中小機構のナレッジリサーチ事業

事業承継に係る親族外承継に関する研究

−親族外承継と事業承継に係るM&Aの実態−

1.急増する親族外承継に焦点をあわせた研究

 少子高齢化社会の到来で、中小企業の事業承継問題が改めて重要な課題となっている。従来、中小企業では、経営者の子等が事業を承継する親族内承継が一般的であったが、近年、子等の親族が承継を嫌うなど、親族外への承継の割合が増えてきている。しかし、親族外承継には親族内承継とは異なる多くの障害や課題もあり、その承継にやり方を間違えると、廃業や清算に追い込まれる危険性も多いものである。

 そこで、平成19年度は親族外承継に焦点をあて、その実態と円滑な親族外承継を進めるための条件や公的支援機関の役割を探り、親族外承継を進める中小企業への承継対策に役立つものとした。

 さらに、親族外承継のうちのM&Aによる事業承継がM&A市場の整備などによりM&A件数も増加傾向にあり、その実態を分析するとともに経営者のM&Aに対する考え方や取り組みについても分析を行った。

2.アンケート調査とヒアリングで分析

(1)親族外承継について、「親族外承継に係るアンケート調査」を実施し、同時に「M&A企業へのアンケート調査」及びヒアリングを行った。
  • 調査対象:関東・東海・近畿地域で親族内の後継者が不在または後継者を決めていないと推測される中小企業(製造、建設、卸・小売業、サービス業)
  • 調査対象数:3,500社
  • 調査期間:平成19年11月14日〜12月7日
  • 調査回収数:592件(回収率16.9%)有効回答数:318件(有効回収率9.1%)
(2)M&Aに係るアンケート調査概要
  • 調査対象:日本M&Aセンター等を通じてM&A実施した企業 46社
  • 調査期間:平成19年12月4日〜12月20日
  • 調査回収数  24社(回収率52.2%)

3.アンケート調査結果からみる親族外承継の実態

(1)親族外承継の実態

 大半の経営者は「事業を承継したい」と願っているが、そのほとんどが後継者候補がいないか、決めかねていることが分かる。そのうちの半数は、社内の役員・従業員への承継に期待をかけているが、まだ、専門家への相談もできないで経営者一人で後継者問題を悩み、誰にも相談できない状況にある。

1)ほとんどの中小企業が、事業承継を希望
 約8割の中小企業は、「是非、事業を承継したい」(45.8%)、「できれば事業を承継したい」(35.3%)と考えている。これらの中小企業の半数は、他社よりもコア技術・サービスが強く(「強い」(9.2%)、「やや強い」(36.3%))、「3期連続資産超過」(50.2%)と財務基盤も健全な企業である。
2)ほとんどの経営者には、配偶者、子供もいる。しかし、「後継者が決まっている」は15.8%にすぎない。
3)大半の経営者が後継者候補を探していたり、決めかねている。
 「親族内に候補者がいるが、まだ決めていない」10.6%、「親族外に候補者がいるが、まだ決めていない」24.5%であり、後継者を決めかねている経営者は、35.1%ある。他方、「後継者候補を探している」が31.6%、「後継者がいない」は17.4%で、後継者候補がまだ見つからない、いないで約半数あり。
 つまり、84.2%の経営者は、後継者問題で苦悩していることが分かる。
4)後継者を決めていない経営者は、社内の従業員・役員への承継を期待
後継者で悩む経営者は、「できれば親族内で承継」は10%で、他は「従業員・役員へ承継するつもり」47.4%、「会社を売却したい」15.7%、「外部から招聘」6.1%で、後継者不在で悩む経営者の半数は、社内の従業員・役員へ事業を承継することを期待している。
5)事業承継問題を「公的機関」へ相談する割合は僅かである。
事業承継について相談する相手は、「税理士・会計士・会計事務所」が35.6%と最も多く、次いで「家族」27.4%、「友人」25.2%となっている。しかし、「商工会議所・商工会」3%、「公的機関」2.2%で、公的機関の専門家への相談は、わずか5.2%にすぎない。
 事業承継問題は、企業経営と経営者個人(家族を含む)の側面の問題が混在しており、相談者(経営者等)と相談される者(専門家等)との相互の信頼関係が構築されないと、相談しにくいと感じる経営者が多いと言えよう。
(2)M&Aや社内の従業員・役員への事業承継(MBO)への考え方

 後継者不在などで悩む経営者は、事業承継の方向性として、親族内の後継者は断念し、親族外に後継者を求めているが、それも大きなハードルがあり、それをどのように乗り越えていくかが課題である。

 例えば、社内の従業員や役員への承継も、「後継者として育たない」「事業承継に係る資金手当が困難」など、円滑に承継が進まない企業も半数以上ある。

 また、会社を売却して、事業承継をすることも「関心がある」企業も多いが、「M&A知識が乏しく」「信頼ある相談者がいない」など、M&Aへ踏み出すにも、課題が多いことが言える。

1)M&Aの関心度
M&Aに「関心ある」は60.3%あり、「関心なし」は26.6%ある。ただし、M&Aは、「身売りのイメージ」「自社とは関係ない」「専門知識がない」などの理由でM&Aに関心を示さない経営者もいる。
2)M&Aの経験は、28.1%あり。7割はM&Aの経験なし。
3)M&Aへの心理的な抵抗感は、「非常に抵抗あり」(8.3%)「抵抗がある」(22.3%)と、「抵抗感あり」が3割を占める。
4)M&Aの希望事項については、「雇用確保」(77.7%)「会社発展](58.1%)を希望する経営者が多い。
5)M&Aへの考え方
「M&Aの知識が乏しい」「信頼できる相談者がいない」という考えの経営者が多い。
<M&A実行上について>
6)M&A実行上の障害は、雇用問題が第1(57.5%)、次いで「社員の了解」(37%)
7)譲渡希望価額は、約2〜4倍(27.3%)が多いが、バラツキあり。規模、地域は、特に問わない経営者が多い。業種は、同業者か関連業者への譲渡希望が半数以上あった。
<社員への承継、外部からの招聘>
1)社員への承継は、「資金手当が困難」51.6%、「育たない」43.7%。この2つが大きな課題となっている。
株式移転については、従業員へ承継しても、株式の大半を移転すると回答したのは僅か26%すぎない。
社外からの人材招聘は、「取引先」42.9%、次いで「金融機関」35.7%となっている。
(3)M&Aを実行した企業の実態
1)企業特性
 M&Aを実行した企業は、規模が小さく、業種も多様であった。ただし、M&Aができる企業の条件として、「利益は黒字かトントン」「資産超過であること」「同業他社よりは競争力が同程度以上」が必要であり、債務超過状況ではM&Aはむずかしいことが分かった。
2)経営者の特性
 経営者の年齢は、60代、70代が大半で、創業者オーナーが主体。社長の就任期間が30年以上である。親族に後継者候補の子供はいるが、「子供が承継しない」又は「承継をさせない」と判断している。
3)M&Aの選択の心理
 M&Aに対する「心理的抵抗感はない」経営者がほとんどで、自分の会社存続には、有効な手段と考えている。そのため、後継者が不在のため、M&Aを選択した。M&A前には、社内人材も後継者候補に考えたが、それが上手くいかず断念している。また、M&Aの経験少なく、M&A専門会社へ相談している企業がほとんどであった。
4)M&Aの希望する条件
「社員の雇用の確保と労働条件の維持」がM&Aの希望の第1条件であり、次いで、「取引先に迷惑をかけないこと」、「社長の債務保証を解除してほしい」という3条件がM&Aの基本的な条件であり、これがクリアできることが不可欠と考えている経営者がほとんどであった。
5)M&A先を決めた要因
 「社員の雇用確保ができた」「譲渡先が信頼のおける会社であった」と大半の企業は、2つが満たされた時にM&Aを決意している。
 また、M&A実行上での障害は、半数が「とくになし」としている。一部、「譲渡価額」が低い障害あり。
6)M&A先の規模は自社より大きい企業がほとんどで、業種は同業、関連業である。
7)M&Aを実施した経営者の高い満足度
 M&Aへの総合評価は、「非常に満足」42%、「やや、満足」29%とM&A実行で高い評価をしている。その満足度の理由は、「社員の雇用確保できた」88%、「譲渡価額に満足」59%であった。
 ただ、譲渡価額が予想より低かった、経営理念が引き継がれなかったなどでの不満であった企業も一部あった。
8)ほとんどの企業が、M&A後も業績は順調に推移している。業績低迷は8%〔2社〕のみであった。
9)半数の経営者が、「前の会社の顧問、会長」などで何らかの形で事業とのかかわりをもって引継ぎでおり、「全く引退」した者は、4分の1である。

4.まとめ

(1)親族外(社内、社外)の事業承継

大半の経営者は「事業を承継したい」と願っているが、そのほとんどが後継者候補がいないか、決めかねていることが分かる。そのうちの半数は、社内の役員・従業員への承継に期待をかけているが、まだ、専門家への相談もできないで経営者一人で後継者問題を悩み、誰にも相談できない状況にある。

しかし、社内の従業員や役員への承継も、「後継者として育たない」「事業承継に係る資金手当が困難」など、円滑に承継が進まない企業も半数以上ある。

また、会社を売却して、事業承継をすることも「関心がある」企業も多いが、「M&A知識が乏しく」「信頼ある相談者がいない」など、M&Aへ踏み出すにも、課題が多いことが言える。

(2)親族外承継を円滑に行うために公的機関が担う役割

親族外承継への公的機関への期待する経営者は少ないのが現状で、かつ公的融資制度などについても不十分な点も多い。そこで、以下の点について公的支援制度の充実。強化が求められる。

  • 事業承継向けの融資制度(低利、長期融資制度)やファンド制度の充実
  • 後継者候補マッチング制度などの整備
  • 事業承継税制の周知と見直し
  • 専門家による事業承継に係るアドバイス

また、事業承継に係るM&Aについては、公的機関では、事業承継の選択肢の1つとして「M&Aの啓蒙普及」「M&A情報の提供と斡旋機能」の充実、専門家派遣や窓口相談によるソフト支援、業承継ファンド・融資制度の充実が必要である。

なお、平成20年度の創設される事業承継センターなど窓口相談や専門家派遣支援が親族外の事業承継への大きな役割を果たすものと期待されている。

関連情報

「事業承継に係る親族外承継に関する研究」(平成20年3月)

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