医療・福祉/中部・北陸 「精密鋳造法による世界初形状記憶合金脳ベラの製造販売」

コアは形状記憶合金の精密鋳造技術

 形状記憶合金の鋳物を使った脳外科手術用器具「脳ベラ」を開発する。脳ベラとは、脳の奥にある腫瘍(しゅよう)などを切除するために、脳を開いた状態で固定する器具。使う時は患者の脳の形に合わせて曲げ、使用後は木づちなどで元の形に戻す。ただ、現在はステンレスや真ちゅう製が主流であるため、10−20回使うと完全に元の形に戻すのは難しく、廃棄していた。

 今回開発する脳ベラは変形させても、あらかじめ設定した温度になると元の形に戻るという形状記憶合金の性質を利用した。脳ベラは使用後に熱湯で滅菌消毒するという点に着目、滅菌消毒する温度で元の形に戻る形状記憶合金を採用した。これによって100回以上は使用が可能になるという。

 価格は2万−10万円と、既存製品の2−3倍程度で販売する。1回の購入価格は従来に比べて高くはなるが、使用期間が長いためトータルでみれば、「購入者側のコストが大幅に増えるわけではない」(吉見社長)としている。また、熱湯に浸すだけで元の形に戻るため、現場の作業軽減にも役立つ。

(株)吉見製作所


会社名
役割分担
■コア企業
(株)吉見製作所
製造/販売
東洋製鋼(株)特殊表面加工
(株)アートジャパン精密鋳造/加工
(株)三重ティーエルオー評価/技術提供



(株)吉見製作所<br>吉見幸春社長

(株)吉見製作所
吉見幸春社長

【他社との連携に積極的】

 吉見製作所は、金属加工の東洋精鋼、鋳造会社のアートジャパン、三重ティーエルオーと共同で、形状記憶合金製の医療器具「脳ベラ」の開発に取り組んでいる。もともと形状記憶合金の釣り糸やバネなどを製作していた吉見製作所は、大学や他社との連携に積極的に取り組んできた。同社の吉見幸春社長は「中小企業が社外の知識や技術を活用するのは、自然なこと」とキッパリ言い切る。

 脳ベラ開発の核となる技術が、形状記憶合金の精密鋳造技術。形状記憶合金は粘度が高く切削加工が難しいため、複雑な形の製品はつくりにくかった。吉見製作所は三重大学と共同で、形状記憶合金の原料であるチタンとニッケルを均一に融合させ、これを溶解して鋳込む鋳造技術を開発。切削加工でなく、鋳造で複雑な形状をつくることに成功した。2004年には同社と三重大、三重ティーエルオーと共同で特許を出願している。

 しかし鋳物は、一般の鉄鋼に比べて強度や耐久性がやや低いという弱点がある。これを解決するノウハウを持っていたのが東洋精鋼だった。
 その東洋精鋼は、鋼球を対象物に当てて金属の強度を上げるショットピーニング加工の機械の製造と加工を手がけている。米ボーイングの認定工場でもあり、その技術レベルは折り紙付きだ。形状記憶合金の鋳物に、東洋精鋼のショットピーニング加工を施すことで、医療器具として耐えうる強度が得られた。

 もう1社のパートナーであるアートジャパンは、チタン製メガネ部品を生産する精密鋳造メーカー。鋳造技術に精通しており、形状記憶合金により精密な鋳物をつくる技術開発に力を発揮した。


【2006年3月にも商品化】

 吉見社長は今回の新連携計画認定以前から、外部との連携に積極的だっただけに「今さら新連携と言われてもピンとこない」(吉見社長)というのが実感だとか。それでも「経済産業省のお墨付きが得られたため、実際に商品を医療現場で販売する時に信頼が増す」(同)と新連携認定の価値を認めている。

 さらに、計画の申請書をつくる作業の過程で、より相手のことを知ることができたという。また、新連携の認定によって東洋精鋼が、商工中金名古屋支店から300万円の融資を受けることができ、資金面でのメリットもあった。

 吉見製作所が以前から医療器具開発を目指していたこともあり、2006年3月にも「脳ベラ」の第1号商品が発売できる見通し。それは帯状の単純な形状だが、2006年夏以降には鋳造でフォークのような複雑な形状のものも商品化できる見通しだ。
 そして医療機器を専門に扱う商社とのパイプを構築して、3年後には年間売上高約1億8000万円を目指す。