製造/近畿 「医学的見地から生まれた『一体構造』のオーダーメード靴を店舗とITを活用して販売」

義肢装具士が開発する世界でただ一つのシューズ

 しんけん(大阪市天王寺区)は、フットベッド(インソール)と木型(ラスト)を一体化させるユニオン構造のゴルフシューズを企画。連携体であるパンキフ(大阪府門真市)とともに世界でただ一つの、足にぴったりフィットし、短納期・低価格のオーダーメードのオリジナルシューズを製造する。

 しんけんの本業は健康グッズ総合サイト「情熱ドットコム」という名のインターネット通販。今回のオーダーメードシューズ事業もそのノウハウを生かし開発したもの。「世界にひとつの足に靴を合わせる」のコンセプトのもと、子会社の銀座大賀靴工房(東京都中央区)を通じて販売している。

 銀座大賀靴工房(ぎんざたいがくつこうぼう)の店舗では、まず顧客の靴に関する悩みや要望をきめ細かくカウンセリングする。次に3D(立体)スキャナーを使用して、立位と座位の2パターンで左右それぞれの足を計測。その後、木型の形状、皮革の種類や色、アウトソールの仕上げなどデザインの詳細を決定する。

 3Dスキャナーを使って計測した足のデータは、連携体である義肢装具メーカーのバンキフ(大阪府門真市)へ送り、カナダ製木型専用切削機で木型を作る。外部メーカーがこの木型をもとに靴を製造。透明ビニールで作られたチェックシューズで店舗で仮合わせを行った後、5〜8週間で納品する。

 1足目の製作は来店になるが、マイラスト(靴の木型)を一度つくっておけば本人のデータが登録される。そのため2足目以降は遠方に住んでいてもインターネットを通じて自由に何回でもオーダーできる。

(株)しんけん


会社名
役割分担
■コア企業
(株)しんけん
企画・販売(店舗運営)
(株)パンキフ製造、医学指導



(株)しんけん 井場元伸幸代表取締役<br>「この新事業をきっかけに、たった一度の来店で、その後はネット利用で手軽に、満足できるショッピングを多くの人々が楽しめるような『クリック&モルタル』のビジネススタイルの確立を目指します」

(株)しんけん 井場元伸幸代表取締役
「この新事業をきっかけに、たった一度の来店で、その後はネット利用で手軽に、満足できるショッピングを多くの人々が楽しめるような『クリック&モルタル』のビジネススタイルの確立を目指します」

【ネット専業企業がリアル店舗を出す「クリック&モルタル」の新事業】

 しんけんは01年から、健康食品などのネット販売事業を行っていた。井場元伸幸社長は「インターネットはだれもが使う。どう使うかが問題だ」と言う。

 そこで井場元社長が目を向けたのがヤフーの検索エンジン。オーダーメードシューズのニーズを読み取った。「顧客がネットで探すのは、オーダーメードシューズがどこで売っているかわからないことだった」という。

 そんな時、知人から義肢装具メーカーのバンキフ(大阪府門真市)の紹介を受けた。同社は冨金原義肢の医療靴部門を分社した会社であり、足に関する医学的知見、経験を蓄積してきた。身体に障害がある人に対して、身体機能を回復させたり筋力低下を防いだりする装具や、身体の一部を失った人の義肢を製造している。

 同社の一人ひとりに合わせた形状を作り出す高い技術力に魅せられて連携体を構成。医療機能を兼ね備えたオーダーメードシューズの共同開発に着手した。06年8月には東京・銀座に銀座大賀靴工房をオープンし、07年7月に新連携の認定を受けている。


【足の裏の凹凸まで精密に削れる木型切削機】

 銀座に店舗を出すのは「老舗の中の老舗を背負うほどの冒険だった」(同)という。しかし単価の高いモノがよく売れる利点に加え、地方の人が足を伸ばしやすいという立地条件から、思い切って決めた。宣伝広告費はほとんど使わない同社だが、銀座店舗の「家賃が広告費」と考えているほど、銀座という場所にこだわりを持つ。

 なお、この「銀座大賀靴工房」は、従来の「店舗を持っている店がネット通販を行う」ではなく、ネット専業企業がリアル店舗を出す、従来にない「クリック& モルタル」の新事業である。

 こだわりはブランド名にも表れている。「人が天を突き抜け、お金が増える」という縁起を担いでブランド名に「大賀」を取り入れた。同店のシンボルで雲に乗る虎(とら)を黄金色で印刷したシューズを梱包する黒いパッケージには高級感が漂い、消費者の高級品志向をくすぐる。

 製作は最新3Dスキャナーで足の裏の土踏まずなどの凹凸も正確に計測。そのデータを基に切削機でラスト(木型)を削りし、これに数々のデザイン、素材、色、縫製を好みで選んだ上で完成となる。従来のオーダー靴で実現できなかった足とインソール、インソールと靴の間をフィットさせる一体構造(ユニオン構造)という技術的な成果も連携体で生み出された。


【一度の来店、2足目からはネット通販。リピート率は60%以上】

 初めて製作する場合は、木型製作費込みで14万8,000円〜。一見すると決して安くない価格だが、その機能に魅せられて来店する人も多く、月に10〜20足は売れるほどの店舗に成長した。また2足目以降は7万円程度から購入でき、リピート率は60%以上を誇る。

 08年2月には新連携の助成を受けてゴルフシューズを開発。最大の売りは、究極のグリップ性と安定性。アドレス時に腰がぶれず、スウィングの軸と土台を固めるとともに専用インソールでゴルファーの足の裏でしっかりとパワーを受け止めるアナトミカルラストシェープ(解剖学的見地からのラスト設計)だ。

 パワーロスを防ぎインパクト時に最大のエネルギーを放出できるように設計され、オーダーメードならではの履き心地の良さで疲労も軽減する。日本製の100%牛本革を使用し、撥水加工も施されている。

 土屋光司プロや小達敏昭プロが愛用し、「長年探し求めていた理想的なシューズにやっと出会った」とそのフィット感を雑誌などで絶賛。玄人にも受ける作りで、短期間で同店の看板商品となった。

 08年秋にはフランチャイズチェーン(FC)展開がスタート。札幌と名古屋にそれぞれFC店を開設する予定。東京・銀座にある同店の事業が好評で、引き合いが多いためだ。

 FC店舗には3年以内にシューフィッターを少なくとも1人ずつ配置する計画。きめ細かなサービスを提供し、顧客開拓とブランド浸透を狙う。「インターネットをうまく活用したからこそ、小さな会社でもやって来られた」と井場元社長は満足そうに振り返る。