとしていたものを哲学的な言葉で言えるようになっています。哲学と映画の世界は、私の中で感覚としてどこかつながっていますね。小学生の頃の疑問は、哲学者の永井均さんの本を読んで疑問が晴れました。

― 永井均さんはどういうことを言われているのですか。

すごく大ざっぱに言うと、哲学は歴史的に、「私」と「この私」を区別してこなかったということですね。「この私」は世界にただ一人で他に存在しない私であり、他にたくさんいる「私」とは異なるのです。もう少し細かく言うと、「この私」は世界にただ一人で他に存在しない私なんですが、「この私」と言葉にした時点で表現できなくなるんです。なぜならば、「この私」と書くとき、「この私」が複数人いることが前提となってしまうからです。

― 言葉には限界があるんですね。

ウィトゲンシュタインも言っていますが、私的な体験を言葉にできるのか、という問題があります。言葉は伝える道具でしかないので、その道具に乗せた段階で、私的な体験は一般化、共通化されたものになってしまいます。まずは、共通化されたものでやりとりをしていると認識することが大事ですね。

自明のものを疑うことで新しい発見がある

― 映画の話に戻りますが、撮影のときに服部さんが大事にしていることは何ですか。

今回の映画「音の城♪音の海 -SOUND to MUSIC-」は、音声でのナレーションを入れていないんです。1960年代に用いられていた"ダイレクトシネマ"という技法を用いています。現在みられる一般的なドキュメンタリーは、プロデューサーやディレクターがシナリオを書いて、そのシナリオを説明するためのツールとして映像を撮っていくため、先に結論があるわけです。一方、私が採用している手法は結論を決めておかずに、撮っていく中でテーマを発見していくようにしています。今回の場合も、最後の公演をやるまでは、映画にできないと思っていました。しかし、公演が素晴らしかったので、最後には作品になると確信しました。

― 作品本篇をみせていただいたのですが、確かに展開が読めなかったですね。

撮りながら発見していくんですね。そこに映画の面白さがありますし、みる人もそうだと思います。わかっていることを再認識する面白さもありますが、自分が自明だと思っていることが覆されていくこと自体が、私は面白いと思っています。そういう意味では、哲学を専攻した理由と映画を撮っている理由は、同じところに原点があるのかもしれません。

議論や摩擦が映画の格好の舞台

映画「音の城♪音の海-SOUND to MUSIC-」より ©アップビートビジョン
映画「音の城♪音の海-SOUND to MUSIC-」より
©アップビートビジョン

― ほかに、服部さんが撮られる映画の特徴があれば教えてください。

今回の映画の特徴として、私は一人の人にスポットを当てていないんです。

― それは、どうしてですか。

特定の人ではなく、組織や団体で交わされる会話ややりとり、議論や摩擦を撮ることで、プロセスの変化を映画で表現したかったからです。群像劇と言いましょうか。いろんな人たちがいろんな感性や世界観をぶつけ合うところに面白さを感じています。

― 映画を撮っていて、心に残るエピソードはありますか。

今回の舞台は神戸だったのですが、最後まで映画化できるかどうかわからなかったので、スタッフの方と新幹線で行き来しているときに、「最後はどうなるんだろう」という会話をしていたのが思い出されますね。

(つづく)

服部 智行(はっとり ともゆき)
2007年中小企業診断士登録。1977年北海道生まれ。大学では哲学を専攻。外資系メーカーに勤めながら、夜間は映画学校に通い、2003年視覚障害者が映画鑑賞するための音声ガイドづくりにスポットを当てたドキュメンタリー映画「City Lights」を発表。2005年、岩井俊二プロデュースのラジオドラマ"少女毛虫"(主演:南果歩、夏帆)の脚本を担当。2010年5月には、知的障害者と音楽療法家、音楽家が新しい音楽をつくり出す過程を描いた「音の城♪音の海 -SOUND to MUSIC-」の監督も務め、同5月29日より公開予定である。
映画『音の城 音の海 SOUND to MUSIC』オフィシャルサイト