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地元に根付いた活動報告

地産地診

(19)静岡県南伊豆町の将来像を提言――企業内診断士による地方創生のカタチ

取材・文:奥村 直樹(中小企業診断士)益田 知幸

【第1回】企業内診断士はバッターボックスに立とう

2018年11月13日更新(取材日:2018年8月15日)

地域に根づいた活動を行う中小企業診断士の方々を紹介する「地産地診」。今回は、東京都内に勤務しながら、静岡県南伊豆町の産業振興にかかわる皆さまを紹介します。
第1回目は、独立行政法人中小企業基盤整備機構の職員であり、今回のプロジェクトをコーディネートされている橋本孝さんと岩井智洋さんにお話を伺いました。

静岡県南伊豆町の産業振興プロジェクトについて

―本日は、現在関わっておられる静岡県南伊豆町の産業振興プロジェクトにおける皆さまの取組みや考えを伺い、そのうえで企業内診断士へのメッセージをお願いしたいと思います。

橋本・岩井:よろしくお願いします。

―まず、このプロジェクトの概要についてです。このプロジェクトは、主に東京都内に勤務する中小企業診断士など24人がチームを組み、静岡県南伊豆町の産業振興策について提言をされたものですね。提言づくりでは、その中小企業診断士たちが、南伊豆町の住民へのヒアリングも行いながら実施されました。そして南伊豆町は、この提言を実際に2020年から10年間の次期総合計画策定の参考にされています。この取組みは、社会人が仕事で身につけた知識やスキルで社会貢献する試みであり、地域活性化の新たな手法として注目を集め、メディアなどにも取り上げられています。

岩井:このプロジェクトは、2017年11月頃、中小企業基盤整備機構の職員向けの研修で南伊豆町の経営指導員である木下さん(*本連載の第3回目に登場)に登壇いただいたのがきっかけで開始しました。現在は提言した内容を実行段階に移す取組みを行っており、そこでは東京の企業内診断士だけでなく、地元静岡の中小企業診断士の方にも参加していただく見込みであり、プロジェクトにさらなる広がりが出てきています。

プロジェクトにおいてかつて存在した地域診断の手法を採用

―今回のプロジェクトでは、地域診断という手法を一部取り入れていらっしゃるそうですね。

岩井:昔の中小企業診断士制度の養成課程のカリキュラムには、広域商業診断や産地診断などの「地域診断」という手法がありました。そうした体系化された診断ノウハウを現代に活用したいという思いがあり、それらに関する知見のある上司の橋本に相談して、このプロジェクトに参加してもらいました。

橋本:地域診断は、養成課程の最後の実習で行っていました。それは、中心市街地活性化を図る南伊豆町よりは大規模な地域を対象としたもので、街を商業構造・工業構造などいくつかの切り口から分析して将来像を描き、提言するというものでした。今回の南伊豆町の場合、1次産業とサービス業に産業が偏っていたり、中心市街地と言える場所がなかったりと、そのまま当てはめて使うことはできませんでしたが、切り口を課題ベースに分けることで対応しました。

―なぜ、地域診断を取り入れたいと思われたのですか。

岩井:かつての地域診断を知る方々から、「あれはなくなってしまったのですか?」といった話も出ますので、もったいないと感じていました。今回は、現地でさまざまな手配ができる、南伊豆町商工会経営指導員の木下和孝さん(中小企業診断士)がいたことで、地域診断を実行する場が得られてよかったです。

中小企業基盤整備機構の岩井智洋さん
中小企業基盤整備機構の岩井智洋さん

―企業内診断士を中心にこのプロジェクトを進めていかれることのメリットはありましたか。

岩井:参加メンバーにさまざまな分野の方が集まってくれたのがよかったと感じています。まったく異なるバックボーンのメンバーが、「中小企業診断士」という同じOSを使って取り組めたことがおもしろかったです。われわれの立場からすると、地域支援というと行政・支援機関か地域金融機関の中小企業診断士、というイメージが強くありましたので。

企業内診断士の力を地域支援に活かすために

―地域支援をより盛り上げていくためには、どのような点がポイントになると思われますか。

橋本:今回の提言もそうだったように、個別の企業と向き合うだけでなく、地域を発展させるための仕組みづくりやネットワークづくりのようなことができれば、広がりが出てくると思います。ピンポイントではなく、もうちょっと広い視野で支援を行うことができれば、地域自体を盛り上げられるのではないでしょうか。

岩井:そうですね。地域診断のような過去の手法は皆、やりたくてもわからない部分が多いですが、こうしたプロジェクトを通じて過去の手法を復活させたり、新しいやり方ができたりすれば、より盛り上がるのではないかと考えています。

中小企業基盤整備機構の橋本孝さん
中小企業基盤整備機構の橋本孝さん

―企業内診断士の力を地域支援に活かすために、メッセージをお願いします。

岩井:企業内診断士の皆さんは、知識欲が旺盛でさまざまな勉強をされていますが、例えるならば、「素振りはしているけれど、実際のバッターボックスに立つ機会がない」ように感じています。東京では研究会が活発に行われ、知識を学ぶ機会は多いのですが、南伊豆町に来てみると、実際の案件が山ほどあって、そこにギャップが生じています。知識だけでは本当にもったいないですよね。やはり、バッターボックスに立ってこそだと思います。
皆さん、非常に高い能力をおもちですので、それを活かしてもらいたいです。診断士資格を取得することが目的ではなく、取得してからどうするかが重要ですので、一歩を踏み出してもらいたい。私たちも皆さんに何かを提示したいですし、ぜひ何かを一緒にできれば、とも思っています。

橋本:現場に一度来てもらえれば、きっとやみつきになりますので、まずはその一歩です。最初は遠慮があるかもしれませんが、実際に現場に入ってもらえれば、さまざまな経験を通じて周囲から感謝をされ、やりがいも見つかると思います。最初の一歩を踏み出してさえもらえれば、その向こう側は本当に楽しいですよ。

岩井:最近は、こうして企業内診断士の世界が非常に盛り上がってきていますので、次の展開に進んでいければよいですね。一歩を踏み出したいと考えている人をどんどん巻き込むことができれば、新しい何かができるのではないかと思っています。

(つづく)

プロフィール

橋本 孝さん

橋本 孝(はしもと たかし)
1995年、中小企業診断士登録。独立行政法人中小企業基盤整備機構に勤務。人材支援部主任研究指導員。現在の中小企業診断士養成課程のカリキュラム策定や、九州本部の経営支援課長時代は熊本での震災復興支援業務を行うなど、本業の中で診断士資格を活用している。

岩井 智洋さん

岩井 智洋(いわい ともひろ)
2012年、中小企業診断士登録。独立行政法人中小企業基盤整備機構に勤務。人材支援業務が長く、研修の企画運営・ケース開発などを担当。現在はTIP*S(※)を担当、さまざまなテーマでワークショップを開催し、参加者同士の対話を通じたつながりづくりに従事。東京都中小企業診断士協会城北支部所属。

※ TIP*S(ティップス)
独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する全国の中小企業や小規模事業者、起業に関心がある方などのための新しい学びの場。新たな事業の創出やきっかけとなるようなワークショップや講座、イベントを開催し、参加者同士の対話を通して新たな気づきやつながりに力を入れる。