製造/関東 「薬品を使用せず、インキと水でオフセット印刷する装置の事業化」

オフセット印刷の課題に挑戦

 日本平版機材(東京都中央区)は、印刷の仕上がりをチェックする濃度計や測色計、それらに対応する独自開発のカラーマネジメントソフトの販売を行っている。武井満社長はフィルムメーカー最大手のコダックで写真技術の研究に携わって以来、40年間色彩の専門家の道を歩んできた。

 今回の連携の背景には、今まで300社以上の印刷会社に色彩のコンサルティングを行うなかで生まれた疑問がある。「印刷機や印刷技術がどれだけ進化しても、インキのにじみや退色が起こり、印刷品質が安定しないのはなぜか」。

 印刷方式の主流であるオフセット印刷は、水と油(インキ)の反発を利用して行う。印刷版の画線部にインキを定着させ、非画線部には有機溶剤を加えて表面張力を低下させた水、「湿(しめ)し水」で水膜を作る。つまり両者が反発することで絵柄が構成される。

 研究の結果、この湿し水が印刷品質に影響を与えることがわかった。湿し水に加える有機溶剤がインキと触れる際に化学変化を起こし、色彩が崩れてしまう。有機溶剤を使わず、水の表面張力を下げられないか。

 試行錯誤の末、光触媒と磁気を利用し、薬品を使わず水道水の表面張力を下げる装置「てんとうむし801」の開発に成功。装置の普及促進に向け、3社での連携体を構成した。

日本平版機材(株)


会社名
役割分担
■コア企業
日本平版機材(株)
装置設計・開発・販売、事業統括、販売戦略策定・実施
東邦精機(株)装置製造・販売
J企画装置部品の輸入および湿し水に関わるノウハウ等提供、技術支援



日本平版機材(株) 武井 満 代表取締役<br>「光触媒水処理機構と水質磁気処理技術ユニットの高度応用技術によって誕生した「湿し水製造循環装置」で、オフセット印刷は無薬品・無溶剤の時代に突入しました」

日本平版機材(株) 武井 満 代表取締役
「光触媒水処理機構と水質磁気処理技術ユニットの高度応用技術によって誕生した「湿し水製造循環装置」で、オフセット印刷は無薬品・無溶剤の時代に突入しました」

【水道水で高品位なオフセット印刷】

 装置は光触媒装置と磁気発生装置から成り立つ。まず光触媒の酸化チタンを用いたフィルターに水道水を通し、上部から紫外線ランプを照射させ不純物を取り除く。

 次に水を磁気発生装置に送ると水の表面張力が低下し、有機溶剤を混ぜた湿し水と同性能の水が生成される。後は処理された水をそのまま印刷機に供給するだけ。装置は既存のオフセット印刷機の湿し水タンクに後付けして使用できる。

 薬品を使用せず、水道水でオフセット印刷ができるメリットは大きい。薬品代がゼロになるためコスト削減効果が得られ、環境にも優しい。またタンクへの湿し水補給業務や、排水時の中和処理の手間も省ける。

 そして何よりも印刷品質の上昇効果。インキと有機溶剤が化学変化を起こすことがないため、従来より微細な表現が可能になり、コントラストも鮮やかになる。

 05年に試作機が完成し、さまざまなメーカーの印刷機を使いテストした。「試験に協力してくれたどの印刷会社も、水道水で印刷ができるわけがないと半信半疑だった」が、印刷の仕上がりに驚き、すぐこの製品が欲しいと言う企業もあった。

 市場性を確信し事業化に乗り出したものの、日本平版機材は生産設備を持たない。そのため印刷機械装置の製造を手がける東邦精機(東京都品川区)に製造を依頼した。また20年間湿し水の研究を行い、磁気発生装置のノウハウも豊富なJ企画(兵庫県西宮市)が技術支援を行う。ほかにも宇部興産の光触媒チームや、大阪府の印刷会社ダイムが事業を支援している。


【国内外メーカーからも高評価】

 08年1月に「てんとうむし801」の名前で製品化してから、印刷会社やインク会社計数十社から引き合いがあり、デモ機の販売を進めている。8月には製品販売会社として東京リソサプライ(東京都中央区)を設立、同時に米国法人も開設した。海外からの問い合わせも多く、年明けから米国や台湾、スペインでテスト運転を行う予定だ。

 「一番のネックは、お金がないこと」と苦笑いする。現在は月産5台が精いっぱいで、デモ機の製作も間に合わない状態。しばらくは厳しい状況が続きそうだが、事業の将来性を見込み資金提供をしてくれる金融機関も増えている。

 もうひとつの課題は学術的な裏付けだ。装置の結果は目に見えて出るが、なぜ表面張力が低下するのか、その原理はよくわかっていない。同社は神奈川県産業技術センターと千葉大学大学院に原理調査を依頼している。

 印刷業界も環境対応の大きな流れの中にあり、「数年後に有機溶剤が規制されることは間違いない」という。同社は今後2年間で100台の国内販売を目指す。