製造/関東 「「マイクロ蛇腹溝応用製品の開発と事業化」」

独自のパイプ加工技術を蓄積

 家電製品の銅管加工製品や熱交換器、自動車のカーエアコン向けアルミ冷媒配管やエンジン吸気管などの製造を手掛けている日冷工業。国内はもとより、94年に中国現地法人の「上海日永金属有限公司」を設立し、日系進出企業向け生産を展開している。

 創業は1958年。当時は冷蔵庫やショーケースの冷凍サイクル修理、アフターサービスを手掛けていた。しかし製品構造の変化により冷凍サイクル修理が減少したため、開発力強化を狙い、パイプ加工技術を磨いた。80年代に家電メーカーからの受注を増やし、事業を軌道に乗せた。

 さらなる転機を迎えたのが04年。テーマは自社製品の「マイクロ熱交換器」。東京大学大学院工学系研究科の鹿園直毅准教授と連携し、約4年間かけてマイクロ熱交換器を組み込んだ冷却ユニットの試作品を開発した。

 販路などの面で量産化は実現しなかったが、同時並行でもうひとつの芽が伸びていた。それが独自の蛇腹溝構造を採用した「マイクロ気液分離器」だ。06年度に新連携事業の認定を受け、07年に実用化にこぎ着けた。

 モノづくり企業として、さらなる経営革新を繰り返しながら“技術開発型企業”を目指す。新コンセプトの気液分離器はこのための足がかりとなっている。

日冷工業(株)


会社名
役割分担
■コア企業
日冷工業(株)
気液分離器の設計・製造、応用製品の新規開発設計、販売
(株)多賀製作所蛇腹溝の開発・製造、加工金型の設計・製作
(株)トチバン加工技術開発・製造
(株)郷インテックス性能評価試験、応用製品の共同開発、販売



日冷工業(株) 上杉昌弘 代表取締役社長<br>「新コンセプトの気液分離器は蛇腹溝の表面張力を利用し、気体と液体を分離します。これにより3-5%の省エネルギー化が実現できます」

日冷工業(株) 上杉昌弘 代表取締役社長
「新コンセプトの気液分離器は蛇腹溝の表面張力を利用し、気体と液体を分離します。これにより3-5%の省エネルギー化が実現できます」

【小型の気液分離器で省エネルギー化】

 「家電、自動車の両分野と並ぶ第3の柱に育てたい」。上杉昌弘日冷工業社長は冷凍サイクル向けマイクロ気液分離器を手に取り笑顔で話す。

 同器は気液冷媒を液体とガスに分離する部品で、東京大学大学院工学系研究科の鹿園直毅准教授と共同開発した。気液冷媒が通過すると表面張力によって溝の間に液体冷媒を保持する「マイクロ蛇腹溝」を採用したのが特徴だ。

 通常、エアコンは室内側の熱交換器に冷媒を流す。だがガスも混入してしまうため、冷房効果を損なうという課題があった。しかし気液分離器を組み込むと、ほぼ100%の液体冷媒を流せるため「圧力損失が低減し、3−5%の省電力化を見込める」(上杉社長)という。

 量産化した気液分離器は直径35mm×高さ70mm、重量160g。従来品と比べて小型・軽量化も実現した。熱交換器の小型化により、エアコン本体をコンパクト化できる。

【ヒントは折り紙】

 アコーディオンのような蛇腹溝のヒントは折り紙だった−

 開発当初は、真ちゅうを削って細かい溝を加工していたが限界があった。設計を支援した鹿園准教授は「表面張力の効果を高めるには溝の数を増やす必要があった。約1年半の検討の末にたどり着いたのが折り畳んで内側に貼りつける折り紙だった」と解決の糸口を振り返る。

 しかし、開発は遅々として進まなかった。「単純構造だからこそ奥が深い。溝の最適値を探り出すため、試行錯誤の日々が続いた。少しの誤差で性能が大きく変わってしまう。0.05mmといった薄い銅板を高精度に加工する技術も必要だった」(上杉社長)。

 そこで同社と同じくある大手メーカー向けの部品を手掛けていた多賀製作所、トチバン、郷インテックスの3社と連携した。日冷工業が設計と組み立て、多賀製作所が蛇腹加工、トチバンがプレス加工を手掛けた。また郷インテックスと全国販売網を築いた。


【量産体制を構築】

 07年、多機能型流体制御装置(マイクロプロセスサーバ)の濃縮用チップにマイクロ気液分離器の理論が適用された。開発から実用化まで約4年の歳月を費やした。08年には冷凍サイクル向け技術を確立した。

 すでに本社工場で年産12万台の量産体制を構築しており、家庭・業務用エアコンへの採用提案を積極化する。4年後には事業規模10億円を目指している。

 上杉社長は「機種ごとに短期間で設計できるノウハウを積み上げた」と自信を見せる。08年度の日本冷凍空調学会年次大会では「表面張力を利用したコンパクト気液分離器の実用化研究とシリーズ化」の論文を発表した。

 気液分離器は冷凍サイクル以外に燃料電池、水素ガス精製装置など幅広く使われるだけに、これらも視野に入れながら高付加価値製品を生み出そうとしている。