経営コンサルタントの国家資格”中小企業診断士”の情報が満載です。 中小企業診断士の広場

中小企業診断士の広場

診断士カレイドスコープ

【第1回】マッチング事例(1)~経営戦略事例~

新現役チャレンジ支援事業は、中小企業支援を目的に国の事業として平成20年度に発足しました。47都道府県にそれぞれの地域事務局が設置され、各県で活発に活動しています。
 多くの経営課題を抱える中小企業等に対し、新現役(シニアOB)が大企業等で培ってきた経験やノウハウを活かしていただける場を紹介しています。中小企業等のニーズに対し、最適な新現役を紹介することで課題解決を促し、事業発展の一助となるよう活動しています。当事業も2年目に入り、期待されている効果が出てきました。
 ここでは計3回にわたり、新現役チャレンジ支援事業でナビゲーターとして活躍する中小企業診断士ほか3名から、中小企業のニーズ別に現場事例をご紹介します。なお、詳しくは中小企業診断協会発行の「企業診断ニュース」12月号にも掲載されますので、ぜひご覧ください。
 第1回となる今回は、マッチング事例(1)として、経営戦略事例を紹介します。神奈川県綾瀬市で工作機械製作、板金加工を行っている企業のブランド戦略事例です。

企業ヒアリング

<A社概要>

A社は、神奈川県県央地区で装置等の筐体・フレーム等の溶接組立加工、制御盤・パネルやブラケット等の板金加工、ハウジングやブラケット等の旋盤・フライス加工、自動機および搬送装置等の設計製作を行っています。設立は昭和59年、社長は大手工作機械メーカーをスピンアウトして、約25年前に創業しました。

当初は、近隣地で洗浄機の組立から始めましたが、現在、資本金は5,000万円、年商額は約6億円です。従業員は45名で、自社工場を持っています。

今回の新現役チャレンジ事業への依頼は、「独自のブランドをつくるために、そのアイデアを具現化できる人材」というもので、事務局にFAXで依頼があり、私が担当させていただくことになりました。ホームページ、同業他社の業績推移等を事前調査した後、社長とのヒアリングを行うこととなりました。

<ヒアリング>

不景気の中、A社の業績は企業努力により、緩やかな上昇曲線を描いていました。しかし、昨年のリーマンショックで多くの製造業の売上は5割減へと落ち込みます。A社も例外ではなく、大きな影響を受けましたが、これを機に下請けの弱さから脱却し、独自ブランドをつくっていきたいと考えているとのことでした。社長はこれまで、大手企業を中心に、依頼された工作機械を設計・製造してきましたが、今後はA社ならではの技術を集約したものを開発し、農業や環境関連部門まで視野に入れた中長期戦略を一緒に考えてくれる人材を求めていました。

社長にお会いすると、最初は本事業に対して懐疑的な様子でした。しかし、ヒアリングを進めていくうちに、企業の課題、実現したいビジョン、理念に至るまで、期待を込めて話してくださいました。気づけば、通常1時間程度のヒアリングは、3時間にもなっていたのです。

検索と独自データベースからの人選

ヒアリングで重要キーワードを拾い出し、事務局の端末から新現役データベースで検索すると同時に、定期的に行われる新現役とのフォーラムや交流サロンからの情報も参考にして、人選を行いました。

新現役リストには、約80名の検索結果がありました。そこで、「戦略」としての要素に「技術」的な要素も入れ、30名ほどに絞り込みます。その中に、面談したことがあるD氏が入っていました。D氏はものづくりの研究開発を経験し、各種の論文発表も行っています。技術的には申し分ありませんが、社長が望むのは「戦略も考えられる実務的な人材」です。しかしここで、事前に面談した際の経験が役に立ちました。持ち前の人柄のよさや、中小企業診断士を受験するなど中小企業支援に熱心だった面談時の印象が決め手となり、D氏がマッチング(個別面談)の運びとなりました。

マッチング

マッチングの日時は、1週間後に決定しました。通常、対象の新現役が決まれば、マッチングへの運びは早く、当日の社長との話は非常に盛り上がりました。D氏は高度な知識を持つ一方、謙虚で社長のアイデアを具現化するための思考も備わっていたことで、最終的に成約につながったものと推測されます。

マッチング後の展開

マッチング後、D氏は週に1~2回、A社の支援を行っています。A社には、マッチング時に私自身も所属する農商工連携研修会を紹介しました。

マッチングナビゲーターをしていると、「何か企業のためになることはないか」と考えるようになります。現在、研究会では、県内T大学との連携が、技術開発・ブランド戦略としてスタートしています。偶然にも、D氏はT大学の先生とコネクションがあったため、話もスムーズにつながりました。研究会でお会いする度に、A社が新しい道を着実に歩み始めていることを実感できます。

本事業のキーファクター

製造業を往訪して感じるのは、リーマンショック後のすさまじい売上の落ち込みです。受注がゼロになったところもある中、新たな戦略を考え出すべく実際に行動するには、かなりのモチベーションが必要です。

果敢に取り組む社長さんにお会いすると、感動することが多く、微力でも何かしてあげたい気持ちになります。新現役の皆さんも、そのような気持ちになったときに初めて、社長とのよい関係ができるのではないかと思います。マッチングは、経営者と新現役、ナビゲーターの3者の想いが一致したときに成功するということを、私は確信しました。

(つづく)