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地元に根付いた活動報告

地産地診

(8)岡山県編

取材・文:渡辺 まどか(中小企業診断士)

【第1回】P/Lの改善ができなくては意味がない

取材日:2012年11月17日

地域に根づいた活動を行う中小企業診断士の方々をご紹介する「地産地診」。今回の岡山県編は、岡山県商工会連合会の皆様を取り上げます。お1人目は、岡山県商工会連合会の地域経済対策課で主任専門経営指導員を務める春名文人さんにお話をうかがいました。

2つのミッションを掲げて

春名文人さん
春名文人さん

― 春名さんのこれまでのご経歴をお聞かせください。

春名:平成7(1995)年に新卒で岡山県商工会連合会に入り、経営指導員研修生として2年間、先輩の指導員について修行を積みました。具体的には、中小企業大学校の研修、先輩経営指導員への同行、各商工会での勤務、物産展などのイベント運営などです。その後、美作市の商工会に、経営指導員として配属されました。商工会青年部の支援を中心業務とし、確定申告や納税に関する指導、マル経融資の斡旋業務などを行っていました。

中小企業診断士を目指したきっかけは、ある青年部員に「もっと経営のことを勉強しなさい」と言われたことです。平成15(2003)年に中小企業大学校の養成課程に派遣され、岡山県の商工会職員における中小企業診断士第2号となりました。養成課程は、他の組織の人と勉強したり話したりする機会に恵まれ、大変刺激になりました。ただ、そのとき疑問に思ったことが1つあって、たとえばSWOT分析などのフレームワークを使っても、必ずしも売上と利益は上げられないのではないのかと。企業診断はできるけど、分析にとどまってしまい、売上・利益を上げたいという企業のニーズには応えられないのではと思ったのです。この頃の思いが、後でお話しする岡山経営革新塾や実践コンサルツール研究会などの発足の源になっています。

その後、平成16(2004)年からは商工会連合会に戻って経営指導員に従事していたのですが、担当する企業の多くが倒産の危険性をはらんでいて...。当時は、企業診断から悪いとわかっていても、P/Lを改善する答えは見つけられませんでした。そこで、「これには経営者の判断に係るプロセスに何らかの原因があるのではないか?」と疑問を持ち、経営についてもっと研究したいと思うようになりました。そして平成20(2008)年、36歳の頃に、岡山大学大学院で組織経営を専攻し、MBAを取得しました。

― なぜMBAを取得されたのでしょうか。

春名:商工会の経営指導員としてやっていた業務は、企業の税務・労務など「過去に関する手続き」なんです。でも、経営指導員である以上、「未来の意思決定に関するご相談」に乗れなくてはいけないと思います。大学院でマーケティングではなく、組織経営を専攻したのは、製品(商品、サービス)を世に出すまでが経営者の意思決定の範囲なので、製品自体を放っておいてはいけないと思ったからです。製品を作るのは組織です。市場のニーズに合った製品を作ることが大事で、ひとたび製品が市場に出たら、その製品の取捨選択は市場の原理でお客様が決めること、と考えました。

― 大学院でもっとも印象深かった学びは、何でしょうか。

春名:経営は経営者自らではなく、人(従業員)にしてもらうもので、そのためにリーダーシップやモチベーションの理論が大切だということです。人に気持ち良く働いてもらうことこそ、売上と利益を上げる方策であり、「どうしたら人は動くのだろう?」と自問自答し続けることが重要なんです。

― 大学校や大学院、これまでの経営指導員としての経験を経て、現在ご自身のミッションとして掲げていることはありますか。

春名:2つあります。1つは、経営者にとっての本質的な課題を見つけ出し、解決策をご提案することで、もう1つは、若手の経営指導員の育成です。

1つ目に関しては、中小企業の7割は赤字ですが、そこから脱却するには売上・利益を上げなくてはならない。既存事業だけでは埒が明かないから、新規事業が必要です。そこで始めたのが、岡山経営革新塾です。従来の塾は、レクチャーして終わりでしたが、当塾は、講師と現場の経営指導員、私が開講前に参加企業を訪問して状況把握を行います。そのうえで塾に臨み、より実践的な内容をレクチャーしているのですが、この取組みを私たちは、ストアコンパリゾン(コンパリ)と呼んでいます。コンパリの由来は、「比較する」からです。業界標準値や同業他社の数値と比較して、現状把握をする。労働分配率が適正か、原価率はどうか、といった具合です。次に、経営革新計画の概要として、講師の助言をもとに経営指導員が計画のスキームをA4用紙1枚に書きます。それをもとに、経営者と経営指導員で経営革新計画を作成するのです。

― 経営革新計画の実績は、いかがでしょうか。

経営革新塾
塾で発表(受講生と指導員)

春名:平成22~23年で27社の承認。経営革新計画の参加企業は、50社程度です。経営革新塾は、地域密着型で支援する経営指導員のスキルアップにもつながりますから、それ以外の波及効果もあります。

― 経営革新計画承認後のフォローアップについては、どのようにクリアしていますか。

春名:私たちは、経営革新計画には「構想→基本→実行」の3つのフェーズがあると捉えています。提出が求められる経営革新計画の書類は、基本と実行の中間くらいです。フォローアップは、実行計画を書き、その進捗を管理することで、具体的には、事例企業を紹介して経営指導員が同行したり、計画実施にあたって必要な情報を提供したりすることです。実行フェーズにおいては、指導員がやることと事業主がやることをちゃんと線引きすることが重要ですね。

― 承認が下りた経営革新計画の事例を教えてください。

春名:ケーキの製造小売業が、スーパーをターゲットとした製造卸売業に転換した事例です。あるシフォンケーキ店が、薄くて大きなお弁当箱サイズのケーキを開発し、家族や友人皆でつまめるケーキをコンセプトに398円で販売しました。自店だけで売っても大きな売上は期待できないので、スーパーに販売することにしたところ、地方百貨店や大手スーパーなど、みるみるうちに販路が広がりました。

― もう1つのテーマ、若手の育成についてはどのような取組みをされていますか。

春名:若手の育成については、経営指導員に学んだことを実践してもらう組織的な仕組みが必要と考え、平成20(2008)年に実践コンサルツール研究会を発足しました。最初は、小規模事業者の事業再生と、ITを活用した販売手法をテーマに取り組みました。でも、事業再生案件において、遊休資産を売ってB/Sを改善できても、P/Lを改善できなくては意味がない。そのためには、新規事業が必要と考え、経営革新計画についての勉強会を始めました。専門家の先生について、経営指導員が中小企業を訪問することからスタートし、平成22年からは事業者向けに経営革新塾を開講したのです。

平成23年には、経営支援においては、業種別に適切な提案ができなくてはいけないということで、手始めに流通業から着手し、専門家の先生との同行や事業者向けの塾の開講を行いました。あくまで実践形式ですから、参加事業者が事例企業を訪ねて話を聞き、後日塾で報告してもらう形式をとりました。経営指導員も、同行や発表を行います。

直近のテーマは、事業再生にかかわる法律です。小規模事業者は、法律についてあまり知識がないケースが多くて...。近年は事業再生の相談件数が増加していますが、従来の労務・税務などの支援を行ううえでは、ニーズのなかった債権回収や労働紛争などの知識も求められます。そこで、弁護士の先生を講師としてお招きし、「経営指導員がやっても非弁行為にならない経営相談の対応」を学びました。

まとめると、平成24年は、業種で言えば流通と製造業、建設業の3業種にかかわる事業再生と経営改善(経営革新を含む)、専門領域で言えば法律、これらの4本柱で実践コンサルツール研究会を運営してきました。

― その効果は、いかがでしたか。

春名:平成23年から、経営指導員だけではなく、その他の職員にも参加してもらっているのですが、商品構成グラフの分析をさせると、課題抽出まではできるレベルに育っています。具体例を挙げると、「あるスーパーの利益率が悪かった。改善しなくてはいけない」と、ここまでは誰でもわかることです。ここからもう一歩踏み込んで、「まず、客単価と客数を上げなくてはいけない。そもそも在庫の点検は、どうしているのか? 在庫点検が不十分なら、よく動く生鮮3品の在庫管理だけを徹底してやりましょう」といった程度の改善提案であれば、皆できるまでに育っています。

(つづく)

【参考】

団体名 岡山県商工会連合会
所在地 〒700-0817 岡山市北区弓之町4-19-401
ホームページ http://www.okasci.or.jp/
E-MAIL shokoren@okasci.or.jp
TEL 086-224-4341
FAX 086-222-1672